3 炎の町トゥーパ
火の玉ウルフは、宙を舞う火球を操るオオカミ型の魔物と言われている。
その火球は身体の一部なのか、それとも常に魔法を使っているのかは不明。
火の玉ウルフと戦うときは、火球を魔法で吹き飛ばしながら本体を叩くのがセオリーだ。
しかし、今これをやると子供たちが狙われる可能性が高い。
カームは風の壁で火球を防ぎつつ、身体強化でウルフと戦うことにした。
しかし、同時に複数の魔法を操りながら剣を操るのは、熟練のキーパーでも簡単ではない。
得意な剣術で本体の攻撃は凌げるが、風の壁は不安定で、何度も火球を喰らってしまう。
ダメージが蓄積し、カームの意識が遠退きそうになったとき、火の玉ウルフの片目にナイフのようなものが当たった。
女の子が魔法でナイフを作って投げたのだ。
不格好なナイフは当たるのと同時に霧散したので、ウルフに殆どダメージはないが、意識を逸らすには十分だった。
カームは、その隙に渾身の斬撃を入れ、火の玉ウルフの首を刎ねた。
その後間もなく、別の場所で火の玉ウルフの群れを倒した守護者が駆け付けてきて、今回襲撃してきた魔物の殲滅が完了した。
しかし、10人ほどしか入れない町の治療院に対し、怪我人は数十人。
かつてない惨事に現場は混乱している。
助けた女の子の家に治療設備があるそうで、カームはそこに運ばれた。
助けた女の子の名はレイム。
村長の又姪で、村ではちょっと良い家のお嬢様だった。
10歳にしては魔法が使える方で、ずっとカームの手を握りながら回復魔法を使っている。
レイムの父・村長の弟「今回は娘を助けてくれて本当にありがとうございました。」
「お怪我が酷いようですし、今日はこの家で療養してください。」
カーム「この子の回復魔法が結構良い感じなので、すぐ回復しそうですけどね。」
「10歳くらいですか?優秀ですね。」
レイムの母「お礼もしたいので、試練が終わるまで何日でも泊まってください。」
「襲撃の被害が大きいので、試練は明日以降になると思いますから。」
「この子、レイムは9歳です。いつもはもっと喋るんですけどね。」
「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの?」
レイムは顔を赤くしてカームに引っ付いた。
カームはこの子に凄く懐かれたようだ。
それから1時間ほどでカームの傷は完治した。
レイム「良かったら、デート、じゃなくて町を案内したい。」
カーム「それはありがたい。案内、じゃなくてデートしようか。」
カーム(考えてみれば初デートか。)
(緊張しない初心者向けの・・・。)
レイムは、両親からカームをもてなす為に多めのお小遣いを貰った。
そのお金でトゥーパの名産を一緒に食べながら、施設を案内して回った。
そして、道中で子連れの守護者・リンガーに遭遇した。
リンガー「おう、新キーパー。随分無茶したみたいじゃねーか。」
「最初の町で死にかけるキーパーなんて聞いたことねーぞ。」
「キーパーが死んだら、封印が解けるかもしれない。」
「そうなれば、こんな町が滅びるよりももっと酷いことが起きる。」
「キーパーはそういう特別な存在だってことを、ちゃんと理解しろよ!!」
カーム(そうは言っても、あの場で見捨てる選択は俺には出来ない。)
カーム「解りました。」
「助けても無茶と言われなくなるように精進します。」
リンガー「良いねぇ。そういう目のヤツは中々死なねえ。」
「蛮勇は頂けねえが、町の子供たちを助けてくれたことは感謝してる。」
「良い守護者になれよ。」
「お前もこの兄ちゃんみたいなキーパーになれよ。」
リンガーは自分の子供・カリウの頭を撫でる。
カリウ「ヤダね、こんなヤツ。ボクは父さんみたいなキーパーになる!」
リンガー「おお、そうかそうか。」
「邪魔したな。じゃあ引き続きデート楽しめよ。」
レイム「待てカリウ!アタシがカームみたいなキーパーになるんだから!」
カリウ「バーカ!ボクと同世代のお前はキーパーになれないんだよー。」
レイム「ふん、負けないから!」
リンガー「ライバルの誕生か、良いねぇ。お前らがいればこの町は安泰だな。」
徐々に慣れて喋るようになったレイムに引っ付かれながら、カームはトゥーパ観光を楽しんだ。
炎の精霊具は鉤爪付き手甲の「業火双爪」。
故にキーパーを目指す子は格闘技を鍛えている。
カームはレイムの技を幾つか見せて貰ったが、9歳とは思えない技のキレに感心した。
魔法の才能はヒーラー寄りだが、この技があればキーパーを狙えるだろう。
日が落ち始めた頃、家に戻ると温泉に入るように促された。
トゥーパは温泉がある家が多いらしく、レイムの家にも専用の温泉があるようだ。
そして、いつの間にか今日のカームはレイムと一緒に入浴し、レイムと一緒に寝ることになっていた。
最初は何とも思わなかったが、徐々に妙な気持ちになってきた。
カームはその雑念を払いつつ、早めに就寝した。
実際、初めての命懸けの戦いで疲れていたのもあり、レイムより先に熟睡してしまった。