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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第五章 続編開始のカウントダウン
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心配の種はあちこちに



午後遅く、ジュヌヴィエーヌはエルドリッジの執務室に呼ばれた。

シルヴェスタとルシアンも一緒だ。


そこで、ラムラース熱病が国内で発生した事実を告げられる。加えて、オスニエルが現地で陣頭指揮に当たるべく、早朝に出立した事も。


オスニエルが今朝食堂に現れなかった理由を知り、今度は不安と心配がむくむくと沸き上がった。


感染力が強く、致死率も高い、アデラハイムでは初めてとなる病。


王太子として現場で指揮を執る―――かつて妃教育を受けた事のある身として頭では理解できる。だが、マルセリオ王国では王太子のファビアンにそのような責務が課された事はない。ファビアンはオスニエルよりも3つ年上にもかかわらず、だ。必然として心はついていかない。



ジュヌヴィエーヌの不安に気づいたのか、エルドリッジが情報を補足する。



「大丈夫だよ。オスには優秀な補佐を沢山つけてある。無茶はしないし、させないさ。特効薬も大量に持たせたしね」



さらに、優秀な補佐たちの一人にはホークスまで含まれていると明かされ、ようやくジュヌヴィエーヌの顔色が少しマシになる。


その後、まだ話したい事があると言われたルシアンだけを残し、ジュヌヴィエーヌとシルヴェスタは執務室を出た。





「たぶん例の物語の話をするんだと思う。熱病が発生したから、いよいよ始まりが近づいてるみたいだし」



これから書庫に直行するというシルヴェスタは、ジュヌヴィエーヌの隣を歩きながら、そんな事を言った。



一年近く前、ジュヌヴィエーヌからだいぶ強引に迷いの森の魔女について聞き出したシルヴェスタは、その後反省して謝りに来た。


それから、たまに自分の研究の成果について話に来る。先日は、ついに他国で発見され保管されてきた魔道具の買い取りに成功したそうだ。



「まあ、役に立つか立たないかは分からないけど、備えはあればあるだけいいからね」



そんな話を真面目な顔でするシルヴェスタは、アデラハイムには魔女も魔法使いもいない事を本気で残念がっていた。


調査によると、昔はこの国にも魔法使いがいたらしい。

300年近く前の話になるが、伝承によれば王家直轄領の森の奥深く、そう、少し前に皆でピクニックに行ったあの森の奥に、魔法使いが住んでいたとか。



「伝承で確認しただけで、住んでた家さえ見つけられてないんだけどさ。魔女か魔法使いに相談出来たらなんて思ってたけど、夢のまた夢だよ」



シルヴェスタは、こればかりはアデラハイムの国民性を恨みたくなると言う。


なんでも、魔法に敵対的な訳ではないが、あまり頼ろうともしないのだとか。


現実的と言うべきか、それとも実力主義か、魔法が栄えていた太古の昔ならばいざ知らず、使える人がごく少数となった今、力を当てにするより自分で解決する方法を探すのがアデラハイム流らしい。



なるほど、だからマルセリオ王国の方が魔女や魔法使いについての話が多く残っているのか。



シルヴェスタの説明を聞いて、ジュヌヴィエーヌは妙なところで納得した。





その後、シルヴェスタと廊下の突き当たりで別れたジュヌヴィエーヌの足は、自然と王族専用の馬車停まりに向かっていた。



そろそろエティエンヌが帰城する時間。

オスニエルのいない学園がどうだったかも気になるが、まず馬車での行き帰りが心配だった。



ジュヌヴィエーヌに話す時は全く普通なのに、相手がエティエンヌになると急に言葉が出なくなるゼン。



見るからに困惑していたエティエンヌが、あの後馬車の中で気まずい思いをしなかったか、早く確認したかった。




タイミングよく、王家の紋章が入った馬車が城門を通るのが遠目に見える。


ジュヌヴィエーヌは足を早めた。








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