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第一話 悪役令嬢だと言われましたが……(3)


 正式にリリアと友人になって数日。とりあえずリリアとは文通などをしていたりしている。リリアの家はというと我が家の資金援助も手伝い領地の経営をなんとか立て直しているらしい。一家総出……当主である父親とその奥さん。そして跡継ぎの兄と一緒にやっているそうだ。普通は女性がそういうことに口出しすることはない。

 けれども金がない人手もない。

 そういった状態なのでなりふり構っていられないらしい。

 当人曰く前世でショーギョーコウコーと言う学び舎に通っていたりしていたことから簿記などの計算の知識は高いらしく役に立っているそうだ。

 実際にその手段を教わったのだがあまりにも便利すぎて腰が抜けた。

 それと同時に納得もした。

 おそらくその知識というか発想力。さすがに転生したのです。と、言うことは家族には話していないらしい。当人曰く、驚くとかなり愉快な行動を取る一族らしい。

 そもそも転生者というのはあまり言わないほうが良いと判断しているらしい。

 ではなんでオレには話したのか?

 そう思ったら、何しろ未来の出来事である。

 さすがに未来を回避するには信じてもらう必要があると思って秘密も話したそうだ。

 閑話休題。

 とにかく前世の知識を元にしているこの知識。

 それらを使っていることからただでさえ人材不足という状況も手伝って手を借りているのだろう。逆に言うとそんな娘でもこうして人身御供のようなお友達という扱いにさせているのも後がない証拠だ。

 しかし、知識の一端である簿記の技術。

 これだけでもこうも便利だと……。

「出資がかなりこっちがメリットが大きそうだな」

 公爵家としてはお金は寄付に近いつもりの出資。

 帰ってこなくてもかまいませんよ。それが娘をいずれ死ぬだろう息女の友人という扱いにしているということである。

 ところがこの簿記の知識だけですでにおつりが出てきそうな話だ。

 ひょっとしたらあの領地は化けるかもしれない。

「まあ。そうだとしたら……うちとしてもメリットか」

 たとえ余命行く場もないとはいえ貴族のご子息。

 表向きは令嬢だけれど……。

 家のために何かしらに役に立ちたい。生活費が領民の税金などで支払われていることから考えてもそう思っているのだ。

 それを考えるとオレとしてもリリアと友人になったのは親孝行になりそうだ。

 簿記の方はすでにお父様に報告をしておりあちらの家に他言しないように! そう忠告してうちとあの家のみが使っている。

「何か言いました?」

「いや。何でも無いわ。

 ただ今後は前世の知識を元にする場合は、こちらに一言でもいいから相談してほしいわ。

 何かしらの問題が起きるかもしれないのよ」

 そうリリアに忠告をする。

 リリアはどうも前世の記憶を……これから先に起きること以外は重要視していない。

 当人曰く、たいした知識は無いそうであるが……。

 簿記の方法時点でそれはすでに違うと思っている。

 おそらく当人の中での認識が違いすぎるのだろう。

「まあ。わかりましたわ。

 とはいえ、別に缶詰やレトルト食品の作り方は知りませんから……。

 ちょっとした家庭料理ぐらいの知識ですけれど」

 それも十分に話題になると思うけれどな。

 そう思いながら畑を見る。

 リリアがお小遣いを使い購入したというマレッドの苗。

 真っ赤な果実が特徴的な観賞用の植物である。

 そう。観賞用だ。

 小さな花が咲きやがてミドリの果実が実りしばらくすると赤くなる。

 そのあまりの真っ赤な色に毒があると思われていたのだが……。

 実は食べられたのである。

 トマトソースというのを使って食べたのだが……。

 とても美味しかった。

 酸味が強いが甘みも感じられる。

 みずみずしくそのままでも十分に食べられる上に栄養もある。

 火を通してもゆででもスープにしても美味しい。

 しかも荒れ地でも育ち水も少量で良い。

 貧しい土地だったここでも育つということもあり現在、この領地で育てられている。それだけではない。知られていなかった植物などを使い料理を作っている。

 その料理だがどれも美味である。

 当人曰く、前世ではありふれた家庭料理だったらしいが……。

 正直に言えば貴族社会でもやっていけるほどのうま味がある。

 リリアも将来的に産業にするつもりらしい。

 とはいえ、

「農業は大切ですけれど、農業だけではやっていけませんわ。

 農業だけをしていて……。天変地異といった災害に弱くなりますから」

 そう笑顔で言うリリア。

 思ったよりも女傑というか……。もしもリリアが男だった場合、良い当主になれたかもしれない。そう思わせるほどの才覚を感じ取っていた。

 しかし、それと同時に心配なところがある。

「ご両親やご兄弟が何かを言ったりしませんの?」

 貴族令嬢に求められるのはまずは令嬢としての礼儀作法。そして社交界などでの話術などぐらいである。

 基本的に貴族の男性と言うのは妻は夫を立てるべきと言う考えが主流だ。

 お父様は違うがそれでも令嬢への求めるのはさほど強くない。

 令嬢が貴族の仕事……書類などをするのは良い。けれども革命などといった領地を革新的に変化させるのを嫌う男性と言うのはわりと多い。

 貴族令嬢の話などでそういうのを聞く。

 実際の所、貴族令嬢というのでもそういった書類仕事などをするのはめずらしくない。特に多いのは騎士といった軍人家系の貴族令嬢だ。

 当たり前と言えば当たり前といえる。

 軍人というのは基本的に現場仕事である。

 もちろん隊長と言われるような役職に就けば話は別だが……。

 とりあえず騎士に求められるのは一に剣術、二に体術……といった感じでありとりあえずは戦場で生きていくことが出来るだけの実力を求められる。

 もちろん参謀と言われるような頭脳派というのもいるが……。

 それでもある程度の戦える程度の実力も必要。

 良くも悪くも体育会系である。

 そうして体育会系に総じて多いのは……書類仕事などを苦手とする人だ。

 ある程度というか最低限は出来ると言う人間はまだよい。中にはそういったのを軽んじてしまうようなタイプがいる。

 騎士団としての仕事としてそういうのをまともにしない。

 そうなると貴族としてのそういった書類仕事もきちんとできるのか?

 答えは否である。

 そもそも貴族というのは仕事によっては非情に多忙なのである。

 そういった仕事を当主だけがやれというのは無理難題。基本的に家老といった書類仕事を手伝う人間もいるが……。それでも領主といった貴族でもないのに勝手な判断が出来ない。けれども判断を仰ぐ時間もない。そういった場合がある。

 そういう場合に代理を行うのが妻だったりするのだ。

 もちろん妻ではなくて息子がするということもあるけれど……。

 長男が健康、優秀だとしても最初から出来るわけではない。

 貴族だろうが平民だろうがそれこそ極論で言えば盗賊や山賊の息子だろうが……。

 生まれてきた子供は皆、等しく赤子である。

 赤子のうちからそういったことが出来るのが貴族だとしたら……。

 貴族は人間ではない生き物となる。

 閑話休題。

 とにかくそういったことが出来る程度の知識を持つ女性。けれどもそういったのを嫌う貴族というのもいる。

 実のところ、うちの兄がそういったタイプである。

 貴族社会はまず男が前に出る。

 基本的に男子が家を相続して女性が嫁入りする。

 そのために貴族夫人はまず求められるのは男子を産むことである。

 最近では一応は少女が婚姻を結んで男子を婿入りさせるというのもあるが……。

 基本的に優先順位は生まれた順番と母親の家柄。そして性別と能力だ。

 だが、この性別というのがくせものだ。

 母親の家柄がどれだけ良くても最初に生まれたとしても……。そしてどれだけ優秀だとしても女性ということだけで家を継ぐのは難しい。

 男子の兄弟が居たら余計にだ。

 そのために女性のほうが優秀である。と、いうのは逆に男が情けないという考えを持つことがある。そのために女性が優秀だというのを嫌うという人も大勢いる。

 なのでそれを気にしていないのか?

 そう思って聞いたのだが、

「いえ。特には大丈夫ですよ。

 と、言うか……女性か男性か……。

 そう言ったのを気にすることが出来るほど我が家に余裕が無いんですよ」

 ケタケタと笑いながらリリアが言う。

「そうなのか?」

「はい。そもそも兄を蹴落として家を乗っ取ろう。

 そう思っていませんし……。

 そもそも借金が多い家なんですしねぇ。

 何より婚約者も決まっていないというか縁談がろくにこないんですよ」

 笑いながら言う台詞では無い。

「それに女性だって能力を伸ばしていくべきですよ。

 戦争が起きれば男は戦いに向かいます。

 指揮官なのかそれとも前線で戦う騎士なのか。

 それは個人の立場や能力の違いはありますよ。

 場合によったら作戦を考えるための立場かもしれませんし……。

 とにかく場合によっては領地を離れることはあるでしょう。

 その間、留守を守るのは女主人。

 それが愚かで贅沢を楽しむだけ……。

 それでは生活が出来ない。

 それは地方の……地位が低い貴族であればあるほどしっているんですよ」

「なるほどね」

 その言葉に納得する。

 公爵令嬢として……本当は男だが令嬢として生活している。そういった不自由があるが少なくとも金銭的な不都合は感じていない。

 そういった僕がしらない世界をしっかりと彼女は見据えている。

「それに貴族だから……女性だから……。

 そんな理屈で何もしないで良い。そう考えていられる時代は……。

 そう長くないですよ」

 そうリリアは笑みを浮かべて言ったのだった。

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