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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第五章 続編開始のカウントダウン
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七彩



「ヒロインの、名前・・・」



ジュヌヴィエーヌが呟く。


考えてみれば、当たり前の事だった。

いつも誰もがヒロインヒロインと呼んでいたから、そのままに受け取っていたけれど。



「物語だもの。1作目のマリアンヌの様に、続編のヒロインにも名前はちゃんとあるわ。ただこの国の人たちにとっては少し、発音がしにくいの」



少しの間の後、エティエンヌは小さな声で七彩(なないろ)と言った。



「え?」



ジュヌヴィエーヌは首を傾げる。



「ヒロインの名前、七彩(なないろ)っていうの。でもこの世界の人たちは誰も正確に発音できなくて、愛称で呼ぶ事にするのよ・・・ナナってね」



ジュジュさまは言える?と問われ、フルネームを口にしてみる。



聞いた通りに言ってるつもりが、ナニャロ、とか、ナニャーニョという音になる。



何度も挑戦しているうちに口の周りの筋肉がむずむずし始めて、思わず口元を手で押さえる。

それを見たエティエンヌが苦笑した。



「お父さまもそうだったわ。『アデ花』の通りね。誰も七彩(なないろ)ってちゃんと言えないの」



でも、と、エティエンヌは目を伏せる。



「私の居場所を奪う・・・かもしれない人を愛称で呼ぶのはなんか嫌で・・・お父さまにも、オス兄さまにも、シルとか他の皆にも、まだその愛称を口にしてほしくなくて」



―――だからヒロインと呼ぶようにしていたのよ。





その後、ぽつぽつと続いたエティエンヌの話を、ジュヌヴィエーヌは不思議な思いで聞いていた。


所々というか、だいぶ理解が追いつかない話だった。


理解の範疇を越えると言えば、そもそも『マル花』と『アデ花』の話そのものがそうなのだけれど。



エティエンヌの前世の世界は、そもそもジュヌヴィエーヌが知るそれとはまったく社会の基盤や通念からして違うから。



「まずね、日本では、身分の違いというものがここほど騒がれないの。身分より学力とか経済力・・・自分でお金を稼ぐ力の方が重視される感じかしら」


「ニホン、というのね」



ジュヌヴィエーヌは、不思議そうにエティエンヌの前世の国の名前を繰り返す。



ニホンには貴族も王族もいない。皇族はいるそうだが、ジュヌヴィエーヌのいる世界での皇族とは少し違うらしい。


絶対的な身分差はないが、貧富の差はある。

男女差はないとは言えないが、意見は自由に言えるし、こちらの世界ほど力関係が偏っていないとか。


全員とは言わないが、将来についても基本的に本人が選び決められると聞き、ジュヌヴィエーヌは目を丸くする。



「自分で生き方を決める・・・?」



環境にも寄るが、基本的に、望めば男女関係なく望む教育を受けられる。

結婚相手もまた然りだと。


しかも、その世界では自由恋愛が普通だという。



結婚前に、いや、そもそも結婚を前提とせずに楽しむ恋愛というものがあり、スキンシップもマナーも言葉使いも、こちらよりずっと砕けたもので。


イメージとしてはこの世界での平民同士の交流を想像したらいいと言われ、ジュヌヴィエーヌは目を白黒させる。

彼女が知る世界とあまりにも違うから。




「でもヒロインに関しては『マル花』と根本は同じなのよ。平民だった頃の距離感で親しげに接してきたマリアンヌに、王太子は恋をしたでしょう?

続編の『アデ花』もそうなの。日本にいた時と同じ感覚でオス兄さまやシル、ゼンたちと親しげに接して・・・そんな天真爛漫で奔放なヒロインに皆、惹かれて恋に落ちるのよ」



でも、とエティエンヌは続ける。



「そんな無邪気で奔放なまま王太子妃になっては駄目。だけど私が邪魔をしたら断罪される。お父さまだって、信じたいとは思うけれど、どこまで頑張れるか分からないわ。だから私は、願っているの」




どうか、彼女がアデラハイムの全てを手に入れようなんて思いませんようにって―――








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