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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第五章 続編開始のカウントダウン
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残念男



「もうっ! なによ、なによ、なんなのよ! いきなり馬車で一緒に行くとか言い出しておいて、道中ほぼ無言とか意味が分からないわ!」



果たしてジュヌヴィエーヌの予想通り、非常に微妙な雰囲気の中、エティエンヌは馬車から降りてきた。


一緒に部屋に戻り、侍女たちを下がらせてジュヌヴィエーヌと2人きり。


ここでようやく、エティエンヌは本日の不満を思い切りぶちまけた。



「馬車に乗るなり『今日はいい天気だね』って言ったの。もちろん途切れ途切れよ。つなぎ合わせてそういう意味だろうと思ったの。でもそもそも今日は曇り空だし、なんなら雨も少しチラついていたし!」



ゼンの練習用会話フレーズ集に曇り空バージョンがなかった事を、2人は知らない。



「でも私も鬼じゃないから、そこは指摘せずに頷いてあげたわ。ちょっと目は窓の外を確認してしまったけれど」



エティエンヌ、ゼンの前では意外と大人対応である。



「なのにゼンったら、しかめ面でこっちを睨むのよ。かと思うと、急にニヤリと笑うの。そんなの、何か企んでるみたいで怖いじゃないの!」



どうやら笑顔の練習は、まだまだ回数が足りていなかった様だ。

ゼンの渾身の笑みは、エティエンヌの目には恐ろしく映ったらしい。



「それだけならまだ我慢できたのよ。なのにゼンったら」



急に勢いがなくなったエティエンヌは、俯いてぎゅっとスカートを握りしめる。



心配になったジュヌヴィエーヌが近くに寄ろうと腰を浮かしかけた時、エティエンヌが続けた。



「私のこと、エティエンヌ王女って呼んだのよ・・・っ!」



エティエンヌの眉が、悔しげにきゅっと眉間に寄る。ジュヌヴィエーヌはその理由が分からず、故になんと言っていいかも分からず。


ただ心配そうに口を開いては、そのまま閉じるを繰り返した。



「馬車に乗る前はエチって呼んだくせに」



本当に悔しかったのだろう、みるみるエティエンヌの目に涙が浮かび上がり、ぽろぽろと溢れ落ちる。



「エチさま・・・」



おずおずと愛称を呼ぶと、エティエンヌは涙をそのままにキッとジュヌヴィエーヌを見た。

もちろん彼女に対して怒っているのではない。



「昔に戻れたみたいで、ちょっと嬉しかったのに! 前みたいに仲良くなるのは難しいとしても、少しはお互いに歩み寄れるかと思ったのに・・・っ!」


「そう、ね」


「だから私も呼び方を変えたわ。『なにかしら、トリガー令息』って答えてやったの。そうしたら、私を無視していきなり窓の外の景色を眺めだしたのよ? もう・・・っ、無視するくらいなら、最初から同乗なんかしないでほしいわ・・・っ!」


「・・・残念だったわね」


「残念も残念! 大残念よ! ゼンは・・・あいつは残念男よ~っ!」



ジュヌヴィエーヌはポケットからハンカチを取り出し、エティエンヌの涙を拭う。


ゼンがどういう人なのか、ジュヌヴィエーヌには判断する材料がとても少なく、会ったのは今朝を含めても2度ほどだ。しかも今朝は挨拶程度しか交わしていない。



だが、オスニエルたちと話をしている時に、何度か彼の名前が出た事はある。

その時は決して悪い様には話していなかった。いや、むしろ不器用だが真っ直ぐないい奴だと褒めていたのに。



「もう放っておいてくれて構わないのに、ゼンったら帰りも教室まで迎えに来るのよ」



エティエンヌによると、帰りはまだ少し態度がマシになっていたらしい。


妙な間と、途切れ途切れの言葉。

それでも、朝よりは態度も目つきも話し方も改善していたそうだ。


ほんの少しだとエティエンヌは言うが。



だがそれでも、明日もまた迎えに来るという彼の去り際の言葉にエティエンヌは頷く気になれず、やんわりと断りを入れた。



けれどゼンはそれに同意せず、絶対に来ると言い張ったらしい。



結果、ジュヌヴィエーヌが馬車停まりに迎えに行った時の、あの非常に微妙な空気となった訳だ。



「明日の朝こそきちんと断るわ。オス兄さまが帰って来るまであの残念男と馬車が一緒なんて、耐えられないもの」



そうエティエンヌは息巻いた。









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