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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第八章 こころ揺れる
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難題



 ジュヌヴィエーヌの学園生活は、マルセリオの時とは随分と様子が違うものになった。


 ジュヌヴィエーヌと話したがる者が多いのだ。マルセリオでは基本ひとりだった記憶との差に、ジュヌヴィエーヌ自身が戸惑うくらいに。


 

 城の高官である親を通してジュヌヴィエーヌが側妃であると知った者、ここ数年アデラハイム国内でぐんと知名度が上がった『マルセリオ王国ハイゼン公爵家』の令嬢と縁を繋ぎたい者など、近づく者たちの思惑は様々だ。


 令嬢ならば友人枠かと思いきや、ジュヌヴィエーヌの兄バーソロミュー狙いの者もいた。

 その筆頭が、テレサ・カンデナーク公爵令嬢だ。六年前に、オスニエルの婚約者候補だった令嬢である。



 正式な学生になって通い始めた日から、テレサはジュヌヴィエーヌに積極的に話しかけてきた。



 吊り目がちのキツい眼差しと、どこか冷たく見える凛とした佇まいは傲慢な性格を予想させるが、いざ話してみると、明るく話しやすい令嬢だった。





「ジュヌヴィエーヌさま。今日は中庭のベンチで昼食をいただきませんか」


「テレサさま。お誘いありがとうございます。少しお待ちくださいませね、今そちらに行きますわ」



 今日もテレサに声をかけられ、ジュヌヴィエーヌはいそいそと嬉しそうに席を立つ。

 楽しそうにお喋りしながら立ち去る後ろ姿を、オスニエルたちは恨めしそうに見つめた。



「くそ、今日もジュジュを連れてかれた」



 オスニエルは、同クラスになったジュヌヴィエーヌと、学園生活で徐々に距離を詰めるつもりだった。

 父の側妃となる為に来国してから一年と半年。今のところジュヌヴィエーヌから全くさっぱり男として意識されていない。

 だから、馬車での登下校や昼食、放課後の時間などで、まずは接触する時間を増やそうと思っていたのだ。



 ところがである。



 いざ登下校を始めてみれば、当たり前だが同じ学園に通う妹が馬車に同乗し、女性同士で会話に花を咲かせてしまい、オスニエルの出番がない。


 そして学園ではまさかの伏兵がいた。テレサだ。


 せっかくジュヌヴィエーヌと一緒の学年にしてもらったのに、ジュヌヴィエーヌと仲良くなったテレサが毎日ランチに連れ出してしまう。


 だが、同性の友達ができて嬉しそうなジュヌヴィエーヌを見てしまえば、引き留めるのも戸惑われた。



「・・・今日もお前と二人で食事か」



 オスニエルは、ゼンに言った。


 王族のオスニエルは、学園に専用の個室がある。


 そこで、ジュヌヴィエーヌとエティエンヌ、オスニエルとゼンの四人でゆっくりランチを取るつもりだった。

 だが、それができたのは共に学園に通い始めてからの三日間だけだった。



 エティエンヌが、学園の友人たちと食べると言い出したからだ。


 そう、オスニエルは自分とジュヌヴィエーヌとの距離を詰めるだけでなく、ゼンとエティエンヌの関係改善も兼ねて、専用個室での昼食に誘っていた。


 聴講生としてジュヌヴィエーヌが学園に来た時、たまに昼をまたいで授業を受ける日には、ジュヌヴィエーヌと、エティエンヌと、オスニエルと、ゼンの四人で昼食を取っていたから、それが毎日できると思っていたのだ。



 だが、エティエンヌが抜けると同時に、ジュヌヴィエーヌもまたテレサから誘いを受けるようになり。



 結果、嬉しくもない男二人だけの、専用個室での食事となったのである。




「はあ・・・学園に入れてやってくれと父上に頼んだのは悪手だったな」



 学園で思ったようにジュヌヴィエーヌと時間を過ごせないだけでも誤算なのに、これまでジュヌヴィエーヌを意識していなかった令息たちの目に、わざわざ彼女の姿を晒す結果となってしまった。


 ちらちらとジュヌヴィエーヌを見る男子学生たちの目の何と多いことか。


 結局、王城での方がジュヌヴィエーヌとゆっくり話せるという事に、オスニエルは今さら気づいてがっかりした。



「仕方ない。今さら覆せないのだから、これから何とか意識してもらう方向に頑張るしかない」



 そう自省しつつ、オスニエルは同じくしょぼくれている幼馴染みを見遣った。



「ゼン、お前も焦る気持ちは分かるが、少し落ち着け。とんでもなく空回ってるぞ」


「それは・・・僕も分かってるんだ。だが、どうしたらエチとの関係を改善出来るのか・・・エチを前にすると、どうしても口が固まって」


「お前も厄介だよな。俺とは別の意味で難題だ」



 項垂れるゼンを前に、オスニエルは頬杖をついた。





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