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第三話 今更だがただのお友達ではなさそうだ (1)


「ここがシュテルン領」

 貴族が管理する領地。その一つであるシュテルン領。

 王国の片隅にある辺境とまではいかないが都心とはお世辞にも言えない田舎。

 緑豊かで自然あふれると言えば聞こえがよいが……。

 逆の言い方をすれば何もない。

 牧歌的な環境がそこに広がっている。

 若者は離れていき特産品も名産品も観光名所もない。

 そんな場所だったはずだが、

「これは……また」

 様変わりしていた。

 シュテルン領の税収が跳ね上がった。

 その情報を聞いて調べにきたのだ。

 表向きは友人の元へ療養を兼ねた行楽だ。

 そして馬車に乗ってやってきたのだが、

「ずいぶんと変わったわね」

 人が増えており店も増えており賑わいが増えてたくさんの子どもが走り回り観光客も大勢居る。

 何があったんだろうか?

 そう思っていると、

「アリス様。お待たせしました」

 リリアがやってきた。

「荷物などはすでに屋敷には運ばせました。

 町並みを見てみたいんですよね。

 お体は大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫よ」

「よかったです。今、このシュテルン領は療養によい観光地となっているのできっとアリス様も健康になりますよ。

 元気になってさらに美貌も磨き上げましょう。

 こうなったら王太子を骨抜きにした美貌をさらに磨き上げて腰抜けのクラゲにしてしまいましょう」

「腰抜けは意味が違うのでは?」

 そうつぶやきながらも町並みを歩く。

 ちなみにあまり目立たないようにと身なりはよい服装だがさすがに領主である貴族の娘とさらに上位貴族の令嬢というのはわからないようにしている。

 それにわからないだろうが護衛もいるだろう。

 それよりも、

「けれど、ずいぶんと賑わっているわね」

「はい。アリス様のお父様から借り受けたお金を元手にして領地改革を進めたんです。

 その結果、観光地となったんです。

 いやー。温泉があってよかったですよ」

「おんせん?」

 聞いたことがない言葉に思わず聞き返した。


 地面から湯が出る事。

 それはごくまれにだが聞く話だ。

 基本的に火山地帯というあまり環境がよろしくない場所で起きる謎の現象。

 このシュテルン領地もその火山が近くにあるのでそういったことが起きる。

 アリス曰くそれは温泉らしい。

「源泉だと確かに暑くてとても入れませんが……。

 水を混ぜてちょうどよい温度としてお風呂にしています。

 それを温泉としています。

 普通のお風呂と違って肩こり、腰痛と言った病気を治す効果。

 さらに美肌、冷え性、美白と言った美容効果もあります。

 アリス様も温泉に入って健康になってさらに美しくなってください。

 もうこうなったらさらに美貌を磨き上げて王太子に婚約破棄されない。

 そんな感じになりましょう」

「あー。ありがとう」

 前半は本当に効果があったらうれしいが後半はどうでもよい。

「けれど本当に?」

「温泉はただお湯を温めただけではないんですよ。

 地面からにじみ出るお湯。そのため地中にあるあー……精霊の力。

 それらがお湯ににじみ出ているんです。

 炎の精霊、水の精霊、大地の精霊。

 三つの精霊の魔力を宿しているとされている。

 魔力水と言えるほどの力はありませんが……」

 精霊。

 この魔法があふれた世界で魔力を司っているとされる存在。

 火の精霊、水の精霊、土の精霊、風の精霊とされる四大精霊。

 そしてそれらを上位に位置するとされる光の精霊。そして邪悪な闇の精霊。

 それぞれの魔力もその精霊に愛されるかどうかも影響が出ているとされている。

 魔力水はその魔力を込めた魔法薬の材料にもなる希少な品だ。

 とはいえ、それは珍しいが魔力水ほどではないがそういった力がある。そう言われると納得は出来る。

「けれどそれだけでこんなに賑わうものなの?」

「もちろんこれだけでは無理ですよ。

 この温泉を主体として観光地として発展させていったんですよ。

 アリス様にもご案内しますよ」

 そう言ってリリアは笑みを浮かべて言ったのだった。


 正直に言えばリリアへの印象というのは妄想癖があるが社交界でなんとかやっていける。ただし大成ははしなさそうな令嬢という印象だ。

 おそらく可も無く不可も無いほどほどの身分と財力のある貴族と婚姻を結ぶだろう。

 まあ。うちも口を出すので嫁ぎ先で不憫な目にはあわないだろう。

 そう言う程度の認識だった。

 妄想があるがさすがに言う場所と言わない場所。そういったのも出来ているし社交もある程度は出来ている。

 この妄想癖を口にさえ出さなければ婚姻に多少の苦労はあるが不幸にはならない。

 老い先短いオレの友人となってくれたこの令嬢。

 なるべく幸せな人生を歩んでほしいのである程度のフォローは両親に頼んでいる。

 両親も愚直かもしれないが真面目で善良な貴族であるリリアの両親と兄を悪くは思っていない。取り立てて特別扱いするのは難しいが不幸にする理由はない。

 むしろ本当に不幸になっているのを見過ごすと罪悪感を抱く。

 そう言った相手だ。

 けれども今回の旅行でその印象は大きく変化した。

 それも良い意味でだ。

「商才がすごいな。

 これで息子だったら……。

 間違いなく跡取り問題が起きていたかもしれないな」

 思わずそうつぶやくがあの両親と兄だ。

 兄のほうがむしろ妹を跡取りにするべきだ。そう言って兄が言うならと素直に両親も受け入れてそのまま円満解決するかもしれない。

 オレがそう思ったのには理由がある。

 この領地。めっちゃ栄えていた。

 温泉という風呂。それをメインに据えて観光地として売り出したのだ。

 何も無い場所を自然あふれる土地ということにして見目のよい場所に風呂場を作る。

 さらにそこに宿などを作り宿泊施設とする。

 上等な場所には貴族向けの宿泊施設としている。

 またこの領地というかこの土地の面白いところはどの宿に泊まってもある程度の温泉……それこそ別の宿の温泉にも入れるのだ。

 まあ。平民向けの宿なら平民向けの宿にある温泉にしか入れない。

 そう言った階級別の部分はあるが……。

 それは当然と言えば当然だ。

 なお、平民向けの温泉に入ろうと思えば貴族は入れる。

 ただし入ったのだから平民がなれなれしく話しかけても文句を言わないでほしいという契約書もあるというわけだ。

 まあ。風呂で裸なのだ。

 裸で居る限り王様だろうが貴族だろうがただの人間。

 素っ裸で威張り散らしても威厳もなにもない。

 出てくるのは失笑くらいだ。

 閑話休題。

 そして温泉が入れる場所に大量にある土産物屋。

 飲食店もありさらに食べ歩きも可能となっている。

 そしてその料理の数々が斬新の一言につきだ。


「どうですか? お口に合いますか?」

「ええ。とても美味しいわ。

 王都での料理とは違うけれど……繊細な味付けに美しい彩り。

 好みの差があるかもしれないけれどけして劣るということはないわ」

 濃いめの味付けが主流の王都と違い薄味の料理。

 けれども味がしないわけではない。

 むしろしっかりと味がついており濃厚な満足ができる味付けだ。

 むしろ虚弱体質である俺はあまり濃いめの味付けの料理を食べることはできない。

 そのため薄味の料理しか食べることができないのだが……。

 そんな俺にしてみたら薄味なのにしっかりと美味しいと感じることができる。

 その味付けはむしろ感動だ。

 見たこともない料理ばかりだが逆に目新しい。

 素材の味を生かしているという料理だろうが貧相というわけではない。

「この場所でしかまだ作られていない料理方法を使っています。

 ワショクと言う料理ですよ。

 リリア様は御身体が弱いのですが味付けが濃い目や揚げ物などの料理もありますのよ」

「まあ。そうなの」

「ええ。お肉を使った料理などもありますしこの領地で作り始めた独自の調味料を使っております。

 そのためステーキも独特の味がするのが特徴なんですよ」

 にっこにっこと笑って言うアリスはとてもかわいらしい。

 一生懸命、説明をしようとしているのだろう。

 手を振り回して教える姿は……小動物のようで可愛い。

 だが、言っている内容は画期的だ。

 ビーンズの一種で主に馬や牛の餌に使われている豆。

 とにかくすぐにできて食べやすい上に長期保存も可能。

 ただしその分だけ格安だがあまり美味しくないことで有名なやつだ。

 それを塩を使いいろいろと用意した結果……調味料を複数、作っているのだ。

 そのことに驚く。

 と、言うかそれを使って新しい食材まで用意をしている。

「これらを使うとおっぱいが大きくなる効果もあるんですよ!

 あと、お通じも良くなるしダイエット効果もあります。

 あと、美乳効果もあります!」

「…………」

 そろそろ胸が大きくなる時期だが俺の胸は平らだ。

 いや。男なんだから当たり前なのだが……。

 気を遣っているのだろう。赤面して言うアリスの胸はふくよかだった。

 どうやら信じても良さそうだ。いや。胸が大きくしたいわけではないが……。

「後は、これらは肉の代わりになるんです。

 なので、宗教で肉を禁じているところで肉の代用品となります」

 そうさらに言うアリス。

 まあ。確かにそれは魅力的だ。

 格安だが、食べてみると……うん。特に際立って美味しいわけではないが素朴のうま味があるというやつだろう。

 少なくとも値段から考えると美味しいと言える。

 それにたんに豆だけではない。

 豆を材料にして液体にしたトーニュー。トーニューを固形にしたトーフ。トーニューを布のようにしたユバ。トーニューの絞りかすのオカラ。

 それらを応用していろいろと料理が出来ている。

 トーフもかなりうま味があるし、オカラもある。

 シンプルな味付けだから応用がきくらしい。

 そんな料理を楽しんでいると、それ以外の料理もとても美味しい。

「しかし……これは海の魚でしょう」

「はい。この領の一部には海とつながっているんです。

 と、言っても山向こうからつながっている形なので交易は出来ませんが……。

 海産物を手に入れることができるんです。

 山の幸と海の幸を一度に楽しめるんですよ!」

「なるほど」

 アリスの説明に納得をする。

 食材を痛まないように運ぶのはとてつもなく大変だ。

 特に海産物は傷みやすい。

 遠くに運ぶとなったら干物にするしかない。

 そのため新鮮な海産物を食べたいなら海の近くへと行くしか無いのだ。

 そして山奥の食材も海産物ほどではないにしても、傷みやすい。

 鮮度がものを言うのだ。

 新鮮な山菜と海産物。

 この二つを一度に食べることが出来るのはそうそうないだろう。

 確かにそれだけで観光地としては人気が上がるだろう。

 この領地はこれからどんどんと化けるかもしれない。

 そう思いつつ、それを作り出したアリスを見る。

 おづやらオレの友人として雇われたやつは……。

 思っているよりもとんでもない人間なのかもしれない。

 いや。……それでも頭がおかしいと思うけれど……。

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