1 キーパー決定戦
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城のような場所で、歴戦の戦士風の男カームと、魔術師風の男ニッグが対峙する。
カーム「ニッグ!今日こそ決着をつけてやる!」
ニッグ「カームか。少しは成長したのか?」
ニッグの両手が光り、無数のレーザーがカームを襲う。
カーム「精霊の試練を終えてきた。」
「今回は前の様にはいかないぜ!」
カームの風を纏った剣がレーザーを跳ね返し、ニッグに斬りかかった。
ニッグはそれを躱し、何もない空間から槍を出して応戦。
そこから激しい剣戟が始まる。
使命感に燃えるカームに対して、ニッグの顔は何処か寂しそうだ。
そんなニッグの顔を見たカームは一瞬戸惑い、その隙にニッグの槍がカームの肩を突いた。
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ウミ「カーム、そろそろ起きなよー。」
カーム「クソーー!ニッグの野郎!!」
カームは布団から飛び起きると、ウミにぶつかりそうになる。
ウミはそれを慣れた様子で避ける。
ウミ「またニッグと戦う夢見てたのー?」
「いよいよ、今日がキーパーを決める日だもんね。」
ここは風の谷レンロラ。
この村は、厄災の封印を維持する役割を持った6つの地の一つ。
今日は6年に1度の「封印を維持する者」、通称・キーパーを決める日。
キーパーが6つの地で試練を受けることで、封印は保たれる。
6つの地にはそれぞれ精霊がいて、試練のときだけキーパーの前に現れるという。
そして全ての試練を終えたキーパーは、その後故郷を守る守護者として警備の中枢を担う。
普段あまり遠くに行くことが許されないレンロラの村人にとって、キーパーは憧れの存在。
この物語の主人公のカームも、幼少期からキーパーになることを夢見ていた。
ウミは近所のお姉さん的な存在。
ニッグは同世代でキーパーを目指すライバルだ。
ニッグは様々な武器と魔法を器用に扱う万能タイプ。
対してカームは魔法はあまり得意ではなく、基本的に剣だけで戦うタイプ。
幼少期から度々戦って、戦歴はほぼ五分。
カーム(今日の夢は何だか変だったな。二人とも大人だったし・・・。)
(まー、所詮は夢。今日の戦いに集中しよ。)
ウミ「カーム、ボーっとしてないで早く食べて準備しなよー。」
「今日くらいは早起きするかと思ったのに。」
カームは、ウミが作った朝食を急いで食べて準備して会場に向かった。
しかし、出場者の待機場所にはニッグしかいない。
カーム「何だ、まだ全然揃ってないじゃん。」
「ウミさん急かすんだもんなー。」
ニッグ「お前なぁ・・・。」
「どうせオレとお前の一騎打ちだからって、みんな棄権したんだよ。」
「オレはもうかなり待ってるぜ?」
ニッグと立会人で守護者のヤマオーが待ちくたびれた顔をしている。
ヤマオー「準備が出来たなら、さっさと始めるぞ。」
カーム「マジかー、ごめんごめん。もう準備オッケーでーす。」
ヤマオー「では、今年の精霊レンロラの使い・封印を維持する者を決める戦いを始めます。」
ヤマオーに促され、二人は所定の位置に付く。
カーム&ニッグ「では、よろしくお願いします。」
カームは身体強化魔法を使って高速移動しつつ、使い慣れた剣でニッグに斬りかかった。
ニッグは槍を出して、その剣を器用に捌く。
カーム「くっ、また槍かよ。」
ニッグ「ん?槍使うのは結構久しぶりだと思うが?」
カーム(槍が一番戦いにくかったから、よく夢の中に出てきたんだよ。)
(ニッグの動きは、今日の夢の動きによく似てる。)
カームはニッグの動きを上手に先読みして、ニッグを圧倒する。
ニッグも粘るが、終始カームが優勢。
5分ほど剣戟が続いた後、ニッグの槍が宙を舞った。
ニッグ「参った。」
ニッグは両手を挙げて降参する。
ヤマオー「勝者・カーム。今年のキーパーはカームに決まりだ。」
「おめでとう。今日の午後一に村長の家でキーパーの儀を行うから、それまでゆっくりしていろ。」
カーム「了解、ヤマオーさん。あなた以上の戦士になって帰ってきますね。」
ヤマオーは静かに笑ってカームの頭を撫でる。
カーム「じゃあ、旅の準備するから、ウミさん手伝ってくれる?」
ウミ「おっけー。」
カームは嬉しそうだが、何処か演技っぽい。
ウミ「ずっとやりたかったキーパー、あんま乗り気じゃない?」
カーム「いやー、嬉しいんだけどさ。」
「ニッグがワザと負けたような気がして。手加減された訳じゃないんだけど。」
ヤマオー「ニッグ。あまり悔しそうじゃないな。」
ニッグ「オレはカームとキーパーを目指すのが楽しかっただけで、別にキーパーになりたかった訳じゃない。」
「気持ちの差で、今日はカームが勝つと思ってた。カームが勝った方が良いと思ってた。」
ニッグも本当はキーパーになりたかった。
しかし、自分の夢が叶うより、カームの夢が叶う方がニッグにとっては嬉しかった。
殆ど互角の二人、そういう気持ちだけで勝敗に大きな影響が出て、カームが勝った。
親友かつ兄弟の様な二人。
言葉は無かったが、お互いがお互いの気持ちをかなり正確に理解していた。
言葉が無かったのは、お互いに対する思いやりでもあった。
しかし、この二人が楽しく無邪気に刃を交わすのは、これが最後になる。
この物語は、厄災に翻弄されるカームとニッグの戦いと友情の記録である。