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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第二章 あなたは悪役令嬢でした
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後はこれを注ぐだけ



バーソロミューは、2日ほどアデラハイムの王城に滞在した後、帰国の途についた。



見送りに立つ妹に、ひと言、「幸せになれよ」とだけ声をかけて。



兄が泊まる客間の隣にもう一つ、予備の部屋を用意してくれたエルドリッジの配慮のお陰で、ジュヌヴィエーヌは兄と最後に時を過ごす事が出来た。



もともと仲の良い兄妹だった。

バーソロミューは面倒見がよく、寡黙ではあるが行動で愛情を示す人だったから。


それがろくに顔を合わせなくなったのは、ジュヌヴィエーヌがファビアンと婚約した頃からだろうか。


王立学園の入学を控えたバーソロミューが、忙しくなったせいかもしれない。

ジュヌヴィエーヌもまた、王太子妃教育で日々忙殺され、家族とゆっくり話す時間がなくなっていた。


最初の顔合わせの時から不仲が囁かれていた王太子との婚約については、バーソロミューの耳にも届いていたのだろう。

ろくに顔を合わせないとはいえ、全く会わない訳ではなく、けれどたまのそんな機会も「殿下の婚約者としての自覚を持て」のひと言で終わる。


そんなプレッシャーは兄だけでなく、父や母からも容赦なくかけられた。


それら全てを貼り付けた笑みでやり過ごすも、いつか限界が来てしまいそうな、そんな嫌な予感はどこかにあって。

でも、それに必死に気づかない振りをした。



けれど、いつからかどこからか。


そんな息苦しさを感じなくなっている事に、ジュヌヴィエーヌは気づいた。



兄は、会うとただジュヌヴィエーヌの頭をひと撫でするだけになり。


父は、「お前はよくやっているから心配するな」と言う様になって。


母は、ファビアンが約束をキャンセルする度に、お茶や趣味の刺繍に誘う様になった。



分かってもらえたと思った。


だから、頑張り続ける事が出来た。


ファビアンから評価されなくても、見向きもされなくても、マリアンヌの方がいいと言葉で態度で示されても。



それが自分への評価の全てではないと、思えたから。



・・・でも、だからこそ。



兄を乗せた馬車が遠く小さくなっていくのを見つめながら、ジュヌヴィエーヌは思った。



ファビアンとの婚約解消後、すぐにアデラハイム国の側妃の話を持ってきた父に失望した。


アデラハイムが嫌だとか、そういう事ではなく、駒の配置換えみたいに娘の嫁ぎ先を選んだ父に落胆してしまったのだ。



真実の愛に負けた『まがいもの』の扱いなど、結局はこんなもの。


ならば今度こそ、この結びつきを本物にしよう、してみせようと、迷いの森にまで行って魔女オディールに恋の秘薬を依頼した。



エティエンヌが言うには、ジュヌヴィエーヌの人生には、何か予め定められた筋書きの様なものがあるらしいけれど。



ファビアンの側妃になる予定が、エルドリッジの側妃に代わっただけ。でも、だから何だと言うのだろう。



・・・真実に愛する方が他にいらっしゃるのは、どちらも同じなのに。



しかも、エルドリッジの愛する人は既に儚くなっている。


美しい思い出に変わった人に敵う筈もない。ジュヌヴィエーヌは一生『まがいもの』で終わるのだ。



ならば。








「・・・」



今、ジュヌヴィエーヌは、エルドリッジの私室で彼が執務から戻って来るのを待っている。


エルドリッジに呼ばれたのだ。



時は夕食を終えて一時間ほど後。



『時間帯的に早すぎるわ』とか、『陛下も楽しみにしているのよ』とか、ノラを筆頭に、侍女たちはきゃあきゃあと騒ぎながら、それはもう嬉しそうにジュヌヴィエーヌの支度を整えていたけれど。



今はそれも全て終わり、侍女たちに案内され、王の私室の更に奥、寝室のベッドの隅っこにひとり腰掛けている。



ベッド脇のサイドテーブルの上には、飲み物の入った瓶と、それを注ぐ為のグラスが二つ。



心許ない夜着の上にガウンを羽織ったジュヌヴィエーヌは、隠しておいた秘薬の小瓶を手に取り、それを指でそっと撫でる。



―――義務でも責任でもなく、愛しているから―――



そんな言葉に焦がれて魔女に会いに行ったジュヌヴィエーヌは、小瓶の蓋を静かに開ける。




後は、これを注ぐだけ―――







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