突然の縁組
ファビアンとの婚約解消について父ケイダリオンに報告した時、ジュヌヴィエーヌはひどく緊張したのだが、父の反応は意外にもあっさりとしたものだった。
母もまたジュヌヴィエーヌを叱責する事もなくいつも通りの態度で接するだけ。
4つ年の離れた兄バーソロミューに至っては、その翌日には仕事で屋敷から離れていた為、ろくに会話もしていない。
そんな家族の反応を多少不思議には思いつつも、自分の不甲斐なさを叱られなかった事に安堵していたジュヌヴィエーヌは、その事についてあまり深く考えずにいた。
それを不思議には思いつつも、自分の不甲斐なさを叱られなかった事に安堵していたジュヌヴィエーヌは、その事についてあまり深く考えずにいた。
その時は、まさか父が以前からジュヌヴィエーヌとファビアンの婚約解消を予測していたとは思わなかったのだ。
ましてや、半月もしないうちに次の嫁ぎ先を決めてくるなど、露ほどにも。
「側妃、ですか・・・?」
「ああ」
「・・・あの、それは、もしかしてファビアンさまの・・・?」
「いや」
即答で、しかも否定である事にホッと息を吐く。
だが、続いてケイダリオンが告げたのは、ジュヌヴィエーヌにとって意外すぎる相手―――アデラハイム王国の現国王エルドリッジとの婚姻だった。
アデラハイム王国は、ジュヌヴィエーヌのいるマルセリオ王国と一つ国を隔てた位置にあり、それまでもそれなりの交流があったものの、ケイダリオンが外務大臣になってから急激に親交が深まった国である。
アデラハイムの国土は広く、国境の一部は海にも面している。
農業も漁業も盛んで、海路陸路での物流で商業的にも潤った国。
国力もあり、資産も潤沢。治世も安定している。
そんな国の側妃となれば、決して悪い話ではない。
―――ない筈、なのだが。
「・・・あの、お父さま。私の記憶では確か、今の国王陛下のお年は・・・」
ジュヌヴィエーヌは、王太子妃教育で地理や国際情勢についても学んでいる。
その時に得た知識を総動員し、ジュヌヴィエーヌがおずおずと口にした言葉は、アデラハイム国王の年齢だった。
そう、今の国王は確か。
「・・・そうだな、エルドリッジ陛下はお前よりもずっと年上だ」
間違いであってほしいという願いも虚しく、ケイダリオンはあっさりと返答する。
ずっと年上との父の言葉通り、ジュヌヴィエーヌは16歳、対するエルドリッジ国王は37歳。
今年40になるケイダリオンと、さして変わらない年齢だ。
だが、ジュヌヴィエーヌの不安はそれだけでは終わらない。
「それに・・・亡くなった正妃さまとの間には・・・その・・・」
「・・・ああ、王子王女が4人おられる。一番上の王子は確か今、15歳と聞いたかな」
「・・・っ」
無表情で言葉を継いだ父に、ジュヌヴィエーヌは目眩を感じた。
義理の息子となる王子の年が、自分と1つしか違わないのだ。しかも15歳を筆頭に4人。
だが、ケイダリオンは、これは決定事項だと続ける。
「エルドリッジ王には今、妃がいない。お前は側妃ではあるが、唯一の妃としてアデラハイム王国に嫁ぐのだ」
学園の卒業を待つ必要すらなく、半月後の第一学年の終了をもって王立学園を中途退学。
そのひと月後までに出立の準備を終え、アデラハイム王国へと向かえと命じられる。
それら全てを淡々と告げる父の言葉を、ジュヌヴィエーヌはすぐには受け止められず、どこか他人事のように聞いていた。