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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第四章 恋のつぼみ
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私とおいで



ゼン・トリガーと名乗った青年は、宰相ホークスによく似た面差しをしていた。



「はじめまして・・・という気があまりしないのは、お父さまによく似てらっしゃるからかしら」



ジュヌヴィエーヌが微笑むと、ゼンもまた、よく言われますと微笑み返す。



「父からお噂は予々伺っておりました。ですが聞いていた以上にお美しい方で驚きました」



ホークスと同じ薄青の髪に濃紺の瞳。顔立ちまで似ている上に、弁舌爽やかなのも一緒の様だ。



社交辞令とは理解している。

けれど、マルセリオでは身内以外からほとんど褒められる事のなかったジュヌヴィエーヌは、ゼンの台詞につい照れて頬を染めてしまう。



「っ、あの、私はビクター・ラキシュと申します」



その笑みに当てられたのか、別の令息が割り込む様にして口を開いた。



ビクターにも視線を向けて挨拶を返せば、さらに他にも何人か令息たちが来ている事に気づいた。


全てゼンの友人なのかは分からないが、こんな風に令息たちに周囲を囲まれること事態がジュヌヴィエーヌにとって初めての経験だ。


マルセリオでの社交デビューは済ませていたけれど、10歳の時からファビアンの婚約者だったジュヌヴィエーヌは、令息たちに囲まれた経験など皆無と言っていい。


いや、ある事はあるのだ。ファビアンと彼の取り巻きたちに詰め寄られ、威嚇されるという形でならば。ただこれは場合としては当てはまらないだろう。


慣れない事態に焦り、隣にいる筈の兄を見れば、兄は兄で人に囲まれていて助け船は望めなそうだ。



仕方ない、とジュヌヴィエーヌは頭を切り替える。



そう、エルドリッジにも言われていたではないか。



ジュヌヴィエーヌが恋をして、想い想われる人のもとに嫁いでほしい、と。


それが出来るかは分からない、そもそもどうやって恋に落ちるのか見当もつかない。


けれど挨拶程度で狼狽えていては、友人にもなれはしない。それでは、恋をする以前にスタート地点にも立てないだろうとジュヌヴィエーヌは考えた。



・・・そうよ、まずはお知り合いになって頂かないと。



幸い、かつて受けた王太子妃教育のお陰で、顔と名前は一回で覚えられる。



気を取り直して、淑女としての微笑みを浮かべ、一人ひとりと挨拶を交わし、その後も何気ない会話を続けた。



だが、ファビアンたちの影響か、知らず若い令息たちへの苦手意識が育ってしまっていた様だ。令息たちに囲まれての会話に疲労感を覚える。



顔に出したつもりはなかったが、ゼンも何かを感じたのだろう、会話をさりげなく終わらせようと流れを作る。


だがひとり、共に来ていたビクターは、その流れに気づいていないのか会話を続けようと必死だ。



「ジュヌヴィエーヌさまは、観劇には興味はありますか? もしよかったら、今度・・・」



どうしようかと考えていた時、背後からその声は聞こえた。



「ジュヌヴィエーヌ」



すっと腕を取られ、自然と一歩足がさがる。

その分、令息たちとの距離が開いた。



横に立っていたのは、エルドリッジだった。


取ったジュヌヴィエーヌの手を、エルドリッジはそっと自分の腕に置き、エスコートの形を作る。それからエルドリッジは続けた。



「あちらでエチが待っているよ。連れて行ってあげるから私とおいで」


「エルドリッジさま」


「皆、悪いがそういう事で。ほら、行こう」



エルドリッジは令息たちに断りを入れると、そのままジュヌヴィエーヌを連れて、遠くのテーブルで令嬢たちと歓談するエティエンヌの方へと誘う。



突然の事に、それまで話をしていた令息たちに挨拶も出来ず、ジュヌヴィエーヌは慌てて彼らに向かって軽く頭を下げて歩き出した。



「ごめんね、ジュヌヴィエーヌ。いきなりたくさんの令息たちに囲まれて驚いただろう」


「え・・・」



どうやらエルドリッジには、内心で慌てているのに気づかれていたらしい。



「お気を使わせてしまいました。マルセリオではあんな風に令息の方々と話す機会などなかったもので」


「気にする事はない。本当なら小ぢんまりした集まりから始めるつもりだったのに、急遽予定が変わったせいで、いきなりこんな大きなパーティーになっちゃって」



本日何度目になるか分からないエルドリッジのそのボヤキを、ジュヌヴィエーヌが聞くのはこれが初めてで。



だから、うんざりする程ホークスにその台詞を呟いていた事も、ジュヌヴィエーヌの手を引くエルドリッジの姿に(ホークス)が笑いを堪えている事も。



エチという言葉に、ゼンが微かに反応した事にも、この時は気づかなかった。









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