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私に必要なのは恋の妙薬  作者: 冬馬亮
第二章 あなたは悪役令嬢でした
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「まさかと思いつつ、そちらに話を持ちかけたのは4年も前だったか・・・結局は、エティエンヌの言った通りになったな」



エティエンヌとジュヌヴィエーヌが謁見の間を去った後のこと。


エルドリッジ国王は、第二、第三王子の2人にも退出を促した後、残った者たちに向かって噛みしめる様に呟いた。



そう、この場に残った者たちは皆、宰相、内務、外務大臣たちを含め、事情を知る者たちばかりだ。


ジュヌヴィエーヌの兄バーソロミューもまた、そのひとり。


妹の婚約解消が決まってすぐにアデラハイムへと向かった彼は、実はこのふた月の間に、この国とマルセリオとを既に2往復していた。



そんなバーソロミューは、胸に手を当て、改めて感謝をアデラハイム国王エルドリッジに示す。



「陛下には、両親も深く感謝しておりました。前もって情報をいただいていたお陰で、妹にも余計なプレッシャーをかけずに済みましたし、ハイゼン公爵家としてマルセリオ王家相手に冷静に立ち回る事が出来ました」


「はは、初めてこの話をケイダリオンにした時は、今にも殺しそうな目つきで睨まれたけどね。まあ、上手くいってよかったよ」


「父が大変な失礼をした様ですね、申し訳ありません」



バーソロミューは、恥ずかしそうに頬を掻く。



「俺もそうでしたが、話を伺った当初はなかなか信じられず、我が公爵家を貶める為の罠ではないかと疑っていたのです」


「まあ、その反応が普通だよ。むしろ疑いもせずに全て鵜呑みにする様な人物だったら、こちらから提案を下げていた。持ちかけておいて言うのも何だけどね」



バーソロミューは苦笑を漏らす。



「そうですね・・・最初からそうされたとしても、アデラハイム王国側に何も失うものはありませんしね。俺たちがそれを知る方法もなかったでしょうし」



そう、何も知らなかったら、王太子との関係を改善出来ないジュヌヴィエーヌを責め、ギリギリまで追い詰め、愚行に走らせていただろう。


そうして卒業パーティで一方的に婚約破棄を告げられるという恥辱を受けた挙句、2年後には王家の都合で側妃として召し上げられていた。



「エルドリッジ国王陛下。どうか妹を、ジュヌヴィエーヌをお願いします。ファビアン殿下から一度として顧みられず、努力を認められた事もなく、それでも健気に頑張り続けた子です。妹には・・・ジュジュには、幸せになってほしい」


「ああ」



エルドリッジは深く頷く。



「分かっているよ。私とて他人事(・・・)ではない。もしこの国でジュヌヴィエーヌ嬢が幸せを見つけてくれたら、それは私の希望にもなる。悪役と定められた者でも、予め作られたあらすじから逃れ、幸せになる事が可能だとね」



どこか遠くを見る様な眼差しで、エルドリッジがそう言うと、宰相ホークスが口を開いた。



「陛下、ジュヌヴィエーヌ嬢には、事の全容をいつお話しなさいますか? 側妃になるつもりでこの国に来られたのでしょう?」


「つもりではない。あの子は正式に私の側妃になるのだよ。マルセリオの国王ともそう話をつけてある。そうでなければまずいんだ」


「失礼しました、そうでしたね。ですが、父親とさほど年の変わらぬ男性に嫁ぐとなれば、余程の覚悟で赴かれた筈。

なるべく早く内情を説明して、安心させてあげた方がよろしいのではないかと」


「・・・随分な言い草だなあ。覚悟しなきゃいけない程、私は年寄りではないつもりだけど」



おどけた口調で文句を言うエルドリッジに向かって、笑いながら言葉を発したのは内務大臣だ。



「確かに陛下は御年37、まだまだ男盛りでございましょう。ですがジュヌヴィエーヌ嬢からしたら、どうひいき目に見ても若くは見えないでしょうな」


「50を超えたお前と比べたら、私だって若者の部類に入るぞ」


「おやおや、こうもムキになられるとは、陛下はジュヌヴィエーヌ嬢に一目惚れでもなさったか?」


「まさか」



玉座の肘置きに頬杖をつき、エルドリッジは続ける。



「大丈夫、分かってるよ。彼女の様に健気で可愛らしい女の子は、年齢も地位も相応の相手と幸せになって貰わないとね」



エルドリッジは溜息を吐く。



「・・・そうしたら、私も希望を持っていられる。エチにも幸せな未来がある筈だと」







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