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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第四章 恋のつぼみ
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失言?



ルシアンと手をつなぎ、王族のみに許された奥の庭園を歩く。



この半年でルシアンが随分と明るくなったとエルドリッジはジュヌヴィエーヌに感謝していた。

2年前から始まっていた王子教育も、ここ最近は意欲的だという。



15、14、12と比較的年齢が固まっている上の3人に比べ、8歳のルシアンは一人で過ごす時間が多かった。

1歳の時に母を亡くし、兄も姉も、父のエルドリッジさえも精神的に余裕のない時期に寂しさを抱えたまま幼少期を過ごす。

挙句、数年前からは『アデ花』対策でさらに周囲の注意は逸れがちになってしまった。


蔑ろにされる事はなかったとしても、ずっと寂しい思いはしていた筈だ。



だから、まるで親鳥を見つけた雛のように「お義母さま、お義母さま」とジュヌヴィエーヌの後を追う。



たぶん、父や兄、姉では埋められない何かがあるのだ。たとえ兄姉とほぼ年の変わらない義母だとしても、母と呼べるだけでルシアンには特別で。


だから、教師から返された課題結果をいちいちジュヌヴィエーヌに見せに行くし、いつもジュヌヴィエーヌと手をつなぎたがる。

ジュヌヴィエーヌにもらった手縫いの刺繍入りのハンカチはもったいなくて使えないし、ジュヌヴィエーヌが他の誰かと一緒にいるのを見るとヤキモチを焼く。


かといって独占するつもりもないのだ。

ただその中に自分が入っていないと落ち込んでしまうだけ。皆と一緒にいたいだけ。


だからむしろジュヌヴィエーヌといる時のルシアンは、父や兄、姉を見かけると、自ら声をかけ、呼ぼうとする。



今日も、そんな気持ちで呼びかけたのだろう。


廊下を歩く下の兄シルヴェスタの後ろ姿を見かけた時に。



「シル兄さま!」


「うん?」



弟の声に気づき、シルヴェスタが首だけを動かして振り向く。


けれどそれでバランスが崩れたのか、手に持っていた書類が数枚、パラパラと落ちた。



うわ、と言ってシルヴェスタがしゃがみ込む。



自分が声をかけたせいだとルシアンは慌てて走り寄り、手伝おうとした。



「ありがとう、ルシー。大丈夫だよ、一人で拾えるから」



そう言いながら顔を上げたシルヴェスタは、ルシアンの横にいるジュヌヴィエーヌに気づき、何故か慌てた様な顔をする。



「シルヴェスタさま?」



ジュヌヴィエーヌは首を傾げるも、自分も手伝おうと視線を足下に向け―――



「オディール・・・?」



床の上の一枚の紙、そこに記されていた名前に目を見張る。


覚えがある名前。そう、まだ一年も経っていない。

はっきりと記憶にある、ジュヌヴィエーヌが失望と共に縋る様な気持ちで訪ねたあの奥深い森の中。



「オディール・・・あの『迷いの森』の・・・?」



思わずぽつりと漏らした言葉に、シルヴェスタが驚いた様に顔を上げた。



「え? ジュヌヴィエーヌは『迷いの森』の魔女を知ってるの?」


「まじょ? まじょって?」



シルヴェスタとルシアンの声が重なって耳に届き、ジュヌヴィエーヌははっと息を呑んだ。


自分の失言に気づいたのだ。


まさかあの時の話が他の人に漏れてしまったか。魔女の秘薬が今になって問題になったのか。

そう思い青ざめるも、シルヴェスタは喜色満面で彼女の肩を掴んだ。



「まさか迷いの森の魔女に会ったことがあるの? いつ? どこで?」


「え・・・」


「シル兄さま。お義母さま、困ってるよ」



あまりの勢いにジュヌヴィエーヌが言葉も出せないでいると、ルシアンが慌てて間に入る。と言っても身長は全然足りないから壁にもならないけれど。



「ジュヌヴィエーヌ、何かあの魔女について知ってるのなら教えて。今はどんなヒントでも欲しいんだ」



オスニエルと同じく、普段はあまりジュヌヴィエーヌに話しかけようとしないシルヴェスタの必死な様子に、どう答えようかと思い悩む。



魔女について話す事は、即ちジュヌヴィエーヌが依頼した内容について、そしてその後それをどう使おうとしたかについても触れる事になる。


下手をしたら、いや下手をしなくても薬を他国の王城に持ち込んだのだ。事への処罰は大変に重い。


それに、魔女の惚れ薬など、12歳のシルヴェスタが聞いたらなんと思うだろうか。



けれど。



「頼むよ、ジュヌヴィエーヌ」



その真剣な瞳に、ジュヌヴィエーヌは逡巡の後、静かに頷いた。







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