第二話 公爵令嬢なのでお城に行くことはある(1)
ある非、城へと向かうことになった。
貴族のご子息、ご令嬢が集まっての宮殿でのお茶会だ。
たんなるお茶を飲んで楽しもうと言うものではなく将来的な派閥などもある。
実際に招待されているのは爵位の高いので第一王子などと年齢が近い。当然ながら貴族令嬢は王子に目を輝かせている。
第一王子のハートを射止めれば将来は王妃だ。
とはいえ、それに全く興味が無いのが俺だ。
当たり前と言えば当たり前だ。
ただ一応の面子として招待されているという状況だ。
大人は俺の事情を知っているので王子への目の色を変えてないのも納得だ。
とはいえ、パーティーにも座って一人にいる俺を大半のご令嬢は変人扱いだ。
けれどこれは仕方が無い。
本来、貴族令嬢は結婚すること。嫁入り先の子供を産むこと。
それが最も大切な事だ。
そして嫁入り後に屋敷の管理などをしたりするのも必要だが……。
まずは結婚と言うのが重要だ。
そして結婚というのは早めに決めておかないといけない。
上流貴族なら早め早めの縁談はおかしくないのだ。
嫁入りのための持参金とか用意する都合というのがあるからだ。
閑話休題。
なので結婚相手を見つける。特に王子に気に入られろと急かしているだろう貴族もいるだろう。なので和やかなように見えていろいろと考える場所でもあるのだ。
早死に決定の俺だからこそ暢気に茶を飲めるのだ。
そう思っていると、
「王子様」
そんな声がしてそちらを見ると、
「へぇ」
確かにそこには絵に描いたような美形がいた。
実の兄も美形と言える顔立ちだが……。
兄が知的系な顔立ちならば王子は正統派の美形というやつかもしれない。
リリアが疑似恋愛遊戯の対象と評するのもわかる顔立ちだ。
そんな中で順番が回ってくる。
一応、将来的に国を背負う貴族として未来の国王に挨拶が必要なのだ。
たとえ、成人するまで生きていくことが出来ないだろう。
そう言われている俺でもやらなければならないのだ。
渋々、一つ年上の兄と共に挨拶へと向かったのだった。
「初めましてロナルド様。アリスと申します」
一応は貴族令嬢としての礼儀作法をしっかりとする。
曲がりなりにも公爵令嬢をなのっているのだ。たとえ、公爵令嬢(男)だとしてもそういった礼儀作法はきちんとしなければならない。
なのでこうして礼儀をもって対応をする。
貴族というと一般市民……ようするに平民とかだとただ金持ちで偉そう。そういうイメージがあるが実際の所として貴族は貴族で大変だ。
礼儀作法というのはあるし地位と権力があればあるだけ義務と責任も増えていく。
なので礼儀作法をきちんとするという義務と責任もあるのだ。
俺なんて本当は男子なので男性としての礼儀作法まで覚えていたりする。……今のところ、必要になったことは無いんだけれど……。
そう思いつつ挨拶をしてそして距離を取ることにした。
リリアが言っていた婚約者になってそして悪役令嬢として処刑される。と、言う未来を信じているというわけでは無いが……。
それがなくても王太子を射止めたいご令嬢の邪魔をしてはいけないだろう。
何しろ俺は公爵家の人間だ。
王族と婚姻するのが最も確率が高いといえる家柄なのだ。
基本的に王族と結婚するとなるとそれ相応の家柄が必要となる。
他国の王族かはたまた公爵。頑張れば公爵でなくてもというのもあるが……。
そういうのもあるので俺が近くにいると他の令嬢が諦めてしまう。
それは良くないだろうと思っている。
「お前は……。
少しぐらい王太子と話そうと思わないのか?」
「いえ。ちょっと体調が優れなく」
兄の言葉に俺はそう言って日陰の席に座る。
そもそも王太子の婚約者捜しならば僕は本来は不要なのだ。
どうせ二十歳までに死んでしまう身の上だ。
未来を語るこの場にはある意味では最もふさわしくない人間だ。
そう思っていたのだが、
「アリス」
しばらくして王太子の方から話しかけてきた。
「王子様。どうしたんですか?
皆様とお話をしなくてもよろしいのですか?」
遠回しに他の人と話すように言うのだが、王太子には通じない。
その代わりに、
「どうか僕と結婚してくれ」
そう言ってプロポーズをしてきたのだ。
……まじかよ。
その言葉に周囲にいたご令嬢達が声を上げ何も知らない家来達がそれを褒め称える。
まあ。無理もないだろう。公爵令嬢と王太子の結婚。他国とのつながりは出来ないが国内でのつながりは強固になる。
厄介な事になった。
思わず頭を抱えたくなる。
王家からの婚姻要求。
それを断るというのはとてつもなく無礼に当たる。
とはいえ、
「王子様。お気持ちはとても嬉しいですが」
嘘である。
実際の所、ちっとも嬉しくない。
教会で嘘をつくのは悪い事と言っていたりしているが……。
実際に嘘をつかないで人生を生きていくことは不可能。
そしてこの状況は嘘をつくのが最も円満な解決法だ。
それに全てが嘘ではない。
「私は体が弱いのです。
おそらく王妃としての務めを果たすことはできないでしょう。
国王になるという大役を背負う者。
そのことをお考えになってください」
やんわりとそう伝える。
体が弱い。
その事実もあるのだ。
うまくすれば納得してくれるだろう。
そう思ったのだが、
「いやだ。僕は君と結婚をしたい。
君が体が弱くても……君と生涯を共に暮らしたい。
総出無いと言うならばいっそこの世界から別れてやる」
そう主張を続けた。
いや。なんでだよ。
そう頭を抱えたくなる。
こうなることならリリアの忠告通りに仮病でも使って休めば良かった。
そう本気で後悔してしまう。
ちらりと両親や国王夫妻をみると同じく頭を抱えている。
オレの事情を知っているのは貴族でもほんの一握りだ。
全ての貴族がしっているわけではない。
そう居たことも手伝ってすでに祝福ムードもある。
どうしようと考えている中で、
「まあ。おちつきなさい」
そう言ったのは国王だ。
「婚姻とは人生の大半を考えると言うことだ。
いきなり答えを考えるのも問題だ。
それにいろんな令嬢とみて話をしてみるの大切だ。
いろんな意見を聞くのも王の役目だ」
そう国王陛下がフォローをしてくれたのだった。
そのために距離を取ったのだが……。
「アリス。
アリス。これを食べてみないか?」
「アリス。アリス。
君に似合いそうな花が咲いて居るぞ」
距離を取ったのだが少し、時間が空けばオレへと話してくる。
これが本当に生粋の令嬢だったならばとても良いことだっただろう。
問題としてはオレが婚姻に困難なのは表向きには無いと言うことだ。
王族が結婚するとしては公爵家は問題がまったくない。
何しろ王族に次ぐ貴族。王族を除けば貴族としては最上位なのだ。
結婚相手としては問題が全くないのだ。
年齢も同年代。
普通に考えたら結婚は問題が無いだろう。
……ただし、オレが男でなければだ。
オレを延命させるための術式はオレを女と思っている人間が多ければ多いほうが良い。そのために知っている人間は限られている。
両親と専属医、そしてごく一部の高官と国王と王妃。そしてオレが生まれたときにそばにいた姉と兄だけのはずである。
まあ。オレが知らないだけでもっといるかもしれない。
この場にもオレの性別を正しく認識している人もいるだろう。
けれども大半の人はオレのことを公爵令嬢と思っている。
つまり公爵令嬢と王子が仲睦まじく話し合っていると思っているのだ。
中にはすでに未来の王妃を諦めて別の男性と話をしているご令嬢もいる。
いや。もうちょっと頑張ろうよ。
諦めないで。
オレ、王妃になんてなれないから!
絶対に無理だからね!
自信を持って言えるよ!
卑屈とかそういうのでもないから!
そう思うのだがそれを大声で言うことは出来ない。
そんな事を思っていると、
「ロナァルゥドォ様ぁ」
甘ったるい口調で近づいてきた金髪クルクルのゴージャスドレスのご令嬢。
「ワタクシィ、アーロンド家の令嬢なんですぅ。
ロナルド様ぁに会えるのをぉ。ずーっとずぅっと待っていたんですよぉ」
そう言ってオレを押しのけるようにロナルド様に近づく。
これはこれでどうかと思う。
ピンクのフリルとレースにリボンがふんだんに使われたドレス。本来の性別が男だからだろうか? 派手すぎて逆に引くレベルの印象だ。
それに大丈夫だろうか?
アーロンド家。
たしか爵位は伯爵だ。
爵位としてはギリギリ王族と結婚ができるかもしれないという可能性。
当然ながら爵位という点ではオレの方が立場が上だ。
それに何よりも礼儀作法に問題がある。
爵位は貴族社会では絶対的な上下関係と言える。
そして爵位が上の存在が許可しない限りよほどのことがない限り自分から話すことは出来ない。まあ。貴族社会にでたばかりの子供。
不敬罪として咎められはしないが……。
それでも将来的に王妃を目指しているというならば礼儀作法はきちんと守るべきだ。
それが出来ていないというのは問題があるとしか言えない。
そう思っている中で一方的にまくし立てているアーロンド家のご令嬢。
まあ。ちょうど良い。
王妃にふさわしいとは思えないが……。
だからといってオレがアピールする理由もない。
そう思っているのだが、逃げるにも逃げられない。
なぜなら王子がオレの手を掴んでいるのだ。
いや。離して欲しい。
そう思っていると、
「あなた。いつまでそこにいるの。
生意気なのよ!」
そうなぜかアーロンド家のご令嬢。
確か名前はリサーナだったか……。
そう名乗っていたのが聞こえていたのだが聞き流していた。
それはさておいてそのリサーナご令嬢がオレの頬をひっぱたいたのだ。
油断していた。
まさか爵位もしたのご令嬢が王太子の前でそんな暴挙にでるとは……。
ついでにオレは呪いの影響で体が弱い。
なので思いっきり吹っ飛んでそして、
「あっ!」
やばい。
そう思うよりも先にテーブルに頭から突っ込む。
がっしゃーん!
派手に陶器が割れて机が破壊されてしまう音がした。
たらり……。
そうぬれた何かが感じた。
これは血が出たな。
そう思う中でオレは意識を失ったのだった。