〜幕間 イザベラ〜
私はクレメンス侯爵の一人娘ですわ。
幼い頃にお母様を亡くしてからはお父様に愛情いっぱいに育てられてきました。
そのおかげで何不自由なく生きてきましたが最近、私が男性の方と話をするだけでお前に相応しくない。嫁には出さん!っと言ってその方と遠ざけようとするお父様は少々、いき過ぎた親バカなのではないかと疑っています。
私が12歳になった時、魔法の素質を見込まれて魔法学園から入学の推薦状が届きました。
魔法が大好きで同じ年頃の人達が多くいる学園なら趣味の合う友達が沢山出来ると思い、お父様にたくさんお願いしました。
その甲斐もあって、寮ではなく近くにある家の屋敷の一つから通う事と私の専属侍従のサラを常にそばに置くこと条件にお父様は渋々許してくれました。
初めの頃は学園生活がとても楽しかったのですが、すぐにつまらなくなってしまいました。
学園は自分の適正に合わせて少し値のはる魔導書を買った後は、授業のほどんどは習熟度を上げるために的に向かって魔法を唱えるだけ。試合も学生同士、距離をとって魔法を打ち合って自身にかけられている結界がある一定の値まで消費したら勝ち負けが決まるという実戦とは程遠いもので魔力量と属性の相性で勝敗が決まるものでした。
そもそも、学園は魔法を学ぶことはついでで同世代の貴族同士の交流を図ることを主目的としていて、貴族以外の人達も魔法学園の卒業生という肩書と貴族とのコネづくりに必死で熱心に授業を受けようとする学生はいませんでした。
エリーと会ったのは別クラスと試合をしていた時でした。
私の対戦相手がエリーで雷魔法の使い手と聞いてましたので貫通力のある【ライトニング】にだけ気をつければ相性の問題で私の水魔法が勝つのはその場にいた皆が分かっていました。
でも、エリーだけは違いましたわ。誰も使えなかった魔法陣というスキルを使って魔法の軌道を変えたり、わざと発動を遅らせた魔法を囮に使ったりと魔法に対する熱意を感じました。
まだ技術が拙いせいでその時は私が勝ちましたけど、それから彼女に興味を持つようになり、友達になれないかと思って話しかけるようになりました。
ただ、貴族同士との会話には慣れていましたが、それ以外の方とはどうすれば友達になれるのかわからなかったのでいつも彼女を怒らせてばかりでした。
暫くするとエリーが学園を休むようになりました。
サラに調べさせると彼女の実家が強盗に遭い、家族全員が亡くなられていて学費を稼ぐために冒険者の仕事をしていることが分かりました。
何かエリーの助けになりたいと思い、色々と話しかけてみましたがうまくいかず、資金の援助を申し立てた時はバカにするな!と怒鳴られ、喧嘩になってしまいました。
それから、3日後、彼女が学園を退学したことを知りました。
直ぐに彼女に会いに行きたかったのですが会いに行く理由が見るからず、ウジウジしているとお父様から貴族の集会があるので家に戻るように言われて街を離れることになりました。
魔族の襲撃があったのはちょうどその頃でした。
直ぐに街に戻ってエリーや同級生の無事を確認したかったのですが、お父様が危ないからと家から出してくれなかったのでサラにお願いして調べてもらいました。
調査でわかったのは学園の被害は軽微だったことと私に会いに勇者様が街に来ていたこと、エリーが勇者様の仲間になったことでした。
勇者様の仲間になれるということは名誉なことですが死亡する可能性が非常に高く、このままではエリーに二度と会えなくなると思い、お父様に再び外出する許可をもらいに行きましたが、何度言ってもお前の為だと言って許してくれず、終いには自室に閉じ込められてしまいました。
どうしてもエリーに会いたかった私はサラのおかげで勇者様の行き先はわかってましたのでお父様の言いつけを守らず、家を抜け出しました。
もし、勇者様が粗野な方だったり、彼女が騙されているようだったら無理やり引きずってでも連れて帰るつもりでした。
トート街について役場で勇者様のことを調べました。急いでいましたので貴族の立場を使って少し無理を職員に言ってしまいました。でも、そのおかげでダンジョンに入る前にエリー達に会うことができましたわ。
エリーは思っていたより元気そうで安心しました。勇者様も誠実そうな方に見えましたが初対面ではよく分からなかったのでダンジョンで一緒に行動することにしました…上手くいかずにエリーとも勇者様とも別行動になってしまいました。
幸いなことに一緒に行動することになったトムは真面目な奴隷でしたし、クロウさんは話しやすい方だったのでエリーとタクヤ様のことをたくさん聞きましたわ。
気が早ってしまってダンジョン内だというのに一方的に話しかけてくる私に嫌な顔をせずにクロウさんは話を聞いてくれました。その上、初めてのダンジョンでどうしてよいか分からずにいた私にゴーレムの倒し方やトラップの解除方法など役割を与えてくれていい人でした。……良い人に見えました。
でも、暫くすると自分が楽をするためにクロウに使われていることに気づきました。
あの優しく見えて自身のためだけに行動する姿は以前、お父様の下にいた徴税官に似ていました。
あの人も一見すると真面目に見えて街の住民の評判も良かったのですが裏で私服を肥やしていて、そのせいで住民が奴隷落ちすることになっても全く気にしないひどい人でした。
暫くしてお父様に知られて処罰されることになりましたが、その直前で逃げ仰せる狡賢い性格も持ち合わせていました。
それに気づいた時、エリー達のことはだいぶ聞けましたので彼のことを適当にあしらって無視してしまっても良かったのですが出来ませんでした。
彼が奴隷とコミュニケーションをとろうとしていたからです。
奴隷と話がしたいとかやって欲しいことがあるなら命令してしまえば済む問題です。しかし、彼は無理やり従わせようとはせずに会話を試みようとしていました。命令するときはスムーズなのに会話をしようとすると途端に失敗してしまうところなんてまるでエリーを怒らせてばっかりの私のようでした。
また、フロアボスから退却した後に聞かされた提案は自分本位な彼らしい考えでしたが決断は私に任せてくれました。提案した方法は私達が口を噤みさえすれば、彼が刀を使っても刀傷を採集で解体する時に誤魔化して仕舞えば良いのですし、奥に進むのは私でなくても良かったにも関わらずです。
それらの事から、クロウは物事を自分を中心に考えすぎているだけで他人のことを思いやることができない訳ではないことがわかりました。
それなら、時には自分のことより誰かの為に行動することが大切なことを分かって貰えれば彼は変われると思いました。私がクロウ達を思って提案を断った時はなぜ断られたのか理解できないという顔だったので前途多難ですが…。
そもそも、クロウは自身と他人との間に絶対に超えられない心の壁のようなものを感じました。
そして、壁の内側には自分以外いないからそう言った考えしかできないのだと……。
それはとても寂しい生き方だと思いました。
そんな彼のことを放っておけず、私は彼と友達になることを決めました。
お別れの時も近づいていたのでちょっと強引に彼の内側に踏み込んでみましたがふてくされたり、慌てたりと普段と違った顔が見れたので勇気を出して冒険した甲斐がありました。
勇者の旅は危険なので真っ直ぐな考えしかできなそうなタクヤ様やエリーのことも心配ですが、邪道な考えを持つクロウがいれば案外上手くいくような気がします。
それになんとなくですが彼は最後まで旅を続けそうな感じがします。
旅を続けていくことで彼の性根が少しでも改善することを期待して、私も頑張ることにします。
ああは言ったものの再会した時に彼の方が友達が多かったら嫌ですもの。




