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クズでも異世界に行けば変われますか?  作者: スケさん
ダンジョン
19/26

〜フロアボス〜

〜クロウside〜


「【ファイヤーレイン】!」

「【アクアスマッシュ】!」

「殿は俺がやります!2人は前の階層まで走ってください!」


十階層は大きい部屋が1つだけあり、そこにはフロアボスのジャイアントゴーレムがいた。

戦いを挑んだ俺達であったが、今までのゴーレムとは桁違いに硬く、碌にダメージを与えられなかったので撤退することになってしまった。


「ここまでで大丈夫です。フロアボスは別の階層まで移動する事はできないので。

俺は念のため周囲に魔物が居ないか確認してきます」


そう言うとトムはこの場を離れる。


「ふぅ、危なかったですね。イザベラ様は大丈夫ですか?」

「ええ、私の方は問題ありませんわ」

「しかし、どうしましょうか?私達ではフロアボスを攻略出来そうにないですが、このままではタクヤ君達に追いつかれてしまいます」

「動きは遅かったので攻撃はそれほど脅威ではありませんわ。問題はあの頑丈な防御力ですわね。

仮に魔力が尽きるまで攻撃したとして倒せるかどうか…6人がかりであれば間違いなく倒せるでしょうね。

でも、それをしますとゴールが目前なので競争ではなくなってしまいますわね。

…仕方ありませんわ。タクヤ様が来るのを待ちましょう」

「諦めるのですか?」

「それしか方法はありませんもの。おとなしく街に帰ってお父様に叱られるとしますわ」


(えっ?諦めるの?だって俺、まだ主人公君をヒロイン同士で取り合うラブコメイベント見てない。

それにコイツをこき使おうと計画を立てていたのにここで別れるのは勿体無いな。

せめて貴族とのコネができるまでは関係を続けていきたい…仕方ない。

コイツは単純そうだからちょっと焚き付けてやればヒロインとしてもう少し頑張りを見せてくれるだろう)


「…正攻法ではありませんがフロアボスを突破する方法が2つあります」

「それは何ですの?」

「1つは私が刀を使うことです。それならば私一人でもあれを倒すことができます」

「刀が得意だとは聞いてましたがそこまでですの?」

「ええ。ただ、刀の事は皆に知られていますから、この方法をとると反則扱いされかねません。

故に提案したいのはもう一つの方です」

「それは一体どういう方法ですの?」

「フロアボスとの戦いにタクヤ君達を巻き込む方法です。彼らの性格なら私たちが苦戦していれば助けに入るはずです。

イザベラ様は彼らが来る直前に戦闘から離脱して奥のエリアに向かって金剛石を入手して貰います。

ただのゴーレム程度であればイザベラ様単独でも突破できるでしょう。

冒険者カードを使えば彼らの位置が分かるのでタイミングもバッチリです。

フロアボスも攻撃力の高いタクヤ君さえ居れば、苦戦はしますが倒せるでしょう。そうすれば、問題は全て解決できます」

「それは自分の目的のためにあなた達を見捨てて置いていけと言う事ですの?その方法はできませんわ」

「何をためらう必要があるのです。危険はありますがあの敵は硬いだけで動きは鈍重でしたから死ぬ事は余程のことが無ければあり得ません。

あなたの望みは叶う。勇者の仲間という名誉と旅を続ければエリーさんとも友達になれるでしょうから良いことづくめです。

それに要は見解の相違というやつです。イザベラ様は見捨てたのではなく、目的を優先しただけ。タクヤ君達は巻き込まれたのではなく、苦戦している私たちを善意で助けただけ。

…ほら、あなたは何も悪くない」

「それでも駄目です」

「……。それは誇りとか正義心いうやつですか?

こういう言い方は気分を害されるので言いたくはなかったのですが、イザベラ様。

あなたは臨時のパーティメンバーでしかなく、しかも、このダンジョンを突破してしまえば解散される期間限定のものです。

ここで結果を出さなければ街に帰され、チャンスを逃したあなたはエリーさんと友達になれる可能性は絶望的でしょう。

自分を優先することは誰もが皆やっている事です。何がいけないというのですか?」

「私の自分勝手な理由でクロウとトムに傷ついて欲しくないからです」

「は?何故ここで私達が出てくるのですか?

あなたの目的はタクヤ君とエリーさんです。他の事などどうでも良いでしょう」

「いいえ、よくありませんわ。私達は仲間ですもの」

「…。トムは奴隷だから従っているだけ。私はあなたが貴族で面倒だから調子を合わせてやってるだけだとしてもですか?」

「それでもです!

それが事実だとしましたらショックですけど、それでも、クロウさん達も立派な仲間であるということを私が自分の意思で決めたのです。

仲間には無駄に傷ついて欲しくないのでここでタクヤ様達を待ちましょう。

皆で作戦をしっかりと考えてから行動すれば誰も傷付かずにあの程度の敵なんて倒せますわ」

「……分かりました」

「でも、そうしますとタクヤ様達が来るまで時間がありますわね。

それまで、沢山お話をしませんか?今までは私が悪いのですけど、自分の話やタクヤ様とエリーのことばかりだったので今度はあなた達の事も知りたいですわ」


そうしてイザベラはクロウのことを色々と聞いてきた。

程なくして、周囲の見回りを終えたトムが戻るとイザベラは彼の事も誘い、多少ぎこちないながらもタクヤ達のパーティが来るまで三人でおしゃべりをする事になった。

クロウはヒロインからモブに成り下がり、望みが叶わないくせにどうでも良いことを楽しそうに話すイザベラを見て少し胸がざわついた。

暫くしてタクヤ達に合流して、再びフロアボスに再チャレンジすることになった。


「皆、作戦通り行くよ!アティちゃんは周囲の警戒。トムさんは挑発スキルでゴーレムがエリー達の所に行かないようにして!」

「分かった」

「任せろ。かかってこい!土くれ!」

「それじゃ、三人共、手筈通りに魔法をお願い!」

「分かりましたわ、タクヤ様。【アクアボール】」

「次は私ね。【ライトニング】【魔法陣】」

「次は私の出番ですね。【ファイヤーボール】」

「よし、上手くいった。でやぁぁぁ‼︎」


三人パーティの時は撤退を余儀なくされたジャイアントゴーレムだったが全員が揃った状況ではもはやただの的であった。

アティが周囲を警戒しているおかげで他の魔物に不意を打たれる危険性がなくなり、トムのおかげで敵との間合いも十分に取れている。その状態で攻撃するので外しようがなかった。

彼らの攻撃はクロウが事前に教えていたコアの部分に全て命中する。

まず、イザベラの水魔法で土の表面をぬかるんだ状態にする。次にエリーの雷魔法で複数箇所に亀裂を入れる。そして、クロウの火魔法でその部分をまとめて吹き飛ばし、タクヤが表面の抉れた所に斬りかかる。

ジャイアントゴーレムも抵抗はするのだが、動きが鈍重なので攻撃が当たる事は無かった。

10分程戦闘を続けると呆気なく倒されてしまった。


「よし、フロアボスを倒せたぞ。後は金剛石を手に入れるだけだね」


ジャイアントゴーレムのいたフロアを抜けると奥には小部屋が一つだけあり、そこには光り輝く鉱物が沢山あった。

クロウが心眼スキルで確認すると光っている鉱物全てが金剛石のようだ。

そのことを皆に伝えて、必要な分だけ採集してダンジョンから帰還した。


「んー!やっと戻ってこれた。薄暗いダンジョンにずっと居たから太陽が眩しいわね。タクヤ」

「そうだね、エリー。まずは皆、宿に戻って体を休めよう」


宿屋に行こうとするタクヤ達の前にイザベラが立ち塞がった。


「申し訳ありませんがタクヤ様、皆さん。

少し私に時間を頂いて宜しいかしら?」

「構わないよ、どうしたの?イザベラさん」

「ありがとうございます。私、イザベラ=クレメンスは勝負に勝てなかったのでここで皆さんと別れます。

ですので別れの挨拶をしようと思いまして」

「ちょっと何もそんな直ぐに別れることなんてないじゃない」

「そうだよ。それにこの金剛石だってイザベラさんの助けを借りて手に入れたものだ。

勝負は無くなってしまったけど、もし、イザベラさんさえ良ければ…」

「いいえ、タクヤ様。それはいけませんわ。私は今回のことで己の力量不足を自覚しましたわ。

御誘いして頂けるのは嬉しいのですがお情けで仲間にして頂いてもいずれ皆さんの足を引っ張ってしまいますわ」

「そっか…分かったよ」

「それではまず、アティ、トム。我儘に付き合わせてしまってごめんなさい。

私はここで別れるけど頑張って強くなって皆さんを守ってくださいね」


トムとアティが頷く。


「次にエリー。あなたともう一度会うことができて良かった。

勇者の旅は危険だけどあなたは優秀だからきっと大丈夫。でも、辛くなったらいつでも街に戻ってきてね」

「心配しなくても平気よ。世界に私の凄さを見せつけたら自慢しに行ってやるから大人しく待ってなさい」


エリーはそっぽを向いて髪をいじりながら、顔を少し赤くして答える。


「次にクロウ。っとその前に」


イザベラは懐から羽型のアイテムを取り出して発動した。

するとイザベラとクロウを囲うように透明な壁がドーム状に貼られた。

急な展開にクロウは思わず身構える。


「こちらは貴族同士の大事な話で使われますアイテムですわ。

ドーム内の会話が外に漏れないようにするものです。

ドームの外に出ようと思えば簡単に出れますので安心してください」


クロウはアイテムの効果を心眼スキルで確認して問題がなかったので警戒を解いた。


「それで、このようなアイテムを使って何のつもりですか?

単純な別れの挨拶だけではこれは必要ないと思いますが?」

「ええ、他にも大切な用件があります。ダンジョンでもお話しましたが、勇者の旅は大変危険なものです。

ですのでクロウ、あなたが旅を終えてもう一度再会することができましたら、私と友達になりませんか?」

「友達?……ああ、そういえば、言ってませんでしたね。

私は勇者の旅に最後までお付き合いするつもりはありませんよ。

だから、もし、あなたと再会することになっても魔王を討伐したと言う名誉も勇者の仲間という肩書もありませんので貴族として取り込もうとしても無駄です。エリーさんに狙いを絞った方がいいと思いますよ」

「いえ、そういうつもりでお誘いしたのでは無いので安心してください。

そもそも、あなたが危険な旅を最後までやり通せないということはわかってます。

これでも人を見る目はあるんですよ」

「言いますね。では、どのような考えで誘ったのですか?」

「その前に敬語をやめて普通に話してもらっていいですよ。

私を敬っていないのはわかりますし、このアイテムで周りに知られることもありません」

「チッ、これで満足か?で、結局なんのつもりだ。

見る目があるなら他当たった方がいいだろ。

ボッチの貴族様に他があるかはしらねぇけど」

「同じボッチに言われたくありません。

まあ、あなたは推測ですけど真贋スキル(注釈;心眼スキルの劣化版)の類を持っていそうですし、ダンジョンでは意地悪なことも言われましたがああいうずる賢い考えができる人と仲良くなっておけば窮地に立たされた時に役に立ちそうといった打算的なものもありますが、一番の理由はあなたがエリーと出会う前の私と似ていたからですわ」

「あ?似ている?俺は常に自分が愉しめるように行動している。望みを諦めるようなお前とは違う」

「いいえ、似てますわよ。あなたの楽しいことが何かはよくわかりませんが、それを話せる方はいらっしゃいますか?誰とも共感できなくてつまらなく感じてしまうことは?

あなたを見ていますと私よりももっと孤独を抱えていそうです。まるで、何も知らないところに置き去りにされてしまった子供のよう…ねえ、あなたに信頼できる人はいますか?」

「………」

「いませんのね。でしたら、まずは私と友達になりませんか?そこから少しずつ頑張っていけば今よりももっと楽しいことが見つかりますわよ」

「その言い方だとお前に再会するまで俺に友達が出来ねぇみてえじゃないか」

「ふふ、そうですわね…悔しかったら私よりすごいってことを証明して見せなさい、あんたには無理でしょうけど…今のはエリーの真似です。似てました?」

「ああ、ツンケンした感じと自分は優秀なんだという態度がそっくりだ」

「それは良かったですわ。友達同士のおしゃべりってこういうことも言うらしいですわ。

もし、私よりもボッチでないというなら友達をたくさん作って自慢しにきなさい、私も頑張りますから。

それではクロウ、また会える日を楽しみにしてます」

「あっ、おい」


イザベラは一方的に話を打ち切り、アイテムの使用を止めた。

結界が解けてしまってはクロウも話を続けるわけにはいかず、口を噤む。


「ちょっと、私達に聞こえないようにして何の話をしてたのよ」

「内緒ですわ。少し恥ずかしい話もしましたので詮索しないでくださいね。

さて、お話も済みましたので私はここで失礼します。皆さんとまた再会出来ることを楽しみにしていますわ」


イザベラは去っていった。

タクヤ達は少しの間、立ちつくしていたが宿で体を休めて翌日、ノーズに会いに行った。


「ノーズさん、金剛石を持ってきました。約束通り武器を作ってください」

「おぅ、約束は守るわい。…随分持ってきたの。

一週間待っとれ。ついでに連れの分も作ってやるわい」

「ありがとうございます。これで魔王を倒せる」

「焦るでない。それに金剛石で武器を作っても魔王と戦うには力不足じゃ」

「どういうことですか?」

「そういえば、言っておらんかったの。金剛石は持ち主の力量に応じて強度を増す特性を持っておる。故に今のお主が持っても今の装備とそんなに変わらん。それに魔族と戦うには聖属性を付与することも必要じゃ」

「そうだったのですか。属性を付与するにはどうすれば良いですか?」

「エルフの森にある聖なる泉に行け。そこで精霊に協力して貰えれば属性を付与出来る。

ローランド王国からエルフの国に行く手形と紹介状も届いておるわい。

しかし、これに関しては上手く行くかは分からんがのう」

「どうしてですか?」

「昔、エルフは世界樹を中心に国を作っておったが魔族の侵略で枯れてしまってのう。

聖なる泉など言っておるが要は世界樹が枯れる前の恩恵を預かっておった元は下流にあったただの湖じゃ。

それ故に、エルフ共はそこを死に物狂いで守っておる。不用意に近づく者がおれば、同族であっても問答無用で処刑される。

魔王を討伐するためと言ってもあの頑固者共が許すとは思えんがのう」

「でも、魔族と戦うためには必要なんですよね。それなら僕たちは行きます。

エルフの人達だって話せばきっと分かってくれるはずです」

「まあ、頑張ってみよ。普通は無理じゃが勇者ならば可能かもしれん。

まずは武器ができるまで体を休めておけ」


次の目的地が決まり、タクヤ達は一週間、旅の準備を整えながら体を休めることにした。

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