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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第七章 恋の花は咲きますか?
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ざわめきの理由




 ―――これも、マルセリオのファビアンさま対策なのかしら?



 差し出された手を眺めながら、ジュヌヴィエーヌはそんな事を考えていた。


 何故か、今度はオスニエルからダンスを申し込まれたからだ。



 ゼンがエティエンヌにぎこちなくダンスを申し込む様子を微笑ましく眺めていた筈が、気がつけばジュヌヴィエーヌの前にオスニエルがいて、手を差し出されていた。



 動揺し、兄バーソロミューにちらと視線を向ければ、兄は兄で既に令嬢たちに囲まれていた。

 いや、よく見れば、令息たちも遠巻きにジュヌヴィエーヌたちの様子を窺っている。


 オスニエルの誘いがなければ、恐らくその令息たちがダンスを申し込みに来るだろう。



 なるほど、これはオスニエルの配慮なのだとジュヌヴィエーヌは判断し、ありがたくダンスの誘いを受けた。



 フロアには、ダンスの誘いが成功したのか、エティエンヌとゼンがホールドを組んでいる。微妙に距離が離れて見えるのは、まあご愛嬌だ。



 エティエンヌとゼンは元々が婚約者候補同士、周囲が妙にざわつくのは二人の仲を心配しての事なのか。



 ジュヌヴィエーヌもまたフロア中央でオスニエルとホールドを組む。その時、ひときわ大きなざわめきが起こった。視線だけを周囲に巡らせ、ざわつきの理由の一つを理解した。



 バーソロミューがひとりの令嬢と共にフロアに来たのだ。

 緩やかにウェーブのかかった真っ赤な髪の麗しい令嬢。確かあの方は・・・とジュヌヴィエーヌは記憶を探り。



「・・・テレサ嬢?」



 どこか呆然と令嬢の名を口にしたのは、ジュヌヴィエーヌではなく、オスニエルだった。



 そんなテレサは、バーソロミューと踊れるのがとても嬉しいようだ。溢れんばかりの笑みで、彼の腕に手を置いている。



 それからも数組が進み出、それぞれがホールドを組む。やがて音楽が流れ出し、フロアに色とりどりの花が舞い始めた。



 オスニエルのリードは、エルドリッジやバーソロミューのそれより少し荒く力強く、彼の一本気な性格を感じさせた。


 エルドリッジのリードはどこまでも優しく丁寧で、バーソロミューのそれは堅実で慎重。


 ダンスで性格を察する事が出来るなんて、とジュヌヴィエーヌの口元は微かに綻んだ。



 エティエンヌと踊るゼンは、なんとか冷静さを保てているのだろう、ステップを踏み間違えてはいないようだ。

 少しカチコチの感は否めないが、曲が流れる前よりは、二人ともに顔の強張りが解けてきていた。



「ゼン、ちょっと頑張ったよな」



 ジュヌヴィエーヌの視線の先にいる二人に気づいたのだろう、オスニエルがこそっとジュヌヴィエーヌの耳元で囁いた。



 それが意外と近すぎて、ジュヌヴィエーヌの耳朶がオスニエルの呼気の振動を捉える。思わずジュヌヴィエーヌの身体がふるりと震えた。



「え?」



 それに驚いたのは、何故かジュヌヴィエーヌではなくオスニエル。



 ジュヌヴィエーヌは顔を赤くして少し俯き、オスニエルの視線から逃げた。



「・・・」


「・・・」



 暫し、沈黙が続く。



 けれど、長年ダンスレッスンをしっかりこなしてきた二人の足は、どれだけ動揺してもステップを正確に踏み続けたのだった。








「いやぁ、若いですなぁ」



 壇上で王座に座るエルドリッジの斜め後ろ。


 赤面しながら踊る初々しい二人を見て、ぽそりと呟いたのは宰相のホークスだった。










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