〜奴隷 ゲットだぜ〜
街に戻った俺は案内所に書かれている奴隷商店に向かった。
冒険者ギルドでパーティを募集するという手段もあったが人見知りの自分が知らない人を勧誘するなんてハードルが高すぎるので止めることにした。
(奴隷なら冒険者と違って報酬で揉めたり、方針の違いから口論になることがない。
小説だとこちらの言うことを大人しく聞いてくれる存在が多いから長く付き合うならそっちの方が気が楽そうだ)
店に着くと小太りの中年男性が話しかけてきた。
「ようこそ、いらっしゃいませ。奴隷商人のマルコと申します。
お探しの奴隷はどのようなものでしょうか?」
「近接戦闘ができる奴隷を探してます」
「予算はどれ位で?」
「10万Gまで考えてます」
「それでしたら獣人がおすすめですね。何人かいるので御案内します」
そう言うとマルコは店の奥に進んで行った。ついていくと地下が牢屋になっていて、一つの檻に5人くらいの人族や獣人がいた。
マルコは一つの檻に近づくと奴隷の紹介を始めた。
「お探しの奴隷だとこちらですね。
リザード族は鱗が硬く盾役に適してます。
虎族は鋭い牙や爪があり、俊敏性もあるので前衛職が多くいます。
猫族や犬族は嗅覚や聴覚に優れているので斥候に向いています」
他にも幾つかの檻の前に近づいて奴隷の紹介をしていく。
「うーん、どうしようかな」
俺は悩むフリをしながら周囲を見渡す。
テンプレだとこういうのは大抵、最初に紹介される奴隷より特別な檻に入れられていたり、処分寸前の奴隷のほうが当たりが多いからである。
予想した通り、少し離れた奥の方に檻が一つだけあって他の奴隷達よりも小汚い格好で放置されていた。
「あっちに居るのは?」
「あちらは四肢が欠損していたり、重病のもの、買い手の見つからない性格に難のあるもの、忌み子などの処分前の奴隷達です。
そういう者達でも薬や魔法の実験台、貴族のおもちゃとして購入していくお客様がいますので一応、こちらで買い取らせて頂いているのです」
中を覗くと衰弱しきった黒くてふさふさした耳と尻尾を生やした10歳くらいの猫族の女の子と、殆ど動かずに横たわったままの緑髪の青年の二人がいた。
「この二人は?」
「猫族は不吉の象徴である黒髪で身寄りもなく村から迫害されていて、私が村に立ち寄った際、村長におしつけられました。
青年のほうは前はCランクの冒険者だったらしいですが、依頼先で災厄級の魔物から呪いを受け、衰弱したところを冒険者仲間に売られました」
改めて二人を見る。
今度は特典スキルの心眼を使って能力を細かく観察していく。
このスキルを使うと相手の正確な情報を知ることができるので重宝してた。
ただ、初めて使ったときは相手の肌年齢や骨密度など不要な情報も頭の中に羅列されて頭痛がしたので、見たい情報以外は自動的にoffになるようにスキルを設定してある。
アティ レベル1
種族:猫族(奴隷)
HP4/10
MP80/80
スキル一覧
なし
特殊スキル
混沌神カオスの祝福[魔法の成長促進:大 、MP増大:大]
獣神アケルの加護[敏捷生の成長促進:中]
状態
栄養失調
トム レベル1
種族:人族(奴隷)
HP2/18
MP1/5
スキル一覧
なし
特殊スキル
護りし者[別の対象のダメージ、効果を引き受ける]
状態
死の宣告[衰弱効果・極大 対象が死亡するまで効果持続]
栄養失調
(うん、猫族の子は当たりだな。
きっと安いだろうし、黒髪を隠せば周りの目も気にしなくて済むだろう。
男のほうはやめておくか。
買ってもすぐ死にそうだし特典アイテムをわざわざ使うのも勿体ない。
神様もこの時代では入手困難って言っていたし)
「この猫族を買いたいのですが」
「この子ですと2万Gになります。戦闘向けではありませんが宜しいですか?」
「大丈夫です」
「それでは、奴隷に関する説明と手続きを行いますのでこちらに来ていただけますか」
マルコの後について行こうとするとか細い声で呼び止められた。
「あの…私を買ってくれるの?」
猫族の子がこちらを見上げながら尋ねてきた。
「そのつもりだよ」
「だったら…あの…何でもしますからお兄さんも一緒に買ってくれませんか?」
「こら!お客様に向かってなんていう口をっ!」
「構いませんよ」
(お兄さんというのはあの死にそうな男だよな?
種族も違うし、どんな関係なんだ?
奴隷に堕ちてから仲良くなったのか?)
疑問に思い、しゃがんで女の子と目線を合わせながら尋ねてみる。
「お兄さんっていうのは隣にいる男性のことかな?」
「そう」
「どうしてだい?あのお兄さんに何かしてもらったのかな?
それに厳しいことを言うけど冒険について行けそうにないし、もうすぐ死にそうだけど」
「…お兄さん、もうすぐ死ぬからって私が少しでも生きていられるように食事分けてくれた。それにおはなしも沢山。
だから…私が二人分働きますからお願いします。
最期にお兄さんをお日様の当たるところに連れて行ってあげたい」
(ヤバい、どっちもすげえ善人じゃん。利用し易くて使いやすそう。
買ってあげても良いけどまだ先行きが不安だから奴隷二人も養えるか心配なんだよなぁ。
それに死にかけの男の使い道なんて…。
いや、護りし者ってゲームによく出てくる身代わりアイテムとして使えるか?
予め、命令しておいて俺のダメージやデバフ系を全て肩代わりするようにしておけば、安全マージンが十分な状態で常に戦える。
特典アイテムを出し渋ってピンチになるよりは自動で発動するこっちのほうが便利かもしれない。
ついでに絶望的なこの状況を救えば恩も売れるだろう)
「マルコさん、あっちの青年は幾らですか?」
「あちらは1万Gになります」
「それではあちらもお願いします」
「分かりました、それでは、あちらの部屋にどうぞ」
今度こそマルコの後について行こうとすると、また、か細い声で「ありがとう」と言われた。
案内された部屋に入るとマルコから奴隷二人のステータスを提示される。
アティ レベル1
種族:猫族
HP4/10
MP80/80
スキル一覧
なし
状態
栄養失調
トム レベル1
種族:人族
HP2/18
MP0/5
スキル一覧
なし
状態
死の宣告[衰弱効果・極大 対象が死亡するまで効果持続]
栄養失調
(ふむ、他人のステータスは普通だと特殊スキルや細かい数値までは見れないようだ。
まあ、混沌神カオスの祝福なんて一般に知られていれば、忌子ではなく戦力として重宝されてる筈だから当然といえば当然か)
そして、奴隷に関する説明を受ける。
おおまかにまとめると奴隷は全員に奴隷刻印が刻まれており、主人の命令に対して絶対に服従するように出来ている。
また、刻印を刻む際、奴隷が反逆しないようスキルとレベルは特殊な方法で初期化されている。
奴隷には一般奴隷と犯罪奴隷の二種類がいて俺が購入した奴隷は二人共、一般奴隷である。
犯罪奴隷は何をしても構わないが一般奴隷は最低限の生活を保障する義務が主人に発生し、奴隷が死亡した時は役場に届け出を出す必要がある。
俺はその説明に満足して、お金を支払って手続きを済ませた。
(この世界の奴隷も小説と似た扱いなので分かりやすいな。
単純な首輪とかでなく、刻印を使って強制的に従わせることが出来るのは最高だ。
どんなにそいつにとって嫌なことだろうと好きに使える。
命令すれば隠し事もされないし、俺の情報を漏らされる心配もない。
こんなに便利なものを高い金で買ったあとに解放しようとする主人公君の気が知れん)
俺はトムを背負いながらアティと店を出る。
二人は最低限の身なりを整えられた状態である。
特にアティはマルコが店先で黒髪を晒されることを嫌ったのか少し大きめのフードの付いたローブを着ていて、てるてる坊主の様である。
アティは久しぶりの日の光に眩しそうに目を細めた後、トムのことを心配そうに眺めながら後ろを付いてくる。
(トムは凄い軽くておぶってもそれ程、負担では無いが臭うし、いつまでも野郎と触れ合っていたくないのでさっさと治すことにしよう)
俺は店から少し離れた後、人通りの少ない路地裏に歩を進めた。
路地裏に入り、周りに人がいないのを確認してからトムを下ろして二人に初めての命令をする。
「二人に命令する。
私に危害を加えないこと。
私のスキルに関する情報を秘密にすること。
今から使うアイテムについて詮索しないことである」
そして、アイテムBOXから特典アイテム:万能霊薬エリクサーを取り出す。
このアイテムはどんな病も治し、四肢の欠損すら修復する秘薬である。
100年位前は市場にも貴重な高級品として存在していたが、魔族の侵略に遭い、エルフの森にあった世界樹が枯れてしまい、材料が揃わなくなってしまったのだ。
今は、王族や極一部の者が所有しているそうだが再び入手することは…まあ、無理だろう。
いざという時のお守りとして特典で取っていたのである。
それをトムに飲ませると衰弱しきって歩けなかった状態から劇的に変化した。
心眼スキルを使って確認すると死の宣告は解除され、カサカサだった皮膚もツヤツヤになり、体力も全快している。
アティはその変化に目を丸くして驚き、トムの体をペタペタと触っている。
トムも自身の変化に戸惑っているようで、今、飲んだアイテムについて知りたそうにしているが命令が効いているのか口をモゴモゴさせるだけで何も尋ねてこない。
その様子を眺めながら、俺は今後の事に頭を悩ませる。
(とりあえずこれで冒険出来るようになったが、奴隷二人を購入するのにお金を使ってしまって、宿代などの生活費も3人分掛るようになってしまった。
まだ、数日は大丈夫だと思うが早く冒険者としての生活を安定させないと不味いな。
まあ、死ぬ寸前のところを救ったし、アティも二人分働くと言ったから多少無茶をさせても大丈夫だろう。
状況は変わったが約束は約束だ。
あとはテンプレ通り、宿で普通の寝床と食事を用意すれば、簡単に好感度もあがるだろう)
商業区画に着くと直ぐに宿屋を複数見つけた。
出入り口には宿泊費や食事などのサービスが書かれている。
其れ等を見比べて、奴隷を受け入れてくれそうで食事サービスもそれなりの宿に決めることにした。
(多分、この獣人も可って書かれているところなら奴隷も大丈夫だろう。
日本のホテルのペット可と似たような意味だろうし、奴隷もペットみたいなものだろう。
というか、獣人って抜け毛ってどれ位だろう?あんまり酷いようなら洗濯や掃除も大変だろうし、生活魔法を優先的に覚えていく必要があるな。
はあ…。宿泊費が3人分掛かるからもっと安いほうが良いんだろうけど、日本人の感覚として食事がまずい、部屋が汚い、風呂は水浴びとか耐えられそうに無いし、必要な出費と割り切ることにするか)
俺はどんどん軽くなる財布に、もう少し神様にお小遣いを強請っておけば良かったと軽く後悔しながら宿に入る。
建物は2階建で宿に入ると1階は食堂として賑わっており、給仕の女性が慌ただしく料理や飲み物を運んでいた。
カウンターがあり恰幅の良いおばさんが立っていたので声をかける。
「すみません、宿泊をしたいのですが3人分の部屋は空いてますか?」
「いらっしゃい、ちょいと今は3人分の部屋は埋まっちまってるが、少し大きな二人部屋なら手狭になっちまうが、ベットもおおきいし、詰めれば泊まれるよ」
「二人が奴隷で獣人もいますが大丈夫ですか?」
「ウチは構わないけどお客さんは同じ部屋で良いのかい?」
「大丈夫です」
「じゃあ、何泊する予定だい?あと食事は別料金だけど用意するのは一人分かい?」
「とりあえず一週間で。食事は3人分お願いします」
「ふーん、分かったよ。部屋は2階にあって案内するからついてきな」
案内された部屋はベットが二つと衣装棚、小さな金庫があるだけの少し殺風景な感じだった。
(部屋の広さは3人が泊まるには確かに狭いな。
しかし、部屋は割とキレイだからここなら滞在しても大丈夫そうだ)
「この部屋だよ。
金庫と部屋の鍵はこれね。
食事は1階の食堂でこの札を給仕に渡せば大丈夫だから無くすんじゃないよ。
あと、ウチは風呂はないが言えば、お湯を張った桶と布を給仕に部屋まで運ばせるから遠慮なく言っとくれ。洗剤は別料金になるけどね」
「分かりました。
早速ですが、お湯を二人分お願いできますか。あと、洗剤もお願いします」
「分かったよ。直ぐ用意するから待っとくれ」
そう言っておばさんは部屋を出て行く。
俺はベットに腰を掛けて先ほどの会話を思い出す。
(奴隷も同じ部屋でってところでおばさん、不思議そうな顔をしていたな。
食事も別で考えているようだったことから、奴隷は納屋か道端にでも押し込めて、食事も粗末な物というのが一般的っぽいな。
ということはやはり普通の寝床と食事を与えておけば、コイツらは勝手に感謝して冒険も頑張ってくれるだろう)
二人は手持ち無沙汰に部屋の出入り口に突っ立っている。
アティはトムの後ろに半身を隠すように立っていて、トムの服の裾を握りしめながら、俺とトムをキョロキョロと不安そうに見ている。
その様子を見て、あれっ、俺よりトムのほうが好感度高い……と軽くショックを受けながらも次の行動を移すため、そして、主人としての威厳を出すために敬語を辞めて話しかける。
「二人とも、そんなとこに立っていないでそっちのベットに座ってくれ」
「俺達が座って良いんですか?」
「構わないよ。というより、この宿に世話になる間はそのベットを二人に使ってもらうから遠慮しないでくれ」
二人はおずおずとベットに腰掛ける。
「これからのことだけど、私は少し出かけてくるから、二人は宿の人がお湯を持ってきたら洗剤を使って体をキレイにしてくれ。
あと、あまり騒ぎにもなりたくないからアティの黒髪はバレないようにすること」
「分かりました。ご主人様」
俺はご主人様って言われ慣れないなと思いつつ、部屋を後にした。




