きっと、まだ本人も気づいていない
『ジュヌヴィエーヌさまは、オスニエル王太子殿下をどう思っておられるのかしら?』
テレサがそう質問したのは、オスニエルの言動に、ジュヌヴィエーヌに対する好意が透けて見えた気がしたからだ。
そしてテレサは、ジュヌヴィエーヌの微妙な立ち位置についても、内務省室長である父から聞いて知っている。
国王エルドリッジの側妃と言われながら、実質はマルセリオ王国から保護する目的で取り決められた白い結婚。そして無垢な身のまま、いつか相応しい男性が現れたら『下賜』という名で嫁がせるであろうことを。
その話を聞いたテレサは、現時点で嫁ぎ先の一番の候補はオスニエルになったのではないかと考えた。
生国でジュヌヴィエーヌが受けた妃教育と筆頭公爵令嬢という高い身分、穏やかで慎ましい気質、優れた容姿。
なにより、オスニエルがジュヌヴィエーヌに好意を抱いているのは明らかだ。
テレサはこの質問をする事で、自分が完全な味方であり、未来の義妹の為なら一肌でも二肌でも脱ぐつもりでいる事を伝えるつもりでいた。
だがジュヌヴィエーヌは、不思議そうに首を傾げ、うーん、と少し考えた後にこう言った。
「ご立派な方だと思いますわ。あの若さで様々な学問を修め、剣術も相当な腕だと聞いています。そして、それに驕る事なく、今も日々研鑽を怠らない。王太子として理想的な方ではないでしょうか」
「え・・・?」
予想とは違う返答に、驚いたテレサの唇から呟きが溢れた。
「もしかして、全く意識されていない・・・?」
「テレサさま?」
だが、呟きは小さすぎて届かず、ジュヌヴィエーヌは首を傾げた。
「な、何でもありませんわ。変な質問をしてごめんなさい。そうですね、理想的な王太子・・・その通りですわ。オスニエル殿下はご立派な方でいらっしゃいますもの」
「ええ、本当に」
ジュヌヴィエーヌは両手を合わせ、口元に当てると、嬉しそうに続けた。
「エルドリッジさまも、殿下の事をとても誇りに思ってらっしゃるのですよ。オスニエルさまに限りませんけれど、エルドリッジさまはいつだって、殿下方のお話をされる時は、目が嬉しそうに垂れるのです」
こんな風に、とジュヌヴィエーヌは自身の両目の端を指で押さえ、少しだけ下げてみせた。
「まあ、うふふ」
可愛らしい仕草に、テレサも口元も綻んで、ひとしきり笑い合ったところで。
―――あら?
テレサは気づいた。
ジュヌヴィエーヌの頬が、ほんのりと色づいている事に。
つい先ほど、オスニエルを褒めた時はこうではなかった。
表情こそ柔らかかったものの、異性として思うというよりは、家族愛に近いような、そんな敬愛を感じた筈。
それこそ、全く異性として意識していないと、テレサにもすぐ分かるくらいで。
それが今は、うっとりとした眼差しで、頬は赤く、嬉しそうに口元を緩ませて、まるで恋する乙女そのものだ。
―――では、さっきのは勘違い?
いえ、違う。そうではなく―――
「エルドリッジさまは、執務もお一人で頑張り過ぎてしまうから、お身体が心配なのです。でもその話をすると、オスニエルさまが学園を卒業したら、ガンガン仕事を任せるつもりでいるから、それまで頑張るよと、笑って誤魔化されてしまうのですけれど・・・」
愛おしい、大切だと言わんばかりの眼差しは、それが向けられている先は。
―――ああ、そうなのね。
この時テレサは、きっとまだ本人も気づいていないであろう恋心を悟ったのだった。




