『ケルマデック海溝』 -10,047m
……こうして。
いくつかの違和感を抱きながらも。
……俺……贄野 羔は、幼女、ひさげ あかりちゃんとともに、地下11階を、目指すことにしたのであった。
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「このすうじのとおりにすすめば、かえれるの~?」
俺はスマホの写真だけではなく、更にメモ用紙を使って何枚か階数を書き写し、そのうちの1枚をあかりちゃんに渡したのだ。
「そうだよ、あかりちゃんも、覚えておいてね」
「まかせて!」
あかりちゃんは「3!1!4!1!5!」と得意げに言った後、俺のメモをチラチラ見ながら多分習ったばかりの数字の文字を嬉しそうに音読している。
可愛らしい。
そんな幼女と一緒に階段を下りながら。
俺はちょっとした違和感について、ぼんやりと、考えて直してみた。
1つ目。
地下5階は肉の付いたミイラだったのに、1階はなぜ、白骨死体、だったのか。
死体を土に返す微生物がいないこの空間で、あれだけの量の白骨死体って、おかしくないか?
これが、まず最初に違和感を感じた点ではあるが、これは階層によって状況が違うのかもしれない。
10階で命を落とした場合は、白骨化して改札口に集められる、とかだろうか。
よくわからないが。
そして、2つ目。
「こひつじー!
やっとかえれるねー!」
そんな俺の沈思黙考をぶち壊すように、幼女が笑顔で乱入してきた。
「かえったらなにするー?」
幼女の言葉に、俺は少し考えて答えを出した。
「まずは、寝たいかな~」
まあ実際は、眠ることなく、そのまま会社だろうけどね、という本音は押し殺して答える。
「あかりちゃんは?」
「わたしはね、わたしは、ごはん!」
言い切った。
流石は育ちざかり。
カロリーメ〇トでは足りなかったのだろう。
「あかりちゃんは、食べ物なら、何が好きなの?」
「なんでもすき!
あ、でも、おにくが、いちばんすき!」
お肉か。
お肉だよね。
可愛い。
俺はまだ余っているカロリーメ⚪トをあかりちゃんに渡すと、リスみたいに食べ始めた。
すくすく育ってくれることを、お兄さんは望むよ。
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『さんいし いこくに むこう。
さんご/』
数字の通りに、地下の階段を降っていく。
今までの苦労が嘘のように、階段は次の階層を示してくれた。
『 魚 安 駅 ( B6F : 伊豆・小笠原海溝 : -9780m )』
『 魚 安 駅 ( B7F : ケルマデック海溝 : -10047m )』
『 魚 安 駅 ( B8F : フィリピン海溝 : -10057m )』
『 魚 安 駅 ( B9F : トンガ海溝 : -10882m )』
駅名の下に描かれる魚は、階層を降りるにつれて、次第に異形な様相を呈していく。
それらは何一つ名前は解らないが、子供の頃に図鑑で見た、深海魚の一種だと思われた。
まあ、もう、ゴールも間近だ。
特にいうこともあるまい。
そんなことを考えて、地下10階層に、到達した。
到達した先には……死体が、あった。
死体は、白骨死体ではなく。
……肉のついた、ミイラの様な、死体であった。