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第一話 悪役令嬢だと言われましたが……(1)


「アリス様は悪役令嬢なんです」

 初対面の時にそう言われていろいろと思うところはあった。

 場所は屋敷の花園にあるお茶会スペース。

 季節の花々が咲き誇る場所でそういったのは一人の伯爵令嬢。

 栗毛色の髪の毛を腰まで伸ばし薄いクリーム色のリボンとドレスを着ている。可愛いことには可愛いが貴族令嬢としては平均的な顔立ちの令嬢。

 エメラルドグリーンの瞳は嘘を言っている様子はない。

 だが、

「あくやくれいじょうとは?」

「はい。乙女ゲームの悪役です」

 余計にわからなくなった。

 目の前の伯爵令嬢。名をリリア・シュテルンと言う。

 アリス・ステンフィア家の分家というか親戚筋にあたる家の令嬢。

 ただし何代か前の当主がとんでもないミスをしたのと不作と災害。それらが重なり合ってかなりの貧乏令嬢だ。事実、今身につけているのも流行遅れでは無いが貴族としては安物であると言うことがわかる。

 まあ。そういう事情もしって呼びつけたのだから悪く言う気はない。

 黙っている中でリリアは語る。

 リリア曰く、何でも前世……リリア・シュテエルンとして産まれる前の記憶があるらしい。それはこの世界では無い地球という世界の日本で生まれたらしい。

「前世の私は病弱で学校にも通えずに人生の大半を病院で過ごしました。

 そんな私の数少ない楽しみがゲームでした」

 その中のジャンルの一つが乙女ゲーム。

 魅力的な男性との疑似恋愛を楽しむというものである。

「わかりやすく言うと恋愛小説というやつですかね」

「ああ。確かにあるわね」

 貴族令嬢としてははしたないと言われているがそういう書籍はある。一般庶民などが読んでいたりするがご令嬢達もこっそりと読んでいたりする。

 その中にこの世界と全く同じだというものがあったという。

「それを自分である程度キャラクターを動かせるものです。

 主に自分である主人公を……。設定とかは前もって決まっていますしある程度の道筋があります。……たとえばカードが三枚あってどのカードを選ぶかを決める。

 そんな感じです」

「なるほど……」

 恋愛小説はあまり読んだことは無いが冒険物などは読んだことがある。

 そういうのはあくまでも作者が主人公の行動をいくつか考えて選ぶ。

 それを読者が選びどんな展開かが決まる。だが、あくまでもそれは道筋。どのみちも作者が決めていたというところだろう。


 それはそれで面白そうだ。

 そしてその物語の中にアリス・ステンフィアの名前やこの国が出てきたらしい。名前や文化、地位や立場などまったく同じらしい。とはいえ、それは十年後の未来が舞台。

 今とは違うことはある。

 例えば、

「そこでアリス様は第一王子のロナルド様とご婚約をしていました」

「いや。ありえないわ」

 リリアの言葉にそう即答した。

「……即答しますね」

 その言葉にリリアのほうがあっけにとられた。

「あり得ない話じゃないと思うんですが……。

 アリス様は公爵家のご令嬢。ロナルド様と同い年。

 婚約者として選ばれる条件は満たしていますよね」

「……まあ。確かに」

 第一王子のロナルド様。順調にいけば次期国王。

 当然ながらその婚約者というのはかなり厳選されて選ばれる。

 まずは家柄だ。

 王族と結婚するからには家柄は最低でも伯爵家以上。そういう意味では公爵家。王族を除けば爵位は最上位である公爵家は王族との婚姻が最も可能だろう。

 続いては政治事情。外国の王族との婚姻を結ぶことで国同士の結びつきを強固にするという考えだ。とはいえ、今はそういった問題も無い。逆に他国の王族の血を入れることで余計な火だねになりかねないという考えもある。

 なので国内貴族との婚姻も十分にあり得る。

 そして年齢。

 まあ。政略結婚の中には十も年が離れた相手との婚姻というのはめずらしくない。とはいえ、それは切羽詰まった事情がある場合だ。

 現在の国内情勢ならば同い年がせいぜい二つか三つ、年上か年下が無難だろう。

 かといって血が強い……王妃の親戚や国王の親族。少なくとも従兄弟などとの結婚は血が濃くなり過ぎる可能性もあるのでやめておいたほうがよいだろう。

 かつて従兄弟などの身内同士と婚姻を繰り返した結果、滅びた王国が存在する。そういったことからそういったことを忌避している考えがあるのだ。

 他国の貴族もそういう意味では結婚が可能だ。

 閑話休題。

 そういう意味では確かにアリス・ステンフィアがロナルド第一王子の婚約者になる。と言う話はまったくあり得ない話では無い。

 話では無いが、

「あのね。リリア。

 あなたが私の元に来た理由を忘れたの?」

 そうゆっくりと言い含めるようにあることを指摘した。

「自分で言うのもなんだけれど私は体が弱いの」

 そう私は言う

 私は体が弱い。産まれた瞬間から病弱であり二十歳になるまで生きていくことは不可能。そう断言された。あらゆる延命方法を調べても二十歳まで生きられるという保証すらない。

 そのことからも社交界にまりでることができない病弱な人間。そういったこともあり公爵家のご令嬢でありながら親しい友人が皆無だ。

 とはいえ、それではさすがに外聞が悪い。

 父も母も子供思いであり健康に産んであげられなかったと気にしている。そのことからやりたいようにやればよいと比較的に自由にさせてもらっている。それでも貴族としての責務などはあるので友人が必要。

 そういったことから白羽の矢が当たったのが分家で金に困っている。立場が下であり命令されたらよほどのことがない限りは断れない。そういった相手に友人となってくれ。そう頼むということだった。

 端的に言えば資金援助をする代わりに子供の友人になれ。と、言う金で友達を買ったのである。……我ながら情けない話だ。

 とはいえ、友人を召し使いと考えているつもりはない。

 真っ当に親しくなり話し相手となってもらうつもりでもある。

 なので相手の家はそれはもう慎重に選んだ。その結果として選んだのだが目の前の少女であるリリア・シュテルンだ。

 シュテルン家。家柄は伯爵と言う貴族としてはちょうど中位の家柄。けして低いわけでは無いのだが……このシュテルン家。端的に言えばものすごく貧乏なのだ。

 貴族でありながら使用人はほとんどいない。当主自ら金策に走り回り伯爵夫人も自ら内職をして庭に畑を作り作物で食費をうかせている。

 もう下手な一般市民のほうがマシな生活をしている始末だ。

 もちろんここまで貧困にあえいでいるのは理由がある。

 二十年程前に起きた災害。その被災地となったのがシュテルン家の領地だった。シュテルン家はその被害や災害。その損害を解決するために私財をなげうって対処した。

 その結果、貧乏になったのである。

 領民のために自分達の生活を犠牲にしたのである。

 そういった素晴らしいところも手伝って資金援助もできると判断したのである。

 とはいえ、何も理由も無く(いや。ちゃんと理由はあるのだが)資金援助をしていたらたかりが現れかねない。そういったこともありお金で子供の友人を買った。と、言う汚名を買って出たのだ。

 まあ。わざわざ領地に来てもらってだしいずれは死ぬのだ。将来的なメリットはほとんどないに等しい。

 閑話休題。

 とにかくだ。

「私は病弱よ。王妃の役目……新しい王を産むことはできませんわ」

 そう静かに私はあることを指摘した。

 二十歳まで長生きできない。

 その肉体ではおそらく子供を産むということには耐えられないと言うこともある。

 と、言うか……間違っても子供を産むというのには出来ない自信がある。

 胸を張って言うこともできないのでぼやかした言い方しか出来ない。

「まあ。側室というのもあるけれど……。

 それとはいえ、確実に子供を産めないとなると嫁入りさせるメリットは無いはずよ」

 そもそも他国からの姫君という方法もある。

 この国の周辺の国々、別に驚異的な存在というのがいるわけではないが……。それでも親戚づきあいになったらメリットがある。

 そういった国々は複数ある。

 他国とて王太子との婚姻を狙っているだろう。

「けれどゲームではそうでした。

 そして婚約破棄されるんです」

「……それはまた」

 婚約破棄。

 言葉にすれば簡単だが実際におきることはそうそう無い。

 片方の家が没落する。あるいはどちらか片方がどうしようも無い過ちをする。そういったときに婚約破棄がおきるが……。

 どちらの家もできることなら避けたい事態ということだ。

 当たり前と言えば当たり前だ。

 婚約破棄となれば普通ならば慰謝料などが請求される。

 それだけではない。

 婚約破棄された。と、言うことだけでどちらにとっても醜聞だ。

 どちらに非があると言うわけではない。

 しかもその婚約破棄された年齢によっては新しい結婚が難しくなる。

 何しろ貴族社会というのはどんなに遅くても通常は十五歳までには婚約者が決まっている。特に優良物件であればあるほどだ。

 王族の婚約者となると当然ながらその相手は優良物件。器量、身分、容姿、頭脳、性格それらを全て加味される。

 けれどもそこから婚約破棄となると結婚相手を探すのが難しくなる。最悪、本来ならばどんな相手とでも結婚できる相手だというのに……。

 年齢が親子ほど外れている色ボケじじい……失礼。色欲豊かな年配の方の後妻となる可能性もありえます。

 つまり婚約破棄なんてそうそうないのです。

「普通ならありえませんが……。

 婚約破棄されるアリス様は王太子が思いを寄せた女性に嫉妬。

 その結果、様々な要因が重なって国を滅ぼそうとするんです」

「いや。なんで?」

 思わず素が出た。

 そもそも王太子が心ひかれた女性に嫉妬。あり得ない。

 思わずそう思った。……王太子に失礼だから言わないけれど……。

「……まあ。アリス様はまだわからないかもしれませんが……。

 恋心というのはキラキラした宝石みたいに綺麗なだけじゃ無いんですよ」

 いや。聞きたいのはそこではないのだが……。

「人を好きになるのは素晴らしいことです。

 けれどそこから醜い感情も生まれてしまうんです。

 好きな人が自分以外と仲良く話してほしくない。

 独り占めをしたい。

 自分以外の誰かと笑ってほしくない。

 そんなどす黒い感情を持ったりするんです。

 時にすでに誰かと愛し合って居る人を好きになる人もいます。

 そして奪ってでも結ばれようとする人も居ます」

「はあ」

 えげつない話だなぁ。

 そう思った。

 この子はいったい、どういう教育を受けているのだろうか?

 シュテルン家の教育方針に疑問を抱いてしまう。

「まあ。アリス様もわかるかもしれませんよ。

 いつの日か」

 そうアリスは言う。

「その結果、アリス様は不幸になりますし公爵家も没落してしまう可能性があります。

 それは嫌なんです」

「はあ」

 きっぱりと答える。

「公爵家が没落したらうちの家にまでとばっちりが来ます。

 ただでさえ貴族と名乗っていても下手な一般家庭よりもひもじい食生活。

 そしてそんな中でも必死で働いている領地の人達。

 間違いなく影響を受けてたくさんの死者が出ます。

 そんなの困ります」

「すごく正直ね」

 思わずつぶやいたが……。

 まあ。貴族令嬢としては建前を言わないこと以外は合格点を持つ動機だ。

 貴族というとただ贅沢三昧して遊んで暮らしているように思えるが実際は違う。

 領地の人達から税金を受け取っているがその分だけ領地と領民のために血の一滴まで守りそして奉仕する義務があるのだ。

 社交界などに出るのも領地を発展させるための顔合わせという目的もある。

 国民、として領民。それぞれのために働くのが貴族というものだ。

 武勲をあげて剣を持ち盗賊や他国の侵略者と戦い守る。

 あるいは知恵を使い国を豊かにする方法を探すという方法。

 そして家同士の結びつきというのも大切だ。

 そういう意味では伯爵令嬢として領民の被害がないようにするというのは理解できた。 ただ彼女の言う悪役令嬢になるというのは納得出来なかった。


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