『伊豆・小笠原海溝』 -9,780m
「……あれ?
1階の人骨、調べれば、よくね?」
それは何というか、降って湧いた天啓であった。
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地下5階から6階へと向かう階段の『1番』を選んだところ、間違っていたようで、1階へと舞い戻ってきた俺……贄野 羔は、『また、げろげろだ~』と嫌な顔をしている幼女、ひさげ あかりちゃんを連れて、再度改札口へと向かう。
そこには、先ほど同様、たくさんの骸骨が山積みされていた。
あかりちゃんも、少しだけ慣れたようで、青い顔をしながら遠巻きでそれらを見ている。
俺は改札を飛び越えて、改めてそれらを観察する。
よくよく見てみると、むき出しの白骨死体だけではない。
一部、生前の着衣だと思われるスーツやらカバンやらが、下の方に散らばってもいた。
……恐らく全員、俺と同じ、社畜だったのだろう。
終電からのホーム就寝、そしてここでの苦労まで、簡単に想像でき、一瞬で共感できた。
俺は頭を下げると、今度はその服やカバンの探索を始める。
その中から、いくつかのメモ用紙を見つけた。
全く関係ないと思われるものも、勿論あったが……。
予想通り、階段の順番を記載したメモも、見つかった。
『3141592653』
『3→1→4→1→5→9→2→6→5→3』
『①3②1③4④1⑤5⑥9⑦2⑧6⑨5⑩3』
そこにあるメモには、共通点があった。
いずれも、地下10階までの道のりしか、記載がなかったのだ。
よく考えれば、それはそうだろう。
何しろここに居る白骨死体は皆、出口を目前にして朽ち果てて行った者たち、なのだから。
……これはこれで、当然有難い情報なのだが、ラストの階段の番号が解らないとのなると、やはり1番から順番良く調べて行かなくてはならず、階段を何度も繰り返し降りなくてはならない。
もちろん俺もだが、あかりちゃんにとっては特に、厳しい戦いになる。
他に何かないか、更に誰かのカバンを探してみる。
「……ん?」
……そこには、おかしな日本語が、書かれていた。
『さんいし いこくに むこう。
さんご/やく なく さんぷ。
みやしろに むし さんざん やみに なく』
「『産医師 異国に 向こう』……?
なんで、ひらがな……?
……あ、これは、多分、違うな……」
少し考えて、俺は気づく。
「全部数字で表せるわ。
恐らく、何かの数字のゴロ合わせだな。
そんで、『産医師』から始まる数字の、覚え方ってことは。
全く確信は無いけれど。
……多分、円周率だ」
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よくよく考えると、ヒントはあった。
地上階の数字が『3』。
地下階の数字が、『1』『4』と続けば。
勘が良い人なら『3.14』を思いついて、『π』についてスマホでググるだろう。
……いや、そう言えばスマホは圏外なんだった。
なんだ、じゃあ結局、ココで『円周率を覚えている人』のメモを確認しないと、クリアできない、ってことか。
……まあ、良い。
俺は、改めて、そのメモを確認する。
『さんいし いこくに むこう。
さんご/』
スラッシュは恐らく『円周率を覚えている人』が書いたもので。
このスラッシュで切れるところが、11番目の数字となる。
……すなわち、地下10階から地下11階へ降りる階段の番号……『11番目の数字』は……『5番』だ。
……何故、円周率なんだろう。
ミスると一階に戻るからかしらん。
俺はスマホで『円周率記憶法』を写真に納めた後。
ひとまずゴールに近づいたということで、幼女に報告する事にした。
「多分ゴールがわかったよ、あかりちゃん!」
「ほんとぉ!」
笑顔をいっぱい浮かべるあかりちゃんに、こちらも嬉しくなって笑顔で返す。
……こうして。
いくつかの違和感を抱きながらも。
……俺はあかりちゃんとともに、地下11階を、目指すことにしたのであった。