〜敗北〜
その刀は禍々しい妖気を放っており魔物と魔族は皆、クロウを警戒してその場を動けない。
クロウは取り出した謎のポーションを一気に飲み干す。
そのポーションはこの街の怪しい露店で買ったアイテムでその効果は一定時間、対象の戦闘能力を上げる代わりに破壊することにしか興味がなくなる【狂戦士の劇薬:バーサーク】であった。
コレクター癖があるクロウは幾らでも収納できるアイテムBOXがあることも重なり、珍しいものを見つけては買い漁っていて、このアイテムもその一つである。
クロウは妖刀を手に笑いながら敵に突っ込む。
「げヒャヒャはは!!ショータイム‼︎」
戦いは呆気なく終わってしまった。
俺は嗤いながら敵を細切れに切り刻んでいく。
魔族も向かって来たが特殊スキル:刀術5で近接戦闘に躊躇いが無くなった状態では何の障害にもならない。
敵が逃げようが命乞いをしようが関係なく全て斬り殺した。
夥しい死体と血だまりの中でクロウの嗤い声だけが広場に響き渡る。
仲間達はタクヤ以外、それを怯えた表情で見ていた。
南門の方は酷い有様だった。
ガジルが「楽しくなってきた」と嗤った後、スキルを連発して暴れまわり、次々と冒険者と兵士達を殺していった。
ダーフとガンツが四天王を阻もうとしてもやはり力不足で、運悪くガンツはガジルの攻撃が直撃し、即死してしまった。
ガジルはダーフも殺そうと棍棒を振り上げた時、急に別の方を見て喋り出した。
「ああ?通信か、めんどくせえ。
…。俺だ、なんのようだ?時間切れ?魔王城にすぐ戻れ?
虫ケラ共を叩き潰した後でいいだろ。コイツらが生きてるってだけでイライラすんだよ。
ああ?魔王様の命令?…。チッ、わかった」
通信が終わるとガジルの足元に転移の魔法陣が展開される。
「じゃあな、虫ケラ共。次は皆殺しにしてやるぜ。
それまでにちっとは楽しめるようになっとけよ」
ガジルが転移され、他の魔物達も森の方に退いていく。
こうして、魔族の侵略は終わった。
敵は去ったが勝利したとはとても言えず、ガジルに見逃されなければ街は滅んでいただろう。
それから二週間が経ったが街はまだ復興状態だった。
街の魔物達が無差別に街を壊し、市民を殺したのでどこも人手不足で手が回らないのだ。
まだ街には焼け焦げた建物や瓦礫がそのままの状態のところもあった。
そんな中、クロウを含む五人は冒険者ギルドの会議室にいた。
大切な話があるとダーフに呼ばれたのだ。
「よく来てくれた。
まだケガも治っていないのに呼び出してしまって済まないね」
「いえ、それはお互い様です。ダーフさんも街の復興で大変だと思います」
「そう言って貰えると助かるよ。
早速だが、これからのことについて話がしたい。
魔族領から離れたこの街にまで攻めて来て、その中には四天王がいた。
ヤツはここだけでなく、国や種族を関係なく暴れまわっているという報告も入って来ている。
国は今回のことを重く見ている。
魔族の侵略が本格化してきたとね。
そこで坊主には至急、トート街に向かって欲しいのだ」
「ちょっと、なんでタクヤが名指しなのよ?Fランクよ」
「それは…」
「ギルド長、ここからは僕に話をさせてください」
タクヤはこの街にいた理由と自分の正体について話し始める。
自身が異世界に召喚された勇者で魔王を倒さなければいけないこと。
この街にいたのは国の王様から紹介状を貰っていて、ギルド長の元で戦いの経験を積むためと魔法使いを仲間にするために魔法学園の首席を探していたところに今回の襲撃があったこと。
「それでなんだけど、皆さえ良ければ魔王討伐の旅について来て欲しいんだ」
「ふん、別にタクヤが何者でも関係ないわ。
それに首席の魔法使いも必要ない。優秀な魔法使いなら私がいるからね。
勇者の旅なら魔法陣に触れ合う機会も増えて研究が進むから、ついていってあげる」
「ありがとう、エリー」
「私達も構いませんよ。
ただ、私にも目的がありまして、場合によっては別行動をとるかもしれません。
それだけは了承してください」
「分かりました。クロウさんについてきて貰えて心強いです」
俺は勇者一行(仮)として街を出る。
街を出る準備をしながらこれからのことを考える。
(俺が勇者の旅についていくことになるなんて転生する前には考えられなかったな。
初めは少し離れたところから観察するだけのつもりだったが、人がバンバン死ぬ戦記物なら勇者パーティに含まれている方が逆に生存しやすいかも知れない。
今回みたいに戦記物なら魔族領から離れた所にいても魔族に襲われる危険性があり、国や街の1つや2つ位なら簡単に滅びてしまうからだ。
それに巻き込まれないためには主人公の側で生存フラグを立ててたほうが安全だ。
それに、主人公君の選択ならどんなに理想論で無茶な事でも結果的に成功するからタクヤ君を支持しておけばパーティ間の面倒な揉め事もない。
まあ、勇者の旅に最後まで付き合うつもりはない。
苦労したのに最期は用済み扱いで追放か処刑されてしまうなんて割の合わない役目は真っ平御免だ。
ハッピーエンドでも常に周りを気にする王城での暮らしか、勇者関係のことをとやかく言わない辺鄙な村でひっそりとした生活で割に合わない。
もっとも、タクヤ君は元の世界に帰還という可能性もあるが前の世界で死んでしまった俺には関係ないし。
タクヤ君は17歳の青年だから魔王討伐はどんなに長くても5年か10年くらいか。
つまり、それ以降は冒険者を本業としていくのは難しくなってしまうな。
魔王が討伐されて魔物の数が減ってしまうなら討伐や護衛依頼も減ってしまい、結果、少なくなった依頼の取り合いになる。
その先に待ってるのはサービス向上、賃金の減少、経費削減、それなのにどんどん増えていく割の合わない仕事……。不況が〜、不況の波がやって来るぅ。
理想は主人公君のコバンザメを続けて実力を上げていき、そして、権力の強い貴族か商人のコネを作り、冒険以外の稼ぎを確保すること。
そう、大手の傘下に入って安定した仕事をするのだ。
付与魔法を使えば既製品をちょっと加工するだけで数倍の値段で売れるぼろい商売だ。
多くのチート系主人公君が似たようなことをやってるから決して悪質な転売屋ではない。
だが、周りの商人から目の敵にされる可能性があるから守ってくれる存在が不可欠だ。
あと、今回のことで分かったことはキショイ魔物がこっちに来るのはダメージ云々関係なく、唯々怖い。
あの後、服は全部処分して高い風呂屋に行って何度も体を洗うはめになったし、完全に俺と魔物を分断するバリアー的な手段を手に入れる必要があるな)