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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
閑話 『アデ花』を読む女
53/97

後編



(はな)、また小説書いてるの?』


『もう可憐(かれん)ってば、急に部屋に入って来ないでって言ってるじゃない。見られると恥ずかしいよ』


『なんでよ、Webで公開してるくせに。姉のあたしが見たって今さらでしょうが』


『Webで不特定多数に読まれるのと、目の前で家族が読むのとじゃ大違いなの! 知らない人に何言われても気にしないけど、可憐(かれん)につまらないって言われたら軽く死ねる』


『そんなこと、あたしが言う訳ないじゃない』


『ホント?』


『ホントのホント。(はな)はあたしの大事な妹で唯一の家族だもん。馬鹿になんかしない。ずっと応援してるし』


『・・・あのね、実はちょうど初めてのお話をラストまで書き終わったとこなの。真実の愛に目覚めた王子さまが婚約者の悪役令嬢を婚約破棄する定番ストーリーだけど、最後には悪役令嬢も改心して、側妃として2人を支えるのよ。閲覧数もそこそこあるの』


『へえ、良かったじゃない』


『うん。だから続編も書いてみようと思って。全く同じじゃ捻りがないから、異世界転生を絡めてみようかな~、なんて・・・』












―――ぱち、と目が覚め、可憐(かれん)はぼんやりしたまま、数回目を瞬かせる。



「夢・・・」



起き上がれば、既に日は高く昇り、適当に閉めたカーテンの隙間から明るい日差しが降り注いでいた。



「あたし、なんで・・・ああ」



独り言ちて思い出す。



昨夜、ナナをあちらの世界に送り出した(・・・・・)



当たり前だが、夜に離れの一画が燃え上がったことで、消防車とかパトカーとかが出動する騒ぎになった。



1時間かけて消火した後、なんだかんだと調査が入った。当然、可憐(かれん)も事情聴取を受けて。



けれど結局、ストーブからの出火による事故と判断されたのは―――



「・・・ナナはちゃんとあっち(・・・)に行ったみたいね」



―――焼けたのが無人(・・)の部屋だったから。そう、犠牲者がいなかったからだ。








『ねえ、(はな)。だったらさ、その続編のどこかにあたしを登場させてよ。話にほとんど関係ないモブでいいからさ』


『え~?』


『異世界転生ものならできるでしょ。元の世界をここ(日本)にすればいいんだもの』


『それはそうだけど』


『名前とか出さなくていいから! 設定で、実はこの人「作者のお姉さんでした~」みたいなノリで』


『う~ん、じゃあヒロインのお母さんとか?』


『え? そんな重要ポジ?』


『って言っても、たぶん登場場面ないと思うよ?』


『別にいいよ。あたしと(はな)だけが知ってる秘密の設定って事で。その方が特別感あって嬉しいし』


『ふふっ、分かった。じゃあ、ヒロインの名前は一緒に考えよ?』


『そうね、だったら・・・』











「あの時の(はな)は、あんなに元気だったのになぁ・・・」



20年前の思い出は、宝石の様にキラキラしていて眩しくて希望に溢れていた。



シングルマザーだった母を亡くし、でも双子の妹と2人、前を向いて生きようと頑張った。

幸い、高身長と容姿に恵まれたお陰で、モデルの仕事でそれなりに生活は出来ていて。



―――なのに。


残酷な運命は、たったひとりの大切な妹すら、可憐(かれん)から奪い取った。




―――可憐(かれん)につまらないって言われたら軽く死ねる―――



あの時。


可憐(かれん)と同じ顔が、頬をふくらませそんな事を言っていた。



でも。



「・・・(はな)のバカ」



可憐(かれん)は一度だって、(はな)の書いた話をつまらないと言った事はない。



いつだって(はな)可憐(かれん)の一番で、誰よりも何よりも大切な存在で。


(はな)のする事なら、それが何であれ応援してきた。双子で同じ顔の彼女は、可憐(かれん)と魂を分け合うもう一つの欠片だったから。



そんな自分をあっさりおいて逝った事は、今も許せないけれど。



でも、簡単に後を追う事も出来なかった。



だって、この世界に(はな)が生きた痕跡を残さなくてはいけなかったから。



だから、可憐(かれん)は頑張った。




―――間違った方向に、頑張ってしまった。










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