第二話 公爵令嬢なのでお城に行くことはある(2)
久しぶりの更新です。
子育てがむちゃくちゃに忙しい。
夏休みって大変
結論から言えばオレはその後は王宮の医務室ですごした。
専門医が来てくれたので性別はわかることはなかった。
お茶会はというと、
「和やかには終わらなかったんですね」
当たり前と言えば当たり前だろう。
公爵令嬢が怪我をして気絶となれば大騒ぎだ。
それも格下の爵位をもつご令嬢だ。
「お詫びとしてアーロンド家から連絡があったが……。
どうする?」
「子供のしたことですよ。
それに正直に言えば王太子の行動にも問題があったかと……」
そうオレは言う。
使用人もいるし他の妹たちもいるのだから令嬢としての答えだ。
父もそう考えてだろう。
娘として話しかけている。
「あのお茶会は王太子の伴侶を探すためのものでした。
王太子はその意味では客を招いたものです。
お客様を一人だけにかかりきりになるのはよくありませんわ。
最低限、すべてのお客様とお話をする必要があります。
それを私だけに相手をして他の方は自己紹介もさせてもらえない。
それでは不満を思うのは当然ですわ」
正直に言えばそうしていたのは王太子だ。
オレに攻撃してくるな。
そう言いたいのだがそこは我慢しておく。
「まだ幼い社交界に出たばかりのご令嬢。
王子とお話をすると胸を高鳴らせていたでしょう。
ご両親にちゃんと挨拶をするように! そう言いつけられていた子もいたでしょう」
婚約者の地位を射止めることができれば貴族令嬢としてはうれしいだろう。
だからちゃんと挨拶を! そう言われていただろうし心を射止めろ。そう言っていた親もいたかもしれない。
だというのに挨拶をする権利すら与えられなかったのだ。
挨拶をする権利が貴族令嬢にある。
そして王太子は挨拶をされる義務があったのだ。
これがある程度の大人になっての行動だとしたら問題行動だ。
けれどもまだ幼いということもあり、
「幼さ故の失策。
そういうことにするべきでしょう」
幸いにもオレはご令嬢ではないしそもそも長生きもできない。
そんなオレの怪我で一人の令嬢の将来と家が破滅へと向かう。そんなのはごめんだ。
「まあ。それが落とし所だな。
とはいえ無罪放免とはならない。厳重注意は受けるだろうな」
「……でしょうね」
たとえ子供の義務で同情するよりはあるがそれでも失敗は失敗だ。
それも失墜。これが大人だったら下手をしたら一族郎党を巻き込むかもしれなかった。
オレだからこそ気にしないというのもあるだけだ。
それがなければどうなっていたかはわからないのも本音だ。
オレ以外の本当のご令嬢ならば大変なことになっていた。
顔に傷ができてそれがきっかけで結婚ができなかったら……。
結婚ができなかった貴族令嬢の末路は悲惨だ。
よくて宮殿で勤める形で女官。あるいは使用人として働く道。あるいは修道院の修道女だ。とはいえ、そこだってピンからキリまである。女官も高官として信頼と信用を得ることができればよい。修道女もよい場所ならば衣食住が安定しており貴族ほどではないが平民とは変わらぬ環境で生活ができる。
そこだって貴族令嬢から見たらつらい環境かもしれない。
けれども悪い場所はもっと悪い。貴族とは名ばかりの環境で冷遇される職場。修道院の中には貧相な食生活どころか囚人とほとんど変わらない環境もあり得る。
まあ。貴族令嬢というのは結婚できないというだけで大罪になるのだ。
だからこそ行動には気をつけないといけないのだ。
「きっちりと行儀見習いをするように言いつけている。
行儀見習いに厳しい女教師がつく予定だ」
「それがよいと思います」
オレもそう答えた。
子供のうちならばどうにかなるだろう。
厳しいと有名な女教師というのが誰だかは知らないが……。
まあ。ひょっとしたらオレを逆恨みするかもしれないが……。
女教師の手腕を信じるしそもそも復讐されるまでオレが生きているかもわからない。
そうオレは思う。
それを考えれば気にする気にはなれないのだ。
だが、
「……それでだが……。
お前と王子の婚約が決まった」
「は?」
その言葉にオレは絶句した。
「お前と結婚したいと王子が主張を続けてだな。
その国王陛下も王妃様も何度も言い聞かせたんだが……。
お前と婚約できないならば死ぬ。
そう叫んで大騒ぎをしてしまってな……。
ついにはうなずくしかなかったんだ」
「…………」
思わずうめくが本音としてはえーだ。
「もちろん本当に婚約をするわけでははない。
婚約者を決めるのも早いうちがよいだろうという意見がある程度だ。
もっと情勢を見て考えようということだ」
そう父様は言う。
まあ。確かに王子。それも第一王子であり将来的に国王になるだろう人物の婚約者だ。幼い頃から決めるのは王妃教育があるという理由なだけだ。
それだってちゃんとできる人材ならば問題はないだろう。
「まあ。納得させるためということだ。
お前が名乗るのはあくまで表向きだ。
そのうちに正式な婚約者が決まるという形だ。
納得する年齢になればだが……」
「まあ。良いですけれど……」
めんどくさい。本音を言えばそうだ。
王妃になろうと言う意思もないし寿命もない。
そうもそも王子に対してまったく恋愛感情は皆無なのだ。
婚約者なんて名称は不愉快だ。
「本当にすまない。
長くない命。お前の幸せとお前のためだけに生きてほしい。
そう思っているのに……こんな役目を押しつけることになってしまった……」
父が……そう言って頭を下げる。
本気で悲しんでいるというのがわかる。
だが、父も公爵家という立場がある。
公爵の人間として国の安定を守らなければならない。
この年齢で王子が婚約者に対しての主張を続けて暴れるようなことがあってはいけない。場合によってはそんな王子のかんしゃくを利用するものが現れてしまうかもしれない。
……王子だからと甘やかすわけではないが……。
それを理解してもらう必要もあるのだろう。
オレだって一応は公爵家の男だ。
女装しているがそれでもわかるということだ。
「自分も公爵家の人間。
国のため家のためというならばそれを受け入れましょう」
「ありがとう。国王様も王妃教育をうけることはない。
社交界なども出る必要は最低限にする。
そう約束をしてくれた」
そうオレの言葉に父は言った。
かくしてリリアの言うとおり俺は王子の婚約者となったのだった。
とはいえ、王子が誰と結婚してもかまわないというのがオレの本音だったが……。
そして、
「どうして婚約なんてしたんですか?
アリス様!」
泣き疲れた。
リリアにあったら泣いて叫ばれた。
人目もはばからず、
「アリス様が死んでしまうぅ~」
と、号泣。
はたから聞いたら意味不明な発言かもしれないが……。
周囲の人間はオレが病弱だから妃教育で死んでしまうと思っている。と、勘違いしたらしい。まあ。本当に妃教育をしていたらその可能性もあったかもしれない。
妃教育というのは淑女教育の最高峰。
国の顔にして国母だ。
王と共に時に戦い時に王の盾となり剣となる。
そして交渉をして時に国を守る。
王の補佐であり王とは一蓮托生ともいえる存在。
そこは愛だけで解決できない現実がある。
国の歴史。他国との歴史。
国全体の貴族の力関係に過去。商売の流れ。
それは他国にも及ぶ。
礼儀作法だって完全完璧が要求される。
そして教養。音楽、芸術なども全てある程度の腕前が必要だ。
このある程度というのは妃として恥ずかしくないレベル。
一般的な貴族令嬢からみたら上に入る技量が要求される。
そしてそれは武術でもだ。
貴族令嬢は戦えないというイメージがあるが……。それは事実ではない。
貴族令嬢として時に戦う令嬢もいるのだ。
騎士の家系などもそうだし魔術に長けた家もそうだ。
まあ。基本的に令嬢に求められるのは自衛だが……それでも女王ならば下手な貴族男子よりもレベルの高い武術の腕前を要求される。
時に王や次世代の王を守るために戦うのが王妃の役目だからだ。
閑話休題。
とにかくそういったことを細かく勉強しなければならない。
それらが出来て初めて国で女の中で最高の権力を持つ女性になれるのだ。
閑話休題。
そういったことを考えれば……確かに身体が弱いオレは死ぬだろう
とはいえ、リリアが言っている意味は違うのだが……。
そう思いながらもオレはリリアをなだめるのだった。