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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第三章 もう一人の悪役令嬢
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続編のヒロイン


「前作・・・それは、私が悪役令嬢だという物語のことですよね・・・?」



そう呟いたジュヌヴィエーヌに、エルドリッジが頷きを返した。



「『マル花』だったね。それでその後、ホークスがエチの言った事を僕に伝えて、半信半疑で調べてみたら・・・本当にいてびっくりした。マルセリオ王国の筆頭公爵家の令嬢で、王太子の婚約者でもあるジュヌヴィエーヌ・ハイゼン、君はあの頃11か12くらいだったかな」



それが約4年半前。


マルセリオ王国の王太子ファビアンが、男爵令嬢マリアンヌと出会うよりもずっと前の時期だ。



「念のために、他の人物についても実在するか調査したよ。宰相嫡男のアンドリュー、王国騎士団長の次男テオ、魔法保安局長の養子ドミトリアス、全員親の爵位も名前も一致しちゃってさ」



けれど、まだマリアンヌは、ファルム男爵の庶子として家に引き取られてはいなかった。



「まあでも、ここまで出揃うとさ、もう認めるしかないって言うか。だって、たった9歳の女の子が他国でそこまで言い当てたなら、信じる外ないでしょ。ホークスとか大臣とかが言った事なら、作り話だと一蹴出来たけど」



前髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、エルドリッジが呻いた。



「それで僕とホークスは、『アデ花』対策に乗り出す事にしたんだ。だってエチの話だと、オスもシルも、婚約者を放っぽってヒロインとやらに夢中になるらしいし、あろうことか、オスは最後にその子と結婚するんだって。国政が乱れる未来しか見えないのに、なんで物語の中の僕はそれを許しちゃうんだか、全然分からないけど」



その後、エルドリッジは物語が始まる前段階のマルセリオについては観察対象とし、人を配置して適宜報告させる事にした。


時間軸としてはマルセリオの話が先だ。今後の対策の参考にしようという目論見もあった。



「エルドリッジさまがお味方になってくれると聞いて、エティエンヌさまも安心なさったのではないですか?」



ジュヌヴィエーヌの問いに、エルドリッジは渋面になる。



「それがね、全然、全く、ち~っとも安心してもらえなかったんだ」


「え?」



国王の地位にある父親が、話を信じ、対応すると決めたのに?



「普通そう思うよね。だって僕は国王だよ。乱暴な言い方になるけど、気に入らない奴を簡単に排除できる力は十分持ってる。

まあ暴君になりたくないから、普段はやらないけどね。でもエチが悪者にされ、国が乱れる原因にまでなるなら話は別だ。王さま権限で、そのヒロインとやらには僕らと関係のないところにさっさと追い払ってしまえと、そう・・・」



エルドリッジが額に手を当て、大きな溜め息をこぼす。



「思ったんだけど、ねえ・・・」









『信じてくれただけで十分よ、お父さま』



対策を取ると言ったエルドリッジに、エティエンヌは言った。


その反応にエルドリッジは酷く戸惑った。


マルセリオの話と違って、こちらは先に対応をすると決めている。しかもエルドリッジは国王で、男爵家の庶子くらいどうにでも―――







「・・・まあそれは、僕が事態を舐めてたっていうのもあるんだ。『アデ花』の話は、最初の頃にホークスから簡単な報告を受けただけだったから、内容をよく分かってなくてさ。裏取りしたお陰か、『マル花』の流れは把握していたのにね」


「エルドリッジさま、それは・・・」



エルドリッジの言い方に、ジュヌヴィエーヌの頭に疑問が浮かぶ。



「王としてのお力があっても対処が難しい、という事は、続編のお相手役はマリアンヌさまとは違うタイプの方なのですね?」


「う~ん、タイプという問題じゃなくてね。なんだろう、続編だからって、そこだけわざと設定を変えた感じ? 他は似たり寄ったりなのに、妙にいじくらないでほしかったよ」



エルドリッジはどさりと椅子の背もたれに体を預け、深く息を吐いた。



「・・・続編のヒロインとやらはね」



天井を仰ぎ、エルドリッジが呟く。



「この国にいない。というか、まだこの世界のどこにもいない」


「え?」



驚きで目を瞬かせるジュヌヴィエーヌの耳に、僅かに低くなったエルドリッジの声が響く。



「ある日突然、ご降臨あそばすそうだよ。神殿の裏手にある湖のほとりに、まばゆい光と共に、華々しくね」











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