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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第六章 続編のヒロイン来たる
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そっちの心配はなくなったけど

 


 七彩(なないろ)が神官や下男など男性を近寄らせなかったのは、誰もが彼を女性だと思い込んでいた為。特に大神官の指示によるハニートラップを警戒したのだとか。



『襲われそうになった時に、実は男ですってバラせば、場を乗り切れると思って』というのは後の七彩の言である。




 まさかそこまではしないのでは、と純真なジュヌヴィエーヌは思ったが、エティエンヌの説明によると、実際『アデ花』の作中にそんな描写があるのだそう。もちろん女性バージョンのナナに、である。七彩はそれを覚えていた。


 ちなみに、小説によるとその時ナナは王城から派遣されていた護衛騎士の一人が助けに入る。

 その騎士がサイラス・ヴェルファスト。騎士団長次男で、オスニエルたちと一緒になってナナに夢中になり、婚約者との婚約を破棄した挙句、エティエンヌの断罪にも加わる人物だ。

 小説だからご都合主義なのは仕方ないが、なぜオスニエルと同い年で、まだ学生である筈のサイラスがナナの護衛として神殿に詰めていたのか、そこを突っ込む読者はいなかったらしい。



「まあ、編集者は気づいてたのに修正入れなかったけどね・・・」



 と、なぜか遠い目でエティエンヌが言った。







 さて、以前はヒロインを神殿に押し込める気満々だったエルドリッジは、七彩からの3通目の手紙を読んで方向転換を余儀なくされた。そう、早急に七彩を神殿から引き離す事に決めたのだ。


 王城に引き取ってもオスニエルたちが恋にとち狂う事はないと分かったし、大神官アンゲナスの動きがだいぶ怪しくなってきた事もある。



 公式認定もされていないのに七彩が聖女という噂を平民の間で流し、神殿への支持を高めようと工作し始めたのだ。



 エルドリッジ側と連絡を取りつつ今もなお部屋に引きこもる七彩を、アンゲナスは何だかんだと理屈をつけては民の前に引っ張り出そうとしては失敗。段々とその態度に余裕がなくなり、苛立ちを見せるようになってきた。


 エルドリッジが国王の権限を使い、問答無用で七彩を王城に連れて行く手もあるが、それだと暫く神殿と王家との騒動が続く恐れがある。なにより、後で難癖をつけられて、神殿に返せと言われた時に反論しづらい。



 という訳で、原作と似た状況をわざと作り出す事にした。


 そう、アンゲナスの指示によりラムロスが七彩の部屋に侵入した現場を押さえる事にしたのだ。



 今回ラムロスを捕まえる役目をするのは、サイラスではなくアムナスハルト。

 アンゲナスの妾腹の子で、ラムロスの異母弟。有能だが、平神官のままアンゲナスにこき使われている青年、そしてエルドリッジの協力者である。



「な、なぜお前がここにいる・・・っ?」


「神殿内で怪しい動きがありましたので」



 焦るラムロスの手を捻り上げながら、アムナスハルトは涼しい顔で答えた。



 折りしもその夜、内大臣が神殿に来ていた。

 多忙な為に日中に来る事が叶わず、と、よりによってラムロスが夜這いをかけたその日に、神殿の祈りの間にいたのだ。



 七彩の部屋で争う声が何故か(・・・)内大臣がいる祈りの間にまで聞こえたらしく、騒ぎが起きてすぐに「何事だ」と内大臣が護衛を引き連れて駆けつけた。その素早さに、アンゲナスはもみ消す暇もなく。



 内大臣が、その場で拘束されたラムロスを確認。大神官の嫡子であり、現主神官であり、次の大神官候補であると知ると、「次の大神官と目されるお方が強姦魔とは」と、大袈裟に嘆いてみせた。


 それから、取り押さえた側であるアムナスハルトに注意を向け、内大臣が名を尋ねる。名前と平神官である事を話すと、内大臣は、平神官にも関わらず七彩を守った勇気を褒め称えた。



「これは陛下にご報告せねば」



 内大臣は、止める大神官の声を無視し、その場を後にする。


 もちろん、強姦未遂の現行犯であるラムロスは、その場で内大臣の護衛が王城の牢へと連れていく事になり、後に国王から処断が言い渡された。それと同時に、夜這いを指示したアンゲナスの責任も追及し、大神官の地位を剥奪。他に協力した神官たちも芋づる式に拘束した。







「いやあ、神殿の大掃除ができた。呆気なかったなぁ」



 国王の執務室で、エルドリッジは笑った。



「エチの話通りに光の柱が立った時は心配したけれど、ヒロイン問題は案外あっさりと解決したよね」







 ―――上機嫌で笑うこの時のエルドリッジは、まだ気づいていない。



 事情を聞いて、ジュヌヴィエーヌやエティエンヌと同じく庇護の対象と見なし王城に引き取ったはいいものの、七彩はれっきとした男性であること、そして、ジュヌヴィエーヌやエティエンヌと同年代の若者であることを。



 そう、男性である七彩が、ヒロインとなってオスニエルやシルヴェスタ、ゼンやサイラスらを惑わす恐れはない。




 その恐れ()確かにないけれど―――









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