〜ダンジョン〜
〜タクヤside〜
「さぁ、行くわよ。タクヤ!アティちゃん!アイツより先に金剛石を手に入れるんだから!」
「うん、わかった」
ダンジョンをエリーは張り切って先に進み、アティはその後をくっついていく。
タクヤはその様子にため息をつきながらついていく。
(どうしてこんなことになったんだろう。
危険なダンジョンだというのにわざわざクロウさん達と別行動する羽目になってしまった。
やっぱり急いでいたとはいえ、手紙で断ったのはまずかったかな。
相手からしたら一方的に断られたようなものだし、イザベラさんも王様の命令を受けた立場があると言ってたなぁ。
…今更悩んだってしょうがない。みんなが無事にダンジョンを攻略できるように頑張ろう。
あっちはクロウさんがいるからきっと大丈夫だろう)
僕は気持ちを切り替えてダンジョン攻略に臨む。
ダンジョン内のモンスターは主にスライムとゴブリンで、これは三人だけでも楽に対処出来た。
問題はたまに出てくるゴーレムだった。
アティちゃんの幻影魔法にかからず、ナイフ程度では大したダメージを与えられない。
エリーの雷魔法もゴーレムの構造が土と石のため、相性が悪くて効果が薄い。
そのため、倒すには体内にあるコアの位置を予想して貫通力のあるライトニングを当たるまで撃つか、僕が剣でゴリ押しするしか方法がなかった。
「ごめんなさい、役に立てなくて」
「そんなことないわよ、アティちゃん。こればっかりは仕方がないわ」
「そうだよ。それにアティちゃんのおかげで不意打ちされる事もないし、罠も察知してくれるから居てくれてとても助かっているよ」
ゴーレムが出る度に落ち込んでしまうアティちゃんを励ましつつ、僕たちは下の階層に下りていった。
〜クロウside 〜
「勇者様にふさわしいのは私の方に決まってますわ」
「その通りです、クレメンス様。この勝負を終えればタクヤ君もきっと認めてくれる筈です。
彼と定期連絡をする際はクレメンス様のご活躍も報告しておきます」
「あら、貴方、分かっているわね。
ダンジョン攻略の役にも立っているし、特別にイザベラと呼ぶことを許して差し上げますわ」
「ありがたき幸せ」
一方でクロウはイザベラを相手に媚び諂っていた。
イザベラは気を良くしていかに自分が魔法学園首席で優れているかを話してくる。
トムは先行して魔物や罠の警戒をしているため、会話には加わってこなかった。
(ちっ、貴族様の相手はめんどくせぇ。
だが、下手な対応をして目をつけられるのも嫌だからとりあえず持ち上げてみたが対応を間違えたかもしれない。
あからさまにすり寄れば、取り巻きどもで慣れているだろうから適当にあしらってくれると思ったのになんかめっちゃ話しかけてくるし。
てっきりお高くとまった貴族様かと思ったらただの構ってちゃんだった。
トムは斥候しているから話に入ってこないし。
全く、主人が困ってるんだから助けに来いよ。
こいつもさっきから自分の自慢話しかしてこないし、もう気分はホストだ。やったことないけど。
というかお嬢様タイプの新キャラは普通タクヤ君の担当だろ。主人公フラグはどうした。
こういう面倒な事に関わりたくなかったから普段は奴隷だけでパーティを組んでタクヤ君の影に隠れていたと言うのに役に立たない奴らばっかりだ)
イザベラとの会話にうんざりしていると前にいるトムから声がかかる。
「前方に敵がいます。戦闘態勢に入ってください」
前をみると、奥の小部屋にゴーレムが一体立っていた。
「あら、ゴーレムですわね。私の魔法で華麗に倒して差し上げますわ」
「よろしくお願いします。コアは右肩の付け根あたりです」
「分りましたわ。【アクアスピア】」
イザベラが魔法を唱えると水の槍が現れてゴーレムに向かって一直線に飛んで行く。
ゴーレムの右肩を貫くと機能が停止して動かなくなった。
「お見事です。さすがは魔法学園の首席だけあって素晴らしい威力です」
「当然ですわ。しかしあなたもやりますわね。
ひと目見ただけでゴーレムのコアの位置を見抜くなんてなかなかできることではありませんわ」
「お褒めいただきありがとうございます。
トム、ゴーレムの素材は重いから貴重なものだけ取り出しておいてくれ」
「分かりました。ご主人様」
「よろしくお願いしますわ。トム」
「はい。お二人はその間、体を休めておいてください」
トムは周囲の安全を確認した後、素材の採集に取り掛かる。
クロウとイザベラは壁際に座り込み休むことにした。
「どうぞ、イザベラ様。MPを回復するマナポーションです」
「ありがとう、クロウ。
あなたは準備がいいのね。さっきの休憩の時は甘いお菓子を出してくれたし、あなたのカバンには何でも入っていそうね」
「常に備えておかなければ不安になるものでして」
注釈:クロウは幾らでも収納可能。保存状態も維持できるアイテムBOXのせいで衝動買いに歯止めが掛かってないだけです。
「それにトムも真面目で良い人ですわね。
私の周りには従者はいましたが奴隷と接するのは初めてでしたので少し緊張してしまいましたわ。
普通に話せていたかしら?」
「大丈夫だと思います。ただ、実は私も奴隷を持つのはトムとアティが初めてであまりコミュニケーションが取れずにいるので少し自信がないです」
「あら、そうでしたの…誰かと仲良くなるのは難しいですわよね。
私も本当はエリーと仲良くしたいんですけど駄目なんです。
身分が違いますし、何を話したらいいのか分からなくなっていつの間にか喧嘩腰になってしまうんです。
街を出てきたのだって勇者様のこともありますが、急に学園を退学して居なくなったエリーが心配でここまで来たのです。それなのに、私ときたら…」
落ち込むイザベラを励ましていると休憩時間が終わってしまった。
「採集が終りました。HPも問題ないです」
「それでは行きましょうか、イザベラ様」
「分りましたわ」
3人は下の階層へと降りていった。
〜タクヤside〜
「そうですか、クロウさん達は九階層まで進みましたか。
僕たちは七階層です。トラップで手間取ってしまって」
「あー、あれですか。
確かにあれは発動してしまうと解除するのに時間がかかるので面倒ですよね」
「ええ、その通りです。
幸い、エリーのおかげでそれほど大変ではなかったんですけど時間がかかっちゃいました」
「お疲れ様です。そこから先はゴーレムばっかり出てきますよ。
こちらはイザベラさんが頑張ってくれてますが弓の出番がなくて少し物足りないですかね。
刀を使おうとするとトムに止められますし」
「ゴーレムだらけですか。アティちゃんがまた落ち込んじゃうな」
「アティはまだ子供ですからね。すみませんがメンタルケアの方もお願いします。
このダンジョンは十階層なので私たちはもうすぐゴールですが、イザベラさんの事はどうするつもりです?
エリーさんと熱くなって勝負と言う形になりましたが、結局のところ、彼女を仲間にするかどうかはタクヤ君次第になるかと思いますが?」
「約束なのでイザベラさんが勝ったら仲間にするつもりです。
ただ、エリーの説得は大変そうだなぁ」
「…まあ、頑張ってください。
そろそろ出発しそうなので通信を切ります。競争とは言え、無理に急いで怪我をしないように気をつけてください」
「そちらも気をつけて」
冒険者カードを使った通信で定期報告を終えると休んでいるエリーとアティちゃんの元へ向かう。
2人は通信を終えたことに気づいたのか話しかけてきた。
「報告お疲れ様。向こうの様子はどうだった?」
「向こうは九階層。結構出遅れちゃったみたい」
「えっ!アイツらにだいぶ先を越されちゃっているじゃない!急がなくちゃ」
「いや、さすがに無茶はできないよ。でも勝負事で負けるのが嫌だから今までの方針を変えようと思う。
報告によると八階層からはほとんどがゴーレムみたい。今まではレベルを上げるために遭遇した魔物とは全て戦ってきたけれど、これからは戦闘をなるべく避けようと思う。
ゴーレムは動きが遅いから、アティちゃんの索敵スキルで先手を取れば戦闘態勢に入る前に部屋を通り抜けすることができる筈だ。そうすれば結構な時間短縮になると思うよ」
「そうね、そうしましょう。アティちゃん、よろしくね」
「わかった、任せて」
タクヤ達は可能な限り戦闘を避けることでクロウ達に追いつこうとしていた。
「ところでエリーってイザベラさんのことは嫌いなの?会って直ぐケンカしてたけど」
「別に嫌いではないわ。他のクラスメイトと違って魔法について真面目に努力していたし、ただ、会う度に貴族である事を鼻にかけて突っかかってくるから面倒なだけよ。最後にあった時なんか生活に苦しいならお金を貸してあげましょうか?ってこっちのことをバカにして!……本当は分かっていたの。他のバカにしてきた奴らと違ってアイツはただ心配していただけだって。
でも、家族を失って追い込まれていた時だったからついカッとなって大ゲンカしちゃってそれっきり」
「エリーお姉ちゃん、仲直りしないの?」
「…そうね、アイツが負けて仲間に入れてくださいって頭下げるなら仲直りしてあげても良いわよ。
悪いヤツじゃないしね…ただ、めんどくさいだけで。
さて、そのためにもまずは勝負に勝たないといけないわ。頑張るわよ」
タクヤは思っていたより仲が悪くなかった二人に安堵しながらダンジョンの最奥を目指す。
〜クロウside〜
「そちらも気をつけて」
(タクヤ君達は七階層か。やはり慣れないトラップとゴーレムに手間取っているようだ。
どちらも初見だと対処しにくいからなあ。ダンジョン経験のあるトムと心眼スキルがあって助かった。
アティは索敵スキルがあるといってもトラップは今回初めてだから、全てを察知するのは無理があったのだろう。
それに、ゴーレムはコアを見抜く洞察力がなければ物理でごり押しするしかない。
エリーとアティはゴーレムと相性が悪いし。主戦力になれるのがタクヤ君だけなのに対し、こっちのグループはコアの位置を教えるだけで一撃で倒してくれるイザベラのおかげでスムーズに進めたからその差も出たのだろう。
しかし、タクヤ君はイザベラを仲間にする事を考えているのか。
てっきり、エリー一択だと思っていたがハーレム狙いとはやるな。さすがは主人公君だ。
まあ、イザベラだったら扱いもだいぶ分かってきたから、仲間になってもいいだろう。
先程、気遣うフリして釘を刺しておいたから追いつかれることもないだろうしな。
面倒な日常会話の相手はタクヤ君とエリーに任せて戦闘の時だけ軽く煽ててやれば、簡単に行動を誘導できる。
私の側にいるように配置しておけば盾にもできる上、ゴーレムの時のようにアドバイスしておけば彼女のことを顎で使いつつ、自分は戦闘に参加してなかったとしても許される【危ない時だけ助けるがそれ以外は見守る実力者】のポジションを手にすることができる。
心眼スキルと刀を上手く使えばそのポジションをキープできるだろう。)
通信を終えたクロウは2人の元へと戻る。
「報告お疲れ様です。ご主人様。アティの様子はどうでしたか?」
「ああ、ちょっとトラップにかかってしまったり、相性の悪いゴーレム続きで落ち込んでしまっているが大丈夫だ。タクヤ君とエリーさんがサポートしてくれている」
「そうでしたか。教えてくれてありがとうございます。
…アティ、落ち込み過ぎていなければいいけど心配だなぁ」
「クロウ、報告お疲れ様。タクヤ様は私のことを何か言っていたかしら?」
「ええ、イザベラ様のご活躍にとても感心しておられました。
彼らはまだ七階層ですのでこちらが先に金剛石を手に入れることができそうです。
タクヤ君も約束は守るつもりで、イザベラが仲間になればとても心強いとおっしゃってましたよ」
「本当ですの!頑張った甲斐がありましたわ」
「そういえば、イザベラ様はどうしてそこまでするのですか?
私はあまり村から出たことがなく、世情に疎いのですがイザベラ様ほどの方がお付きの人たちを誰も付けずに街から出るということは通常であればあり得ないことだと思いますが?」
「そうですわね。実は勇者様の仲間になるということは大変危険でお父様には反対されてます。
過去の文献を見てみますと前々回の勇者一行は全滅。前回は魔王を討伐できましたが勇者様以外は全滅しています。
お父様は少々親バカなところがありまして、確かにこちらの面目を潰されたということはありましたが相手は異世界から来た勇者様ですし、大した問題にはなってません。
だから私が勇者様の所に行くと言ったら猛反対されて屋敷に監禁されそうになりましたわ。
ですので、こっそり抜け出しちゃいました。この機会を逃すと二度とエリーに会えなくなるかもしれなかったから」
イザベラは舌を小さく出して戯けた。
それを見てクロウはこいつが傷物になったらお父様が物理的にも社会的にも殺しにくるじゃん、まじふざけんな!と心の中で思いながら相槌を打った。