〜道中〜
「ねえ、トム!トム!あれ何?」
「アティ、あんまり身を乗り出しては危ないよ」
「こういうときはこうやればまっすぐ進むのよ。ほら、やってみなさい」
「こう?」
「うまいじゃない。その調子よ」
俺達は今、馬車に揺られていた。
これから向かうトート街が隣国のドワーフ国プレミストにあり、徒歩で行くには時間がかかりすぎるため、ヒルクさんに馬車を用意してもらったのである。
馬は今、タクヤとエリーが轢いている。
最初はタクヤが一人でやろうとしたのだが経験がないため、まっすぐ進ませることが出来なかったからだ。
それを見かねたエリーがツンデレなセリフを発しながら彼の隣に座り、教えながら仲良くおしゃべりしている。
アティは周りの景色に夢中で、トムに気になったものを見つけては質問をしてはしゃぎまわっている。
トムはそれを一つ一つ丁寧に答えながら、アティが馬車から落ちないように注意している。
そして俺はどちらの輪にも入れず、後ろに1人でぽつんと座っていた。
(みんな、楽しそうだなぁ。ほのぼの空間が凄まじいのに俺だけそこに入れない。
魔族の侵略があって以降、何故か周りとの距離感が半端ない。
タクヤ君は普通に接してくれるが、他はこちらを警戒しているのが丸わかりだ。
俺、あの時、結構活躍したと思うんだけどなぁ。
戦闘時なんかは俺の方に敵が近づかないように細心の注意を払われて、願ったり叶ったりなんだけど何か違う。
今や俺と1番仲が良いのは馬車を轢いているウマ美になってしまっている。
まあ、一人の方が考え事をするには良いし、今の内にこれからの事を整理しとくか)
心眼スキルを使って全員のステータスを確認する。
クロウ レベル19 ランクF
種族:人族
HP260/260
MP120/120
スキル一覧
剣術2
体術3
弓2
生活魔法1
火魔法:初級2
回復魔法:初級1
隠密1
特殊スキル一覧
刀術5
心眼スキル3
付与魔法1
アイテムBOX
アティ レベル7
種族:猫族
HP60/60
MP320/320
スキル一覧
索敵1
短剣1
投擲2
サバイバル1
幻惑スキル1
特殊スキル
混沌神カオスの祝福[魔法の成長促進:大 、MP増:大]
獣神アケルの加護[敏捷生の成長促進:中]
トム レベル7
種族:人族
HP270/270
MP30/30
スキル一覧
剣術2
盾2
挑発2
サバイバル1
特殊スキル
護りし者[別の対象のダメージ、効果を引き受ける]
タクヤ=スズキ レベル22 ランクF
種族:人族【転生者】
HP440/440
MP180/180
スキル
剣3
体術3
サバイバル1
生活魔法1
火魔法1
特殊スキル
経験値取得量増大:中
聖魔法2
オーバーリミット[瀕死時、攻撃力増大:極大]
光神アテナの加護[魔への耐性力増大:弱]
勇者[魔族への攻撃力増大:大]
エリー レベル17 ランクF
種族:人族
HP110/110
MP360/360
棒術2
雷魔法2
サバイバル1
生活魔法1
魔法陣1
(あれだけの戦いをしたのにレベル20を越えたのはタクヤ君だけか。
タクヤ君は特殊スキルで経験値を他より多く貰えて中ボスも倒したのにこれって事は、やはりこの世界はレベルが上がりにくいらしい。
そうなると単純にレベルを上げまくって力でごり押しというのは難しいな。
スキルの習熟度も大して上がってないから、手っ取り早く実力を上げる方法としては強い武具かスキルを幅広く覚えて手数を増やすかの二択かな。
まずは今から行くトート街で強い武具を手に入れるか。
主人公君の装備を用意出来るドワーフなんて長をやってる者か、訳ありだけど腕が一流のどちらかだろう。
面倒な交渉はタクヤ君に任せておけば、おこぼれで俺達の武具も用意してくれるはずだ)
今後の予定を立てていると見晴らしの良い平原にたどり着いた。
今日はここでキャンプをするようだ。
「皆、今日はここでキャンプをするよ。
僕とエリーで火起こしとテントの準備をしておくからクロウさん達は近くに何か食べ物がないか探してきてください」
タクヤはそう言うとエリーと一緒に準備を始めた。
俺達はアティの索敵スキルを使いながら手ごろな獣を探しながら森を散策する。
「向こうの茂みにウサギがいます」
「分かった。【精密射撃】…ちっ、【ファイヤーボール】」
俺が弓を射るもこちらに気づいたウサギに避けられてしまい、逃げられそうだったので自動追尾をする火魔法を威力を下げて発動する。
火の玉はウサギに命中し、弱ったところをアティがすかさず止めを刺す。
血抜きをするトムを見ながら先程の狩の反省をする。
(また外したか。練習しているが弓は難しいな。
動かない的だったら当てられるようになってきたが動く的だと命中率が結構落ちるな。
今までは魔法で誤魔化してきたがメイン武器として使えるかと考えると正直微妙。
そういえば、主人公君達の飛び道具は魔法か銃、特殊武器が多かったな。
確かに弓は使ってみると構えてるだけで疲れるし、直線ではなく放物線を描くから1回命中させるだけでも集中力を使う。
次に向かう街で都合よく銃が手に入れば良いが使っているやつを見たことがないから期待は薄いだろう。かといって、魔法をメインにするにはそっちに特化しているエリーとアティがいるからその選択もイマイチなんだよなあ。
とりあえずは今の状態を維持しながらコツコツと練習を積み重ねていくか)
クロウ達は処理をした少し焦げたウサギと途中で見つけた野草を手にタクヤ達のところに戻る事にした。
タクヤ達のところに戻ると持ち帰った食材で夕食を作る。
今日も異世界お馴染みの固いパンに食材を細かく切ったスープだ。
昨日は具が殆どないスープだったが今夜は豪華だ。
クロウは具沢山のスープに満足しながら皆の会話に耳を傾ける。
「アティ、熱いから気をつけるんだよ」
「うん!わあ!今日はスープにお肉たっぷり!」
「キャンプにも慣れてきたけどトート街まであと二日か。
こうしてる間にも魔族が襲ってきているというのに歯痒いな。僕達も魔族のように転移出来れば良かったのになぁ」
「無理言わないの。転移なんて高等な魔法は魔法陣なしでは不可能だし、人族や獣人では使えるひとなんて居ないわよ」
「あれ?そうなの?」
「そうよ。せっかくだからその辺りも勉強して貰うわね。
まず、魔法スキルなんだけどこれは習熟度が五段階あって上がれば上がるほど強力な魔法を使えるようになるわ。
そして、魔法陣なのだけれど、これは魔法を補助するためだけの技術ね。
例えば、ファイヤーボールを普通に使った場合、魔力に応じて威力を変える程度は出来るけど一つの火の球を当てるだけの魔法ね。それに魔法陣を加える事で火の球の数や大きさ、軌道やスピードを変えることが出来るの」
「そんなに便利ならこちらも使えた方が良いんじゃないの?」
「そうなんだけど理由があるの。
まず、魔法陣もMPを消費するから魔族のようにMPが多くないとあっという間に無くなってしまうわ。次に魔法陣が補助出来るは一つだけなの。だから、ファイヤーボールだと今言った効果を使うには4つの魔法陣を使い分けなければならないわ。
しかも、魔法陣は魔導書を読めば使えるというわけでなくて陣に描かれる文字一つ一つを理解出来る知識が必要になってくるわ。
燃費が悪い上に手間も掛かるんだったらファイヤーボールを何回も唱えるか、上のレベルのファイヤーレインかファイヤートルネードを使った方が数も大きさも補えるから便利なのよ。
そのせいもあって魔法陣を使えるのは魔族だけになったのでしょうね」
「へー、そうなんだ」
「ええ。ただ、魔法陣は使いこなせれば強力なの。
おそらく、魔族が使っている転移も元は無属性魔法の自分の物を手元に招き寄せるアポーツだと思うわ。普通は長距離なんて不可能なんだけどね」
「あれ?エリーってたまに魔法陣を使ってなかった?」
「あー、あれね。研究中のものなんだけどライトニングを散弾にするの。
未完成だから威力が下がるんだけど一度に複数攻撃出来るし、一人で冒険者をしていた時は重宝したわ」
「スゴいね、エリーは。誰もやらない事を一から始めようなんて普通はできる事じゃない」
「そっ、それほどでもないわ」
食事の時間が勉強の時間に変わってしまっていたが、俺には非常にためになる時間だった。
(魔法陣か。面倒くさそうだから考えたことはなかったけど、そっち方面を追求していくのもありかな。
魔法陣に関しては主人公君達の得意分野だ。
符、カード、システム構築…。日本人は生み出すことは苦手でも追求することに関してはピカイチだ。彼らの様に方程式さえ見つければ使いこなすことが出来るだろう。
MPの問題は札に魔力を込めれる様にするか、トムの護りしものを使って少ないがMPも肩代わりしてもらう、もしくは、付与スキルでMP量増大とMP回復を使えばなんとかなるだろう。
今はレベルが低くて使えないからどのみち実力も上げる必要があるけど…)