〜もう一人の転生者〜
初めての魔物との戦いから3ヶ月が過ぎて、冒険者として生活には慣れてきたが、三人の関係は相変わらずで俺は頭を悩ませていた。
アティは俺の近くに歩み寄ろうとすることがあるが実行はされず、常にトムの近くにいた。
トムは従順で、時に冒険者の経験からアドバイスをしてくれるが俺への警戒を解いてくれなかった。
(おかしい、何故だ。
たくさんの主人公君を見習って同じ食事、寝床、さらに休日と給料も与えて優しい主人ロールをこなしてきたのに二人の好感度も忠誠心もイマイチ上がってる様子がない。
休日は基本、一人でいたいから別行動が多いけど二人から遊びやショッピングに誘われることが一度もない。
買ったばかりの頃は小遣いも少なかったが今ではランクもFに上がり、金額も少し増やしたから休日を楽しむお金位はある筈なのに…。
だというのに、今の自分はまさしく奴隷を道具として酷使する悪い主人ではないか、主人公君とは対極だ。
前にアティの頭を撫でて褒めたことがあるが、驚かれてトムの後ろに隠れてしまい撫でポにはならなかった。
このままでも、問題はないといえばないが少し寂しいから何かイベントを起こしたいな)
俺は二人との距離感を縮めるため行動を起こすことにした。
(お金も溜まって来たし、魔法書を購入してアティと【教師と生徒〜手取り足取り教えます】トムには新しい武具を与えて【話の分かる上司〜お前には期待している】
この二つのイベントで今度こそ、好感度UPだ!)
注釈:クロウは前世では根暗な生格で親しい友人もなく、人付き合いが苦手です。
そのため、ゲームみたいにプレゼントすれば勝手に好感度が上がって仲良くなれるという思考回路をしてます。
相手のことをちゃんと見てないので二人からは優しい態度には何かウラがあるんじゃないかと思われてます。
休日、俺は二人のプレゼントを買うため、商業地区にいた。
(トムの新しい装備品は前に行ったあの鍛冶屋でいいか。
あのとき、欲しかったけどお金が無くて諦めたものがあったし。
アティは、前に暇つぶしで買ったガイドブックに載っていた魔法学院御用達の魔法店でいいだろ)
鍛冶屋に着くとまだ欲しかったものが売り切れておらず、値段も変わってなかったので購入した。
次に魔法店に入ると書物が沢山棚に並べられており、ばあさんがタバコを吸いながらがカウンターに座っていた。
俺は書物の中からアティに合ったものを探して行き、魔法書を1つ購入して店を出る。
(魔法書は初期編の入門書でも、結構するな。
上級編なんて高すぎて家でも買えるんじゃないかこれ。
魔法学園の生徒が貴族や商人しか通えないのが分かるな。
魔法スキルは習熟度は使い続ければ上がるが、覚えるには魔法書が不可欠だからな。
予想よりもプレゼント代がかかってしまうが仕方ないか)
宿に戻るとトムとアティは部屋にいた。
今日は出掛けてなかったようだ。
「二人共、丁度良かった。プレゼントがあるんだ。
トムには守りのタリスマン。アティには幻惑の魔法書だ。
これがあれば、戦いがもっと安全に行えるようになるだろう。
少し高かったが君たちに危険な目にあって欲しくないから奮発してしまった。
是非、受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「ありがとう、ございます」
俺は二人に守りのタリスマン(防御力増大:弱)に付与スキルで(HP回復:微弱)を追加したものと幻惑スキルの初級編を渡す。
好感度が上がることを信じて…。
翌日、三人は洞窟にワーウルフよりも稼ぎが良いゴブリン討伐に来ていた。
出入り口にゴブリンが一体いたのでアティの練習台にする。
「《ミラージュ》」
そう呟くとアティが二人になった。
一人は本物でもう一人は同じ姿をした幻である。
幻は物質的でないため攻撃出来ないし、良く見ると少しボヤけていることが分かる。
しかし、トムが盾になった状態で高速移動するとゴブリンは翻弄されて見分けがついていなかった。
危なげなく魔物を倒すことが出来たので褒めることにする。
「上手く出来たな、二人共。
トムは新しい装備のおかげで怪我しても時間が経てば回復出来ているな。
前衛で負担も多いからHPが回復してくれるコレはお前にピッタリだと思ったんだ。
アティも幻惑魔法はちゃんと発動できてたな。
敵も騙されてた。ただ、魔力の練りがまだ甘いから練習は必要だな」
その後も魔物を倒しながら、練習を繰り返していく。
奥に進むと、戦闘音と声が聞こえてきた。
俺はトラブルを避けるため、まず状況の確認をしようと二人に此処に留まりながら周囲の警戒をするように命令し、隠密スキルを使って物陰に隠れながら奥に進む。
様子を伺うとゴブリンが五体と魔法使いの女性が戦っていた。
「グギャギャギャ」
「ああもうしつこいっ!」
女性は魔法の威力は高いようだが囲まれているため、上手く動けず、その顔には焦りが見える。
(あの女は冒険者登録をした日に騒ぎを起こしてた魔法使いだ。
あの時はローブとフードを深く被っていたせいでよく分からなかったが美人だな。
ローブの下は学生服の様な紺色のブレザーとスカートか…。まだこの世界に来て3ヶ月位だが随分懐かしく感じる服装だ。
周りには仲間がいないな。あれから一人で戦い続けたんだろうか?
前衛がいないせいでもういつやられてもおかしくない状況だ。
助けても良いが、ここに一人でいるということはお礼は大して期待できそうにないし、助けなんていらないとか言われたら凹む。
それにこの世界のゴブリンがただ殺すだけなのか、拐って性的に襲ってしまうのか、すごい興味があります。
もう少し観察しておくか…)
女性の戦いを見ているとアティから通信が入る。
「ご主人様、そっちに剣を持った冒険者が凄い速いスピードで向かって、ます。
どうしましょう?」
「…やり過ごせ。こちらで対応する」
その後すぐに洞窟の入り口の方からプレートメイルと両手剣を装備した茶髪の若い男性が現れた。
俺は隠れながらその人物を観察していると驚愕して大きく目を見開いた。
理由は男のステータスにあった。
タクヤ=スズキ レベル15 ランクF
種族:人族【転生者】
HP380/380
MP100/100
スキル
剣3
体術3
サバイバル1
生活魔法1
火魔法1
特殊スキル
経験値取得量増大:中
聖魔法2
オーバーリミット[瀕死時、攻撃力増大:極大]
光神アテナの加護[魔への耐性力増大:弱]
勇者[魔族への攻撃力増大:大]
(俺と同じ転生者だと‼︎ステータスが勇者ってコイツ主人公君か‼︎
しかも、俺の特典と違い、魔族対策が多いから魔王を退治する王道派か‼︎
…そういえば、転生させてくれた神様が別の神様もこの世界に転生させてるって言ってたな。
会うことはないと思ってたがピンポイントで同じ街にいるなんてどんな確率だ。
好んでバトルする気は無かったからわざわざ魔族領から離れたところにしてもらったのに…。
もしかして、ここに魔族四天王の最弱とか攻めて来るの?
…気軽に冒険楽しみつつスローライフの予定で魔族と戦う気は無かったが対策しなくてはいけなくなるかもしれない。
まずは、主人公君の実力を見せてもらうか)
主人公君がゴブリンの一体に斬りかかる。
「大丈夫ですか‼︎いま、助けます‼︎」
「いらないわよ。助けなんて‼︎」
女はそう言いつつも前衛が出来たおかげでゴブリンと距離を取れたため、雷魔法で倒していく。
全て倒すと主人公君が魔法使いに話しかける。
「危ないところだったね、僕はタクヤって言うんだ。
冒険者で最近、この街に来たんだけど君の名前は?」
「エリーよ。同じく冒険者をしてるわ。
…さっきは、その、ありがとう感謝してるわ」
「どういたしまして。仲間はいないの?」
「私一人よ」
「…。理由を聞いても良いかい?」
エリーは理由を話し始めた。
エリーは商人の娘で魔法の才能があったため、魔法学園に通っていた。
貴族の嫌がらせもあったが魔法が大好きだったのでメキメキ実力を伸ばしていった。
ある日、店に強盗が入り、両親が殺されてしまった。
残されたエリーは学費を払うために頑張ったが支払えず、退学になった。
今は冒険者生活をしながら魔法書を買うために頑張っているのだという。
「それだったら、僕とパーティを組まないかい?
一人で冒険を続けるよりも安全だよ」
「あなたと?……、良いわよ。
それじゃ、一緒にギルドに戻りましょ」
タクヤとエリーはその場を去っていった。
隠れて盗み聞きしてる俺の存在には気づかずに。
(タクヤ君の実力はある程度、見ることが出来たな。
勇者としての力は見れなかったが戦い方を知れただけでも十分だ。
能力も確認出来たし、あれなら仮に敵対することになっても何とかなる。
しかし、エリーはやっぱりツンデレだったか。
しかも、簡単にタクヤ君に絆されてチョロすぎだろ。
この後はきっと、魔王を倒すまで冒険を共にして最後は結ばれるヒロイン1号になることだろう。
いやー、ありきたりなシーンだったけど見てる分には楽しかったな。
こう、アニメなんだけど劇場のような臨場感があって年甲斐もなくワクワクしてしまった。
…。タクヤ君をストーキングすれば、また、楽しいイベントを見れるかな。
最近、冒険にも慣れて来た。
魔族の実力も把握しておきたいと思ってたところだし、彼らの後について行くとしますか)
俺もその場を立ち去り、トムとアティに合流しに行く。
洞窟を戻って行くと二人は魔物の解体をしていた。
「二人共、無事だな。
これからなんだが、ゴブリン退治は切り上げて街に戻るぞ。
もしかしたら、街を出るかもしれないから準備しておけ」
「分かりました…。ご主人様はご無事でしたか?
戦闘があったと思いましたが」
「大丈夫だ、問題ない。
それよりも急ぐぞ、先ほどここを立ち去った冒険者達を見失うわけにはいかない」
二人を引き連れて街に戻る。
心配してくれる割にはトムの顔が険しいことを不思議に思いながら。
注釈:トムは冒険者の経験からクロウが向かった先で戦闘が行われていたことに気づいおり、また、アティの索敵スキルのおかげで戦いにクロウが参加していなかったことも知ってます。
なにもしてないにも関わらず、彼らを尾行しようとするので何か良くないことをするのではないかと警戒を高めてます。
ギルドまで戻ると、タクヤとエリーはまだ建物内にいた。
どうやら、これからの予定について話し合っているようだ。
さりげなく、二人に近づき耳を傾けるとエリーはこの街にあまり居たくないらしく、タクヤとパーティを組んで魔族領のある南のほうに行って難度が高いが報酬が良い仕事を請けて魔族だけが使える魔法陣の研究をしたいと言っていた。
タクヤもその事に賛成している。
その後はタクヤの事を知りたいらしく、エリーが色々と質問していて話が長くなりそうだ。
俺はストーキングするため、今のうちに準備を整える事にした。




