〜魔族襲来〜
宿に戻り、俺は二人と共に部屋を引き払う準備をしていた。
荷造りをしていると外から騒ぎ声が聞こえてくる。
何事かと思い、外の様子を見ようとすると冒険者カードが光って声が聞こえてきた。
「ギルドから冒険者のみなさんに緊急の連絡です。
魔物の集団がこちらに向かって来てます。
その中には魔族も観測されていることから魔族の侵略と考えられます。
Cランク以上の冒険者は南門に集まって魔物の襲撃に備えてください。
それ以下の冒険者も可能ならば市民の避難の手助けをお願いします」
(思っていたより早くテンプレイベントが来やがった。
これは主人公君と魔族四天王との初戦闘だろう。
このイベントで厄介なのは、街の被害が敵によって変わってしまうことだ。
オーガみたいな外見で粗暴な性格だったら、魔物たちは手当たり次第暴れて建物だけでなく多くの死傷者が出る。
人型の女性だったら、そいつは新しいヒロインで被害も冒険者が負傷する位だろう。
まあ、敵ヒロインが仲間になった時、主人公陣営を殺しまくってたら周りが許さないからその辺りは大分マイルドになる筈だ。
本当は誰より早く逃げ出したいけど、タクヤ君の活躍を見たいし、この世界のことを知るために今回の魔族の大将は絶対に見ておきたい。
魔族がオーガだったら人や獣人がバンバン死ぬ戦記物。
女性だったらそこそこ被害は出るが最終的に魔族と友好関係になる異世界ハーレム物語である。
怖いけど、それだけは確認しておかないと対策が取れなくなってしまう)
「二人共、今の通信を聞いたな。
これから私達は南門に向かい、魔物の襲撃に備える。
すぐに装備の確認を済ませてくれ。少し寄り道もしたい」
準備を整え、三人は急いで冒険者ギルドに戻った。
間に合ったらしく、タクヤとエリーはまだ建物内にいた。
「タクヤ、どうする?
魔族がわざわざこんな街まで攻めてきたけど」
「…。僕は、一人でも多くの人を救いたい。
避難誘導も大事だけど、魔物を出来るだけ倒して街に被害が行かないようにしたいんだ」
「分かったわ。だけど、私達ランクが低いから南門に向かっても戦いに参加できるか分からないわよ」
「それなら、私達と一緒に行動しませんか?」
俺は二人の会話に割り込む。
「誰よ、あんた達?」
「私はFランクのクロウといいます。
こちらの男性がトムで獣人のほうがアティです。
私達も戦いに参加したいのですがFランクなので受け入れてもらえるか不安でしてね。
お二人と行動できれば、パーティとして戦えるのではないかと思って声をかけさせてもらいました」
「どうするのよ、タクヤ?」
「僕は賛成だ。みんなで協力すれば、きっと魔族にだって勝てる筈だ」
「分かったわ。クロウだっけ?あなたの提案を受け入れるわ」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。
僕はタクヤって言います。よろしくお願いします」
「私はエリーよ。短い間だけどよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
その後、五人はそれぞれの戦い方を説明し、簡単なフォーメーションを決めて南門に向かった。
俺達が南門に着くと、既に冒険者と兵士達が魔族の侵略に備えて慌ただしく動きまわっていた。
戦いに参加するにはどうすれば良いか分からないでいると、タクヤが何かを見つけた。
「あそこにいるのは…。皆、ちょっと待ってて。
上手くいけば戦闘に参加できるかも」
タクヤが向かった先には熊族の獣人と周りの兵士達に比べて装備に装飾が施されている男性がいた。
俺は心眼スキルを使って二人を確認する。
ダーフ レベル34
サリア支部 冒険者ギルド長
HP1030/1030
MP130/130
スキル一覧
体術4
強化魔法2
サバイバル2
威圧2
ヒルク レベル24
サリア街 兵士長官
HP694/694
MP300/300
スキル一覧
剣術3
体術2
交渉3
(ふむ、冒険者ギルドのトップと兵士のトップか。
今回の戦いに関する打ち合わせをしている様だな。
…。トップの割にはレベルがそんなに高くないな。
もしかして、この世界ってレベルが上がりにくいのかな。
まだ、簡単な魔物しか倒してなかったから気づかなかったけど。
レベル上げが面倒なRPGってやる気無くすんだよな〜。
それにしても、タクヤ君、平然と突撃して行くな。
面識あっても普通、遠慮しない?)
「ダーフさん、ヒルクさん。お久しぶりです」
「おう、坊主、元気そうだな。ちゃんと頑張って強くなってるか?」
「勇しっ、いえ、お久しぶりですね、タクヤ君。何かご用ですか?
ここはもうすぐ戦場になって危険ですよ」
「僕も戦いに参加させてください」
「いけません、タクヤ君。君はまだランクも低いはず。
安全なところに避難していてください」
「そうだな、ヒルクの言う通りだ。
坊主の実力じゃあ、周りの足を引っ張っちまうぜ。
それに安心しな。幸い、街にAランクのガンツがいたから魔族が来ても戦えるぜ」
「いえ、魔族がいるなら尚更、僕の力が使える筈です。
それに、今は向こうにいる彼らとパーティを組んでます。
皆さんの足は引っ張りません。お願いします!」
「……。しょうがねえな、戦闘に参加することを許可する」
「ダーフ殿‼︎」
「坊主の力は魔族に効果的だ。
正直、俺やガンツが前線に出ても手が足らねえ。
それに、坊主はそのうち魔族とやり合うんだ。今のうちに経験させておいたほうが良いだろ」
「…。分かりました。私も許可します」
「ありがとうございます!」
「でも、これだけは約束して下さい、タクヤ君。
絶対に生き残ること。もし、私達が全滅することになったらタクヤ君は王城まで撤退して下さい」
「そうだな、あと、常にパーティで行動し、独断専行はするなよ。
それと、戦闘が始まったら俺の側を離れるなよ。フォローしてやる」
「…分かりました。パーティの皆に伝えてきます」
話を終えたタクヤが戻ってきた。
「皆、許可を貰ってきたよ。前線のギルド長の近くで戦うことになった」
「へー、よく貰えたわね。正直、追い返されるか、後方支援だと思ってたわ」
「ちょっとしたツテがあってね。
それよりももうすぐ敵が来るらしいから、今のうちに準備しておこう」
タクヤはあまり詮索されたくないのか、誤魔化す様な言い方をした。
エリー達は特に気にしてなく、俺もツテの見当がついていたためスルーした。
それから1時間後、森の奥から魔物の大群が現れた。
魔物はワーウルフやゴブリンなどこの一帯に生息するものが殆どでタクヤ達でも対処する事が出来るが、問題は奥の方にいるオーガの集団と、それよりも3倍近く体格が大きくて肌の色が違うオーガである。
俺はあれが四天王だと見当をつけて心眼スキルを発動させる。
ガジル レベル63
オーガキング 魔王軍四天王
HP52000/52000
MP1300/1300
スキル一覧
棒術4
体術3
強化魔法4
土魔法3
威圧3
自然治癒2
特殊スキル一覧
鬼の王[オーガ族の戦闘能力増大:中]
戦闘狂[戦闘が一定時間過ぎる度に攻撃力増大:中]
勇猛果敢[前衛で戦闘すると戦闘能力増大:弱]
金剛[ダメージを受ける度に防御力増大:中]
血狂い[死亡数が増える度に戦闘能力増大:弱]
混沌神カオスの加護[魔法の成長促進:小 、MP増:小]
(………。強すぎね?それに特殊スキルが凶悪すぎる。
こんなの暗殺くらいしか可能性ないじゃん。集団戦闘させたら無敵じゃん。
しかも、オーガだし。これは全滅フラグだな。
まあ、主人公君とヒロイン1号がいるということは文字通り皆殺しにされることはないだろう。
とりあえず、タクヤ君の側にいて場合によっては全力で逃げる。
死亡フラグの見極めに注意だな)
ガジルが前に出てくる。
「ようやく着いたか。弱い奴等の速さに合わせてたから退屈だったぜ。
それにしてもまあ、この前、駆除してやったばかりなのに虫ケラ共がウジャウジャいやがる。
魔王様の命令で来たが強そうな奴はいなさそうだし、とっとと片付けて帰るか。
せめて豚の様な悲鳴を上げて散り際を愉しませろ」
近くにいたものに号令を出すと、魔物達はこちらに向かって真っ直ぐに突撃して来た。
「来るぞ!周りと協力して確実に殺せ!
街に魔物を入れさせるな!」
「弓、魔法部隊、構え!一斉斉射の後は前衛を援護しろ!
陣形を崩すな!」
ダーフとヒルクも指示を出して迎撃態勢をとる。そして、両者がぶつかり合った。