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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第七章 恋の花は咲きますか?
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伝わらなければ意味がない




「ホークス宰相」



 バーソロミューとトーラオとの非公式の面談が終わった後、報告の為に国王の執務室に向かおうとしていたホークスを、オスニエルが呼び止めた。



「あれは、どういう事だ」


「どういう事とは?」



 いつもと変わらぬ笑みを浮かべるホークスに、オスニエルはやや苛立ちながら続けた。



「エチの話だ。ハイゼン小公爵との縁談なんて聞いていないが」


「まだ議会からそういう意見が出ているというだけですからな。まあ、もし現実になったとして、今のところ反対するつもりはありませんが」


「それは・・・どうしてだ?」



 ホークスの対応が、オスニエルには理解できない。ゼンの気持ちを、父親であるホークスは誰よりも知っている筈なのに。



 ホークスは笑みを消し、真面目な顔でオスニエルを見た。



「王太子殿下。確かに我がトリガー公爵家は、長く王女殿下の降嫁先の有力候補でした。それが、ハイゼン小公爵がより優良な候補となられた、それだけです」


「・・・条件がより優良となぜ言いきる? 確かに小公爵は妹思いの優しい御仁だ。だが、ゼンはエチを好いているだろう。トリガー家に嫁ぐなら、政略ではなく想いを伴った婚姻となるではないか」


「なりませんよ、殿下。そうはなりません。少なくともエティエンヌ王女殿下にとっては、ただの政略結婚でしかありません。いや、それ以下かもしれません。ろくに会話もせず、愛情表現もできない男の妻になるのですから」


「・・・っ」



 宰相の返事に、オスニエルは目を見開いた。温厚なホークスにしては、いつになく口調が厳しい。



「分かりませんか、殿下。うちのヘタレ息子も努力はしてますが、成果は微々たるもの。つまり、あの時と―――王女殿下が泣いてゼンとの婚約を嫌がった、六年前と、大して状況は変わっていないのです」



 父王の部屋に飛び込んで、『修道院に行く』と泣いた六年前と。



「想われて嫁ぐのは、確かに女の幸せと言えましょう。ですがそれは、想われていると知ってこそです。ゼンはまだ、六年前の失態を挽回できていません」


「・・・そうか。確かに、そうなのかもしれないな」


「ゼンがこのままヘタレを克服できないなら、我が家にエティエンヌ王女殿下をお迎えできたとして、幸せになるのはゼンだけ。そんな事臣下として許せる筈もありません。

それなら、政略結婚でもそれなりに敬意と信頼を育める相手に嫁いだ方が、王女殿下の為にもなります」


「・・・ホークス宰相には敵わんな」



 オスニエルは降参するしかなかった。


 同性ゆえ、そして身近な存在だったゆえに、オスニエルはゼンの気持ちをよく理解していた。

 悪役令嬢問題と違い、そのうちなんとかなると、オスニエルは思っていたのだ。その『なんとかなる』も、エティエンヌが大人の対応をすれば、という前置き付き。だから、基本ただ見守るだけだった。



「・・・なんとも単純で愚かなものだ」



 そう言いながら、苦笑とも、溜め息ともつかない、大きな息がオスニエルの口から漏れた。これで、妹の幸せを願っていたつもりなのだから、自分で自分に呆れてしまう。



「ゼンには幸せになってほしかったのだがな」


「おや、私もですよ。ですから、ああは言っても、実はまだ諦めてはいないのです」



 その言葉に、え、とオスニエルが顔を上げると、宰相はいつもの笑みを浮かべた余裕の表情でオスニエルを見返した。



「そうなのか・・・? 俺はてっきり」


「ふふ。幸いというか執こいというか、ゼンもまだ諦めておりませんしね。

あの子がきちんと気持ちを言動に表せるようになって、エティエンヌ王女殿下もあの子の気持ちに応えて下さるなら、トリガー家としてなんの遠慮もなくなります。その時は、議会がなんと言おうと、有り難く掻っ攫わせていただきますとも」


「お? おお、そうか」



 これは結局、ハイゼン小公爵に譲る気はないという事なのか。


 なんとなく宰相の手のひらで踊らされているような。


 まだまだ自分は若輩者だと、オスニエルは更なる精進を誓ったひと時であった。








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