2 初めての冒険
ウミ「準備っても、あたしの弁当くらいじゃない?」
「子供じゃないんだから、旅で使う日用品くらいは魔法で出せるでしょ?」
カーム「何かさー。ニッグと微妙な空気になりそうだと思って、あの場から離れたかった。」
「普段なら良いけど、今日はそういう感じじゃなくお別れしたいからさ。」
ウミ「何か良いね、そういうお互い何でも解り合ってる感じ。」
カーム「ウミさんとヤマオーさんも似たような感じだよね。」
ウミ「うーん、大人はそんなにシンプルじゃないのよ。」
「普通に仲は良いけどね。」
ウミと軽く雑談しながら武器の手入れをし、一通りの準備を終えて村長の家に向かう。
キーパーの儀。
レンロラの宝、風神剣を預かる儀式。
村長の前で守護者のヤマオーから、カームに剣が手渡される。
村長はよく解らない呪文を唱えている。
割とあっさりとした儀式で、5分もかからなかった。
駆け出しのキーパーは風神剣を鞘から抜くことも出来ないが、旅を終える頃には自在に扱えるようになる。
そして、風神剣を使いこなして大霊獣を倒すことで、キーパーの任務は完了するのだ。
さて、いよいよ旅立ちのとき。
村人の大半が見送りに集まった。
ヤマオー「ここからまっすぐ東に向かうと、最初の目的地・炎の町トゥーパがある。」
「強い魔物も大した悪路も無いから、お前なら油断しなければトゥーパまでは安全だろう。油断しなければ。」
カーム「大丈夫だよ。初めての旅で無茶はしないって。」
「じゃあ、行ってきます。」
ニッグ「気を付けてな。」
カーム「ああ、お前の剣で試練を乗り越えてくるぜ。」
ニッグ「あっテメエ盗んだのか!いつの間に。」
カーム「滅多に使わないお前が持つより、俺が使った方が剣も喜ぶと思うぜ。」
「お前の代わりに旅に連れてってやるんだから、感謝しろよな。」
ニッグ「ちっ、さっさと行って早く帰ってこい。」
カームはニッグと村人たちに手を振りながら旅立った。
レンロラの付近にいる魔物は鳥系が多い。
鳥系の魔物は風魔法に弱く、風魔法が得意なレンロラの住民は容易に駆除出来る。
カームの微妙な風魔法も、鳥魔物だけには効果抜群だ。
カームはまだ、風神剣を武器として扱うことは出来ないが、キーパーとして特殊機能を使うことが出来る。
風神剣は1日6時間くらい魔物に認識されなくなるバリアを張る機能がついている。
キーパーが野宿する場合、このバリアの中で就寝する。
2日目の夕方頃から、鳥が減ってきて代わりに獣系と不定形が増えてくる。
獣系はオオカミやヤマネコ型が多く、不定形はスライム的な魔物で、炎が弱点。
風魔法も効くが、ここから先は剣が中心の戦いになる。
鳥魔物は何が美味いか知っていたが、ここから先は未知の領域。
この辺に毒性の魔物はいないので、食べて死ぬことはないが不味い魔物はいる。
道中、アンモニア臭がキツい肉を食べて吐くこともあった。
そして4日目の昼過ぎ、最初の目的地・トゥーパに到着した。
トゥーパは人口3千人ほどの小さな町だが、レンロラの人口は千人程度。
カームにとっては見たことのない大きな町、テンションが上がる。
まずは、門番のところに行く。
カーム「レンロラから来たキーパーです。」
そう言って風神剣を見せる。
門番「おっ来たな。元気そうなキーパーだな。」
「慣れない旅で傷付いたろう。」
「治癒飴を舐めながら、町長の家に行くと良い。」
「町長はあの一番高い建物にいる。」
カーム「ありがとうございます!」
治癒飴はトゥーパの名産。
舐めている間、自然治癒力が爆上がりする飴。
移動しながら身体の調子が良くなっていくことに興奮しながら、町長の家に向かう。
カーム「すいませーん。レンロラから来たキーパーでーす。」
町長「おお、よく来たな。」
「慣れない冒険で疲れただろう。」
「食事を用意するから、そこのソファーで休んでいてくれ。」
カーム(良いな、キーパー。)
(どこの土地でもこういう感じで歓迎されるのかな。)
カームが遠慮なくソファーでゴロゴロしていると、爆発音が聞こえた。
カーム「町長さん、大丈夫ですか?」
町長「町に魔物が入ったようだ。」
「町にも警備員がいるから、心配しなくても大丈夫だよ。」
カーム「俺もレンロラの警備してました。」
「困ったときはお互い様、加勢してきますね。」
カームは風を纏って宙を舞い、オオカミ魔物を倒しながら爆発音の場所に飛んでいく。
カーム「加勢に来ました。状況は?」
警備員「風のキーパーかね?助かった。」
「アイツは火の玉ウルフ。」
「炎魔法に耐性がある珍しい獣魔物だ。」
「周りの普通のウルフは僕らが相手をするから、アイツと戦って欲しい。」
中々に酷い惨状。
所々に倒れている人がいて、所々が燃えている。
そして、火の玉ウルフの後ろには逃げ場のない子供たち。
10歳くらいの女の子が幼児2人を抱えて立ち往生している。
カーム(この状況で子供を庇う子供か。)
(死なせたくないな、気合い入れないと。)
カームは空高く飛び、子供たちがいる場所に移動した。
カーム「よく頑張ったな。俺が庇うから今のうちに逃げるんだ。」
女の子「ごめんなさい。足が動かないの。」
カーム(恐怖で足がすくんでってことか。)
(ヤバいな、ミスった。)
(この子ら庇いながら戦うのは厳しいぞ・・・。)