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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第四章 恋のつぼみ
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続編の悪役令嬢の婚約者



国王のエルドリッジと宰相のホークスは学園時代からの親友だった。


エルドリッジが即位する頃と前後してホークスは宰相となり、辣腕で王の治世を支える。



そんな2人であれば、子ども同士に自然と幼い時から交流があっても不思議ではない。



第一王子オスニエルと宰相嫡男のゼンは同い年。

友人、そして側近候補として2人が初めて顔を合わせたのは5歳の時だ。


登城の際に、ホークスがゼンを連れて来たのが最初だった。



2人はすぐに仲良くなり、週に1、2回は王城で遊ぶ様になる。

そこに1歳下のエティエンヌが加わるのに、そう時間はかからなかった。



7、8歳くらいになると、今度はそこにシルヴェスタも加わり、更に賑やかになる。

最近歩き始めたというゼンの年の離れた弟も、そのうち連れて来ようなんて、そんな話をして笑っていたのだ。



だが、たぶんその頃くらいから変化は始まっていた。


ゼンの態度が少しずつ変わってきたのだ。


エティエンヌを前にすると、どこか余所余所しくなる。


口数が少なくなって、視線を合わせなくなって、表情が消えて。


皆で笑っていたのに、エティエンヌが現れた途端にゼンが黙り込むから場が気不味くなる。



エティエンヌには理由も分からず、思い当たる事もない。


最初はムキになって話しかけようともしたけれど、却ってゼンとの距離は広がっていくばかり。



ゼンの事はオスニエルやシルヴェスタと同じ様に、そう兄弟同然に思っていたから、この手のひら返しにエティエンヌは少なからずショックを受けた。

だが、周りはゼンの態度に苦笑するだけ。


そして『そのうち直るから』と慰めにもならない言葉をかけるだけだった。


いや、むしろゼンの方に同情的な目を向けていた。肩を叩いて『お前も大変だな』なんて。



だからエティエンヌは一緒に遊ぶのを止めた。



呼ばれても行かなかったし、むしろ此方から避けてやった。


あちらが先に無視し始めたのだ、だからエティエンヌも同じ様にしただけ。



なのに、オスニエルもシルヴェスタも、エティエンヌに味方しなかった。



『ゼンの気持ちも少しは分かってやりなよ』



分かるものか。


ならば急に冷たい態度を取られて傷ついた此方の気持ちは、どうして分かってくれないのだ。



結局、ゼンだけでなく、オスニエルやシルヴェスタとも少々ぎこちない関係になった。



そんな状態になって、半年くらい経った頃だろうか。



エルドリッジが子どもたちを集めた茶会を開くと言い出した。



オスニエルの婚約者候補を決める為だ。

ついでにエティエンヌの候補者も何人か選ぶという。



正直、エティエンヌは行きたくなかった。


だって、子どもたちの為の茶会ならば絶対に彼も招ばれているから。



けれど、エルドリッジから絶対参加と告げられ、渋々出席したその茶会で。



エティエンヌは意識を失って倒れた。



きっかけとなったのは、たぶん目の前に映った光景だろう。



一つのテーブルに集まったオスニエルとシルヴェスタ、ゼン、イザーク、そしてサイラス。



エティエンヌがイザークとサイラスを見たのは、それが初めて。だから最初は何も思わなかったし、分からなかった。


けれど自己紹介で彼らの名前を聞いた時、エティエンヌの頭の中に何か電流の様なものが走り―――




―――気がついた時には、ベッドの上にいた。




そして、分かったのだ。

いや、思い出したと言うべきか。



―――『アデラハイムに咲く美しき花』―――



あの物語の中では、ゼンはこの茶会の後に政略でエティエンヌの婚約者となる。


けれどエンディングで、彼は愛したヒロインとオスニエルとの恋を応援する為に、悪役令嬢のエティエンヌを―――自身の婚約者の断罪に加わる。



そして、最後に言い放つのだ。



『あなたを好きだった事など一度もない』と。






―――ああ、そうか。



エティエンヌは思った。



ゼンが冷たくなったのは、そういう事か。



最初から好かれていなかったのだ。




もうこの頃には既に断罪の種は芽吹いていたと気づき、エティエンヌは戦慄する。



物語が始まる前に逃げなくては。



頭がおかしくなったと思われても構わない。



エティエンヌは父のもとに駆け込んだ。



『今から5年以内に、私を修道院に送ってください』



そう告げる為に。








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