王族として
次代の政を担う立場の者たちが籠絡される事などあってはならない。
そんな考えのもとに、ある意味国をあげて警戒していた『アデ花』ヒロインは、ヒロインの七彩が、実は少年が無理やり役としてやらされていたという事が判明し呆気なく解決した。
そうなると、これまでこの件が収束するまで先延ばしにしていた諸々の事に、遂に着手する事になる訳で。
そう、本来ならオスニエルが12歳の時に決まる筈だった婚約者―――及び、それに付随して同じく延期された第一王女と第二王子の婚約者の選定である。
オスニエルとシルヴェスタは、国王である父エルドリッジの執務室に呼ばれていた。
「もうオスやシルがヒロインとの恋にとち狂って、自分の婚約者を蔑ろにする危険もないからね。大臣たちも騒ぎ始めてる」
国王である父にそう言われてしまえば、オスニエルもシルヴェスタからも反論の言葉は出てこなかった―――心の中で何かを思っているかは別として。
「という訳で、来月か再来月あたりから婚約者候補たちとの顔合わせを始める予定でいる。細かい日程は、後で侍従を通して伝えさせるから」
エルドリッジは、候補者たちの詳細を記した書類を息子2人に渡しながらそう告げた。
「あ~あ、思ってたより早かったなぁ」
自室に向かっていると、オスニエルの横を歩くシルヴェスタが、たった今渡されたばかりの書類を眺めながら呟いた。
「まあ、仕方ないか。本来なら僕たちの婚約者は、5、6年前に決まってた筈だし」
「・・・そうだな」
エルドリッジからオスニエルに渡された書類は2枚。つまり候補は2人。そしてシルヴェスタの書類は3枚だった。
―――きっとテレサ嬢の書類も入っているのだろうな。
オスニエルは、ふとそんな事を思った。
テレサ・カンデナーク公爵令嬢。
『アデ花』で、オスニエルの婚約者となり、後に婚約を破棄される令嬢。
実際、6年前のお茶会で、オスニエルの婚約者候補として名が挙がっていた令嬢だ。
カンデナーク公爵には、宰相を通してエルドリッジから伝えられる情報を全て渡し、国政の混乱を防ぐ為に協力を求めていた。
オスニエルの記憶が正しければ、確かテレサ嬢は未だ誰とも婚約を結ばず、ヒロイン問題の収束を待っていた筈。
―――だとしたら、王太子として俺が選ぶべきは・・・
一つの結論に行きつき、オスニエルは誰に言うでもなく口を開いた。
「これが本来あるべき道だと言うのなら・・・そこを進むべきなのだろうな、王族として」
「王族として・・・そっか、そうだよね」
オスニエルは書類を眺めるのに飽きたのか、それらをまとめて左手に持ちかえると、廊下の窓から外に視線を向けた。
「ゼンにも話は行ったのかな。きっとホッとしてるだろうね。ゼンは、昔からエチ姉さんしか見てないから」
「その割に拗らせてるけどな」
「ふふっ、本当だよ。エチ姉さんには全然伝わってないもんね」
オスニエルとシルヴェスタは、その場で足を止めると少しの時間、笑いあった。
―――ひとりでも、政略結婚で想いが叶う男がいるのなら。
それは、オスニエルやシルヴェスタにとって救いでもあった。




