第三話 今更だがただのお友達ではなさそうだ (2)
第三話 今更だがただのお友達ではなさそうだ (2)
貴族令嬢というのはどんなものか?
聞かれると様々なイメージが広がっている。
とはいえ、実際の所として貴族令嬢というのも貴族としての役割がある。
まずはなんといっても家の存続をするための人手ということだ。
まずは政略結婚。
貴族令嬢の価値はまずここが重要とも言える。
貴族令嬢は嫁入りをすることで他家に口を出すことが出来る権利を手にするのだ。
そのために貴族令嬢に求められるのは貞操観念だ。
もちろん貞淑でいるべきという義務があるというわけではないが……。
浮気や愛人を作るような事がしてはいけない。
基本として恋人ごっこならば問題が無いが、肉体関係などがあったら問題なのだ。
閑話休題。
とりあえずまず優先なのは嫁入りをするということだ。
そして跡継ぎを産む。
貴族令嬢というのは基本としてこれが出来なければ恥だ。
俺も一応とは言え王太子の婚約者……つまり将来的に王妃となる予定だ。
それも次代の王族を産むというのが最優先……。
本当に俺は婚約者になれない欠陥というか論外人物というわけだ。
まあ。あれは王太子が言い出したむきなので論外としている。
では跡継ぎさえ結婚すれば問題が無いというわけではない。
だが、それだけではない。
次に必要なのは社交性。
貴族社会で男は戦場や軍事などの事をするが……。女には女の情報収集がある。
むしろお茶会や社交界というのは女が主体となる。
情報収集、人脈作り……そういったことをするのが貴族令嬢……そして貴族夫人の役目。そして場合によっては家を留守にする夫の補佐をするということだ。
実は軍での活躍は得意だが書類仕事が苦手だという貴族男性は珍しく無い。
また仕事で領地を留守にしがちなものもいる。
そう言った者達は文官を雇い書類仕事が得意な補佐官がいるが……。
留守しがちな場合でもそれを補い支配するのは基本として女主人だ。
夫が家にいない間は妻や跡継ぎが家を管理する。
そして料理経営をするのだが……。
「普通の貴族令嬢の範囲を超えている。
……第一、これだけの知識の限界を超えていると言える。
ご令嬢はいったいどこでこれだけの知識を?」
俺の質問にアリスの父親は子犬のように震えながら涙目になった。
別に俺はとがめたいわけではない。
むしろ褒めているのだが……。
こうしてみると本当に申し訳なく感じる。
「む、娘は幼い頃から聡明な子供でして……。
親の欲目と思われるかもしれませんが……。
読み書きの物覚えも兄よりもはやく計算も速い。
わずか五歳で二桁の暗算やかけ算割り算まで使いこなせる才女なんでございます」
「それは……」
俺は驚いた。
五歳で二桁の暗算。
王都で神童、秀才、天才とうたわれる者たちでも簡単にできない事だ。
もしも彼女が男だった場合、さぞかし名をはせていただろうが……。
「それを知られていなかったのは……。
彼女が女だからか」
「ひい。すみません。すみません。すみっ」
頭を何度も下げ続けた結果……勢いつきすぎて前のめりに転ぶアリスの父。
そのまま勢いよくすっころびテーブルに置いてあった花瓶が頭にぶつかる……ところで俺はその花瓶を受け止めた。
ここで気絶されたら会話にならない。
それに別に俺はとがめるつもりはない
「安心しろ。別にとがめるつもりはない。
優秀すぎる女性というのは……時にその当人を幸せにするとは限らない」
男尊女卑の考えというのはどうやってもある。
女が自分よりも優秀とみて恨み妬み。
あるいはそれを妨害や利用しようとする者。
そういった人間は大勢居るだろう。
この父親の性格や気質ではそれらから守り通せるとは思えない。
ならば隠し通すという手段を選んだのだろう。
辺境の田舎では社交界にもめったに出ない。
そんなご令嬢について噂を集めようとする人も少ない。
それが事実なのだろう。
大変なのは伴侶を見つけることだが……。
まあ。そちらはこちらがどうにかすると言う約束だ。
そのときの条件などでどうにかするのかもしれないが……。
それにしても
「ただの才女ってレベルじゃないだろう」
思い出すのはテンセイシャと名乗っていた言葉。
そのテンセイシャだからこそ出来る能力なのだろうか?
「そんな特別な能力というわけではないんですよ」
質問してみたらあっさりとそう言われてしまった。
「そうなのか?」
「はい。この世界と違って私達の世界はそれこそ平民でも勉強ができているのが普通。
文字の読み書きはもちろんですが……。
歴史、文化、美術、数学。
そういったことをきちんと学んでいくので……。
大抵の人はそれなりの仕事は平均的にできたりします」
そうアリスは言う。
「平民もか?」
「学校に行くのは基本的に義務なんですよ。
六歳になった子供は15才まで学ぶ義務があるんです。
さらにその後、基本的には七年ぐらいは基本的に学び、勉強を続けます。
勉学だけではなくて運動も覚えていますし……。
15才以降は学ぶ分野も変わりますね。
他国の言葉を集中的に学ぶ人もいますし……。
音楽を学ぶ人も大勢居ます」
「そんなに学ぶのにお金は大丈夫なのか?」
「あー。すくなくとも15才は義務なので……。
国がお金を出してくれるんですよ」
「だが、労働力が失うだろう」
「その世界では子供が働く必要はさほど重要ではないんですよ。
まあ。必要な家庭もありますが……。
学校を卒業後に働くのが普通です」
「……それはすごいな」
「まあ。それはかなり試行錯誤の末なんですけれどね。
最初の頃はそれこそ平民なら仕事がほぼなくなる時間帯。
お昼ご飯が用意されていて無料でご飯が食べられる。
そういった環境を用意して少しずつ学校の文化をうけいれていましたからね。
急な変換はむりがありますし」
「そういうものか」
「はい」
「そのわりにはこの領地はかなり変化を……」
「これでも調整していますよ。
受け入れやすいように土台から作っている。
順番に気をつけないと大変なことになりますし……」
俺の言葉にアリスはそういった。
実際に学び舎はまだそこまでではないらしい。
いろいろと気をつけているらしいが……。
このアリスが嫁入りしても大丈夫なのかが不安に感じてしまうのだった。
そんな俺の不安を感じ取ったのか、
「大丈夫ですよ。
ちゃんと、父様や兄様にも教えています。
私はあくまで女性です。
そもそもとして表向きに動いているのは父様と兄様です。
私はあくまでも内情で仕事の手伝いをしているということです。このせ……今はまだ女性が前にたって働くということを受け入れる方は少ないので……」
「その言い方だと、まるであなたの知っているイセカイとやらでは違うみたいね」
「まあ、まだまだ難しいところもありましたが……。
少なくとも女が男と同程度の仕事をしている。
場合によっては女が高い地位にいる。
それができる世の中ですね。
女が商会の会長処か、女王となって国を治めるのも可能です。
それこそ、女王は顔だけで王配が実権を握るというのもありえませんし……。
それこそ、跡継ぎだからという理由で長男が後継者になることもありません」
「まあ」
「と言うか、血縁者だからと言う理由で跡継ぎになるというのも……。
まあ、少なかったりしますね。
一部の老舗とか伝統芸能ならばともかく……。
基本は高い実力を持つものが後継者になるのが普通。
まったくの血のつながりのもない赤の他人を後継者にするのもありえます」
「それで周囲は納得するの!?」
信じられない発言に俺は驚く。
「貴族という地位そのものがないんですよ。
貴族だからといって頭を下げる時代は終わっている。
能力が高ければ平民だろうがスラム街出身だろうが関係ない。
権力と立場をてにいれることが出来る。
まあ、もちろんとして最低限の保障は必要ですけれどね。
けい……衛兵の身内に犯罪組織がいればさすがに就職は難色を示されますが……」
「まあ。それはね」
それはさておいても驚きの話だ。
「それは王も?」
「ええ。どの国でも王は政治を行わずに国の象徴として君臨する立場でした。
政治としての立場はあまりないですね。
もちろん国の顔として親善として他国や被災地への訪問。
そういった活動は義務とされていますが……。
政治として統治するのは国民の投票で決まります。
とはいえ、この世界でそれをするのはあまりにも非現実的ですが」
「非現実……確かにね」
アリスの言葉に納得する。
しかし、こうして話しているとアリスは才女だ。
それこそ、高い才覚を持っている。
「あなたは、今の世界というか現状に納得しているの?」
「いえ。リリア様が悪女として処刑される。
そんな世界は認められません。
リリア様は私の言葉を信じてくれて笑顔ですし……。
けして悪女じゃないんです!」
「いや。そっちじゃないから……」
そもそもとして悪『女』ではない。
とにかくそういったことを考えつつも俺は説明をする。
「そういう意味じゃない。
お前のその知識。
それだけを聴いても、この世界は行きにくくないか?」
「そうでもないですよ」
俺の疑問にあっさりとアリスは否定した。
「まあ。確かに和食はないし、ハーレムルートなんて国の未来を考えると不安ですよ。
けれども、元々が乙女ゲーだったからか……。
お風呂はちゃんとあるし、食事は美味しい。
これが地球の中世ヨーロッパ文化の食生活とかだったら死んでましたね。
あの時代。下手をしたらトイレは垂れ流し。
しかも服は拘束具。
頭に船とかシャンデリアを乗せる羽目になっていましたし」
「なんて?」
トイレを垂れ流しあたりから耳を疑ったが……。
頭に船やシャンデリアと言われて俺の想像力は限界を超えた。
「あ、別に本物じゃなくて玩具ですよ。
まあ。私のいた世界の大昔の他国なんですが……。
私の故郷でも大昔は通い婚でしたし……。
十キロの服を着ていたんで……。
あれはあれで拘束具ですよね。
歯も黒くしますし」
「ごめん。よく分からない」
世の中、まだまだ理解できないことが多すぎる。
そんな事をおもいながらつぶやくことしか出来なかった。
「まあ。この世界も気に入っていますよ。
それに、国をとか世界をどうにかするなんて……。
正直、私が出来る自信がないんですもん」
あっさりというアリスの笑顔に俺はまぶしさを感じた。




