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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第八章 こころ揺れる
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敵か味方か



 今日もろくに話せなかった―――



 学園から帰る馬車で、ゼンは恒例のひとり反省会を開いていた。


 頭の中でだけなら、エティエンヌと上手く話せるのに、現実ではいつも空回りだ。

 打開策を考えては挑戦して失敗し、別の策を考えてまた失敗。袋小路に入り込んだような、底なし沼に嵌って身動きが取れないような気分。とにかく追い込まれているのは間違いない。


 自邸に到着し、俯き加減でエントランスに足を踏み入れた。


 出迎えた執事に鞄と上着を渡し、とぼとぼと部屋に向かう。


 後ろで執事が何か言っているが、落ち込んでいるゼンは生返事ばかりで、ろくに聞いていなかった。



 だから、目の前にいた人物の声に驚いた。



「あ、帰って来た。ゼン、お帰り~」


「うわっ!」



 ぐるぐると思考が迷走中だったゼンは、真正面から声をかけられたにも関わらず、顔をのけぞらせながら大声を上げた。



 そんなゼンの反応に目の前でぱちぱちと目を瞬かせているのは、最近のゼンの悩みの種の一つとなっているトーラオだった。


 そう、ヒロインとして異世界転移して来た仮想敵の筈が、ただ女装を強要されていた哀れな少年と分かり、なんだかんだで神殿から王城預かりになった彼だ。


 加えて、王城ではやたらエティエンヌと親しく話している、ゼンにとって今最も気にくわない奴でもある。



「トーラオ、なぜトリガー家(うち)にいるのですか? 君は王城預かりだった筈だ」



 声に多少の刺々しさがあるのは完全なる私情だ。


 そう問うたゼンに、トーラオではなくゼンの斜め後ろにいた執事から非難含みの視線が向けられた。理由は、トーラオの次の言葉で明らかになった。



「え? 今さっき、そこの執事さんが歩きながら説明してたじゃないか。ゼンってば、返事してたくせに、全然聞いてなかったの?」



 振り返れば、執事はジト目でゼンを見ていた。



 ゼンは眉尻を下げ、右手で首の後ろをさすった。執事の視線が痛い。


 取り敢えず、廊下で立ったままというのもアレなので、サロンへと移動し、今度はきちんと説明を聞いた。



「・・・は? 暫くトリガー家(うち)で暮らす? 君が?」



 そうして改めて聞いた話は、なんとトーラオが王城を出てトリガー家預かりとなるというもの。


 聖女騒ぎの一件で、強硬派である前大神官アンゲナス一派の排除に成功したものの、完全に一掃できた訳ではなく、不満分子は神殿にも、そして神殿と繋がる一部の貴族たちの中にも残っていた。


 完全に排除するまでにはまだ時間がかかる事、それら不満分子の矛先が聖女候補とされたトーラオに向く可能性がある事。その場合、人の出入りが多い王城では、却って警備の穴が突かれかねない事。



「王族の居住棟なら安全性はかなり高くなるって意見もあったんだけど」


「なにっ?!」



 ゼンの語気が荒くなる。


 許し難い。トーラオが王族の居住棟に移るなら、今以上にエティエンヌと会い放題ではないか。



「でもすぐに却下になってね。ほら、僕は王族でもなんでもないし、護衛の為と言っても、ヒロイン紛いのただの異世界転移者だし、居住棟に入れるほどの理由にならないって事で」



 それで名乗りをあげたのが、ホークス・トリガーだったと言う。



 曰く、個人の貴族邸ならば、出入りする人物の監督管理がしやすいし、より目も届く。大人数の、しかも場所によっては不特定多数の人の出入りがある王城より、安全だと。



 ホークスの理屈は分かる。

 王城の、王族居住棟に入るとかいう案よりよほどマシだし、現実的である事も。



 だが、なぜよりによってトリガー家(うち)なのか。



 ここ最近、城に行くとよく目にしていた光景が―――エティエンヌとトーラオが仲良くお茶する光景がゼンの脳裏に思い出され、胸に熱く黒いモヤモヤが湧き起こる。



 ―――いや、引き離せてよかったと思うべきだ。


 それに、腹の立つ奴だが危ない目に遭ってほしい訳じゃない。ここに居た方がより安全だと言うのなら。



 そもそも、トーラオと顔を合わせないようにすれば済む話だと、ゼンが頭の中で結論づけた時。



 トーラオが言った。



「世話になるお礼に相談に乗ろうか?」


「は?」



 ゼンは目を丸くした。相談? 恋敵のトーラオに?



「ゼンって、子どもの時から困ってたでしょ? エティエンヌの前だと素直になれなくて誤解させちゃったまま今に至って。どうやら、まだ婚約話も出て来てないみたいだし」



 てっきり、トーラオはエティエンヌに好意があるのだと思っていたゼンは、言葉に詰まる。


 するとトーラオは、固まるゼンにとんでもない爆弾を投下した。



「知ってる? ほんの一部の貴族らしいけど、僕をどこかの有力貴族の養子にして、エチと結婚させるなんて意見も出てるらしいよ」









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