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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第七章 恋の花は咲きますか?
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これからは物語とは違う恋の話




「・・・つまり、あの婚約解消はファビアン殿下に気持ちがなかったお前にも原因があると考えた訳か」


「・・・はい」


「それでお前は、どんな相手でも愛せるように惚れ薬を飲もうとした、と」



 テーブルの向かい側に座っていたバーソロミューは、こめかみに手を当て、はぁと大きな溜め息を吐いた。



「お前に何の説明もせずにアデラハイムまで連れて来た俺たちが悪かったとは思うが、また随分と飛躍した発想を・・・というかジュジュ、普通、惚れ薬は相手に盛るものじゃないか?」


「・・・それはエルドリッジさまにも言われました。呆れて笑ってらっしゃいましたわ」


「だろうな。まぁ、王族に薬を盛ったとなると未遂で終わっても重罪だから、そこは良かった・・・のかな?」


「うう、重ね重ねすみません」


「俺に謝る必要はない。陛下は不問にして下さったんだろう? 懐が深いお方で助かった」



 しみじみと語る兄の様子に、ジュヌヴィエーヌは深く反省すると同時に、あの頃の自分は相当に精神的に追い詰められていたのだと改めて思う。


 計画がマルセリオ王家にバレないように情報を最小限に抑えたせいもあり、ジュヌヴィエーヌはアデラハイムに行くまで何も知らず、なんの希望も持てなかった。


 それこそ衝動的に魔女の家に駆け込んでしまうくらいには、お先真っ暗で崖っぷちの心境だった。


 魔女からもらった恋の秘薬は、あの時のジュヌヴィエーヌの心の拠り所だった。もし父や兄に取り上げられていたら、最悪自害していたかもしれない。



「じゃあ今はもう、その惚れ薬とやらは持ってないんだな?」


「はい。エルドリッジさまが処分して下さったと思います」


「・・・いや、あの方なら何かの時のために取っておきそうだけど」


「え?」



 何か小声でバーソロミューが呟いたが、残念ながらジュヌヴィエーヌには聞こえなかった。聞き返しても何でもないと言われ、話題は懸念の対象であった元ヒロインへと移った。



 トーラオと改名した元ヒロイン七彩(なないろ)は、この先の身の振り方を模索中だ。


 とにかくヒロインに成りきる為の指導のみを受けて育ったトーラオは、女装を強要されたばかりか、受けた教育にも相当な偏りがあった。


 学問は最低限で、料理と刺繍が何故かとても上手、そしてアデラハイムの歴史やら政治の勢力図やらにやたらと詳しい。


 これは、トーラオの叔母が作者だった事で、細かい設定まで母親から叩き込まれたせいらしい。


 という訳で、貴族としてのマナーは全く知らないのに、主要貴族の名前とか地名とかはすぐに分かるというアンバランスさなのだ。



 だから当然、一作目の登場人物であるが、ジュヌヴィエーヌの兄バーソロミューの名前をトーラオは知っていた。



「お兄さまに会うのを楽しみにしてるそうですよ」


「う~ん、そう言われても、何と反応するのが正解なのか・・・」



 トーラオとしても、一作目の展開が話と違っている事に興味を惹かれているらしい。


 それを誘導したのがエルドリッジたちだとしても、ジュヌヴィエーヌを大切に扱うバーソロミューやケイダリオンが今いち信じられないのだとか。



 作中ではジュヌヴィエーヌを蔑んだというバーソロミューに一体どんな心境の変化が、と話をしてみたいそうだ。



 そう言われても、バーソロミューとしては苦笑いしか出てこない。当然だろう、エルドリッジから接触される前は、危うくそうなりかけていたのだから。









 ―――そう考えると、こうしてお兄さまと連れ立ってアデラハイムの夜会に出席しているのが夢のようだわ。



 夜会当日。


 美しく着飾ったジュヌヴィエーヌは、これまたきっちりと礼服を着こなしたバーソロミューにエスコートされ、名前が読み上げられると同時に会場に足を踏み入れた。



 国賓であるバーソロミューの入場に、会場内の視線が集中する。




「ハイゼン公爵令息さま・・・」



 それらの視線の中。


 バーソロミューを熱く見つめる令嬢の視線があった事を、まだ2人は知らない。










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