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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第五章 続編開始のカウントダウン
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残念男はくじけない


幸か不幸か、ゼンはくじけなかった。



毎朝、王城にやって来ては、行こうとエティエンヌに手を差し出す。

そして夕方になると同じ馬車に乗って戻って来る。



本当なら、ジュヌヴィエーヌは週に2回は聴講の為に学園に通う筈だったが、今はそれを自主的に控えている。


通常の執務に加え、ラムラース熱病対策という重大案件を抱えたエルドリッジを筆頭に、大臣や文官たちの仕事量が今、半端なく多い状態になっているからだ。


元々オーバーワーク気味だったエルドリッジに至っては、現在の執務量はもはや過労死レベル。


故に、猫の手並みの手助けだと自覚はしているが、ジュヌヴィエーヌは執務室に毎日手伝いに行くことにし、学園に行くのを一時的に止める事にした。


もともと聴講は趣味、もしくは好奇心のようなものだったし、エティエンヌとゼンの件は気になっているものの、妃教育が骨身にしみ込んでいるジュヌヴィエーヌにとって優先順位は明らかだったから。



そんな訳で、エティエンヌは援軍も望めないまま、毎日ゼンと馬車で学園に通う日々を送る事になった。



初日のあの噛み合わない遣り取りを見聞きしたジュヌヴィエーヌは、エティエンヌがさぞや嫌な思いをしているだろうと心配した。

だから、出来るだけお見送りとお出迎えはしたし、時間を見つけては話を聞くようにもしていたのだ。



―――けれど、最初こそ本気で嫌がっていたエティエンヌに、少しずつ変化が起きている事に気づく。



「今日ね、ゼンが珍しく途切れずに最後まで言えたのよ。おはようって」



とか。



「今日はね、ちゃんと天候にあった言葉が言えてたわ」



とか。



「今日の笑みはね、少しだけ胡散臭さが減ってたわ」



とか。



「あまり私のこと、睨まなくなったのよ」



とか。




それでも相変わらず、毎朝、馬車に乗る前には、一人で行く行かないのルーティンのような問答がある。


そしてこれまたいつものように、エティエンヌは最後にはゼンの手を取って馬車に乗り込む。


そう、エティエンヌは結局いつもゼンの手を取るのだ。

少しだけ頬をふくらませながらだけれど。



「もう来なくていいのに。いい加減、諦めてくれないかしら」



そう言いつつも、律儀に馬車停まりの前でそわそわと落ち着きなく、エティエンヌはゼンの到着を待つ。

城門の方へ、何度も何度も視線を向けながら。



そうして馬車が現れて、いざゼンが降りて来ると、「また今日も来たのね」とそっぽを向く。



「私は子どもじゃないのよ。オス兄さまがいなくたって一人でも平気だわ」と言うエティエンヌは、きっとそれで本当にゼンが来なくなったら、がっかりするのだろう。



だから、ゼンが手を差し伸べて「行こう」と言うと、もう、と言いながら手を重ねるのだ。




最初は、ハラハラしながら2人の遣り取りを見守っていた従者や御者も、最近は慣れたもので全く動じる気配はない。



ジュヌヴィエーヌもまた動じなくなった一人だ。


2人がいつもなんやかやと騒いでいるので。

それが妙にテンポが良くなってきたので。



ジュヌヴィエーヌは、その間に入ってゼンにこっそり教えてあげる隙を見つけられずにいる。




そう。



―――エチさまは、ゼンさまにエチと呼ばれなくなって寂しいみたいですよ―――



と伝える隙を。








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― 新着の感想 ―
[良い点] ゼンさんが進歩しているっ…!(笑)
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