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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第七章 恋の花は咲きますか?
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諦念



 ジュヌヴィエーヌの姿を認めてカチリと固まったオスニエルは、小さな声で「後でまた来ます」と言って扉を閉めた。


 その様子に、内密の話があったのだと察したジュヌヴィエーヌは、自分の方が去るべきではないかと思い、エルドリッジを見やる。



「まったく、ジュジュに気を遣わせてどうするんだ」



 エルドリッジは肩を竦めた。



「あ、あの、私はもう退室いたしますから、今からでも」


「ああ大丈夫、気にしないで。どうせまた後で来るだろうし。ジュジュももう行っていいよ、兄君もきっと待ってるだろうしね」



 戸惑うジュヌヴィエーヌに、エルドリッジは安心させるようににこりと微笑みかけた。






 それから。



 パタン、と扉が閉まり、ジュヌヴィエーヌが退室した後、エルドリッジは侍従に茶を頼む。



 用意の為に侍従が執務室を出ていくと、一人になった部屋でエルドリッジは「まったくオスの奴め」と独り言ちた。



「服装を見れば、ジュジュが長居しないことくらい察せるだろうに、オスらしくもない」



 今日のジュジュは文官服ではなく、普通のドレス姿。つまりエルドリッジの執務の手伝いをしていた訳ではない。



 用件があって呼ばれた、あるいは訪れただけ。普段のオスニエルなら、すぐにそれと察しただろう。



「まあ、婚約者候補たちの名前を見てやって来たんだろうけど・・・僕もテレサ嬢の件は驚いたしなぁ」



 羽ペンをくるくる回しながら、エルドリッジは呟いた。



「ジュジュを見てあんなに動揺するって事は・・・もしかしたら、もしかするのかなぁ・・・まぁ、ジュジュは可愛い上に賢いからねぇ・・・見る目があると誉めてやらないと・・・いけないのかな」



 アデラハイム王国の国政が揺らぎかねない事件は、意外な事実の判明により、起こる前に終息しそうだ。


 後は神殿側の、処罰を受けた元大神官たちの動向にだけは気をつけねばならないが、それも想定していた事態よりずっと対処は楽。

 つまり、国内の情勢はこれ以上混乱する事もなく、落ち着きを取り戻すという事で。



「後は・・・ジュジュか」



 ジュヌヴィエーヌの父ケイダリオンからの書簡によると、マルセリオ王国の方は相変わらずのお花畑のようだ。


 仔細はバーソロミューから直に報告される事だろうが、王太子妃となる予定のマリアンヌの資質を疑問視する声が日に日に大きくなっているらしい。



「何を今さらって感じだよね。僕に言わせれば」



 こちらの国(アデラハイム)の問題が解決しても、あちらの国(マルセリオ)の問題が終息するまでは、ジュヌヴィエーヌはエルドリッジの側妃でなければならない。


 下賜などという話を聞きつけたら、マルセリオ王国に寄こせと言って来るに決まっているから。



「となると、最低でもあと1年は僕の側妃のまま・・・オスには悪いけど、それまで議会は待ってくれないだろうな」



 内心でちょっとホッとしているのには気づかない振りをしておこう。


 エルドリッジ自身、ジュヌヴィエーヌを可愛く思っているけれど。


 娘同様なんて軽々しく言えないくらいには、気持ちが育ち始めているのを感じているけれど。



 きっとこの感情はジュヌヴィエーヌの為にはならない。この気持ちを育ててはいけない。自分はあくまで保護者で庇護者。中年のおじさんには似合いの役だ。



 そうエルドリッジは自分に言い聞かせる。



 あと1年は、ジュヌヴィエーヌはエルドリッジの妻だ。たとえそれが書類上だけの話であろうとも。



「・・・まあ、今はまず、目の前の問題を片付けていかないとね」



 疲労がたまった体を叱咤して、目の下の隈には気づかない振りをして。



 去り行く者として、なるべくいい形でこの国の政をオスニエル(息子)に譲りたい。




 ―――それが、全て自分を信じて委ねてくれた、ケイダリオンやホークス、オスニエルやエティエンヌの信頼に応える事になると、エルドリッジは信じているから。










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