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ティーカップ・ソール家の人々  作者: 森川めだか
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カウレイスピイプルズ

カウレイスピイプルズ


 列席者の声が闇に隠れるように聞こえてくる。

マクマードはデッキチェアに座って脚をモジモジさせていた。

なぜ自分だけがデッキチェアなのか。父さんの葬式に席が足りなかったからだ。マクマードだけは庭にあったデッキチェアを使っている。

目前には父さんの棺が花に囲まれ、向かいには見た事もない親戚の人がズラリと並んでいる。

横にはズーズー、チャンドラーが座ってい、神妙そうな様子だ。

三人とも黒地に灰のネクタイやブローチをしている。この日のためにビスポークしていたものだ。

「口からピーナッツの匂いさせてたからてっきり・・ご家族の方は・・」

「ピーナッツの匂いの煙草を吸ってただけって・・」

列席者が変わる度、何度も耳にしていた。

「ハッサンっていうお手伝いだって・・言うじゃない・・」

マクマードは真向いの子供連れを見ていた。まだ小さいその子は暇そうに母親の手に甘えている。

「マクマード」ズーズーがマクマードの手を握って立ち上がった。

二人とも頭を下げる。偉い人みたいだ。

「生前はお世話になりました」

ついとその子連れが席を立ったのをマクマードは目で追った。泣き出したのだろうかと思ったからだ。

話が終わってズーズーが席に戻ろうとした時、肘を掴まれた。

「マグダレンさん」ズーズーより少し年長のその女はマグダレンというらしかった。

「シモネッタちゃん」マクマードは何でそんな事までズーズーが知っているのかと不審に思った。

親戚は数え切れないほど多い。

「ハッサンってあんたらの兄弟でしょ。何で知らないフリするの」マグダレンは怒っていた。

「こんなチャラチャラした服着て」マクマードのネクタイを引っ張る。

「言いたいようにさせたら駄目じゃない」

「言いたいようにさせたらいいじゃない」ズーズーは意外に言い返した。

勘違いさせておくのか、とマクマードは心配になった。

チャンドラーの方を向くとチャンドラーもその二人の様子をじっと見ていた。

シモネッタは白いフリルの礼服を着ていた。まだ10歳くらいだろうか。

「あんたも血を分けた兄姉よね。父さんの顔でも見たらどう」ズーズーが喧嘩腰になって言った。

「何であんたらの母さんも来ないのよ」

「そんなのはうちの勝手でしょう。家庭内干渉しないでよ」

二人は一旦別れた。でも、じっとマグダレンはシモネッタの手を握りながらじっとズーズーの方を睨んでいる。

「ズーズー・・」軽く手の甲でチャンドラーはズーズーに触った。

「分かってる」

マクマードは後ろの窓を見た。

日の当たっている部分だけ輝いて菓子のようだ。

また目を元に戻すと、最後の方の列席者が花を置いてこちらにも頭を下げる。

その度にこちらも頭を深々と下げる。

頭を上げるとマグダレンは白いハンカチを目に当て、横を向いていた。シモネッタがそれを心配そうに見ている。

棺が運び出される時、チャンドラーもマクマードも手伝った。

外は秋の風。777とイチョウの葉が落ちてくる。

先ほど降った雨で、風に揺れる度に雨粒が落ちてくる。

礼拝所からの広い道には道を空けるように誰もいない。その向こうには庭のような墓地がある。

そこまで運んだところで祈りまでの間、マクマードはデッキチェアを運び出しておこうと礼拝所に戻った。礼拝所にはまだ何人かの人たちが残っていて、マクマードを見つけると道を避けた。

デッキチェアを持って戻ってくると、またマグダレンとズーズーが言い争いをしていた。

「チャンドラー、誰、あの人」

「父さんのあれだ」

チャンドラーは子供だ、という意味で言ったのだがマクマードは信じられない気持ちで聞いていた。

「何で、ズーズーと口争いしてるの」

「何か、気に入らないことでもあったんだろう」チャンドラーは煙草を咥えている。

そのチャンドラーの肩を誰かが叩いた。

チャンドラーは後ろを向いて、「ああ、あの警察の奴か」と応えた。その目線の先には目立たない黒服の男がいる。

祈りが終わって棺が土の中に横たえられると、近しい人たちが土を一掴み振って、チャンドラーもマクマードも真似した。

ズーズーは灰色の手袋を外さなかった。

道に溜まった落ち葉が雀のように吹き寄せられる。

「怒られた」帰って行くマグダレン母娘に目をやってクフフとマクマードは笑った。

ズーズーはまだ憤懣やるかたないといった風情だ。

「ズーズー、いつまでもツンツンしてないでさ、」くぐもった声でマクマードは下を向いて言った。

「人に懐いてよ」

チャンドラーはオイルがまだたっぷりと残っているのに火の点きにくくなったライターを見ていた。

マクマードとズーズーの二人は片付けのために礼拝所に戻った。デッキチェアのために戻る必要もなかったのだ。

「目から塩で出るなんて不思議だね、ね、姉さん」

ズーズーは何も言わず椅子を畳んでいた。

チャンドラーの方を見るとチャンドラーの上にぽっかりと雲が浮かんでいた。

雲が作り物みたいに僕たちを見てる。

ズーズーはチャンドラーの方へ立って行った。

チャンドラーがズーズーの手を摑まえる。

ズーズーは顔を元に戻さずに、「好きだから続きそう・・好きだから・・」と言った。

ズーズーは結婚まぢかなのだ。

そんな二人をよそに、椅子を片付けながらマクマードはまずは始めに挨拶をしよう、と思った。

おはようもお休みもこんにちはも人に会ったら元気に大きな声で挨拶をしよう。

それで友達もできるはずだ。


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