『ヤップ海溝』 -8,946m
一つ下の階層へ行ける階段は、『1番』から『10番』の10の階段のうち、恐らく1つだけ。
それを1つずつ、しらみつぶしに試していかないと、地下11階までたどりつけない、ということだ。
そして、間違った階段を下りた場合、スタート地点である1階まで戻されてしまうのだ。
……ん、これ、無理くさくね?
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無理臭いと思ったとしても、やらないと先には進めない。
そんなわけで、結局階段を下りるわけではあるのだが。
地下2階へは、意外とすぐについた。
今のところ、階段の1番から順番良く試していく、以外の方法が見当たらないので、『1番』の階段から降りたところ、普通に地下2階についたのだ。
ちなみに、看板には、こんな風に書いてあった。
『 魚 安 駅 ( B2F : サウスサンドウィッチ海溝 : -8428m )』
下に書かれている魚の種類については、やっぱりよく解らなかった。
更に地下3階へ向かう階段の番号は『4番』。
何度も何度も下りながら、やっと見つけることが出来た。
看板についても話しておこう。
『 魚 安 駅 ( B3F : プエルトリコ海溝 : -8605m )』
下に書かれていたイラストは、魚ではなく、カメであった。
恐らく、どんどん水深が深くなっているという設定なのだろう。
普通に、面白い試みなんだよなあ。
今度平日に、マジで来よう。
「……それにしても、別に、1階で待っていても、良いんだよ?」
俺……贄野 羔は、チョロ幼女、ひさげ あかりちゃんに声を掛ける。
現時点では、俺がいろいろ試して、地下10階まで行くルートを探すまでは、あかりちゃんは1階で待っていた方が、コスパは良い。
良いの、だが。
「こひつじだけでは、あぶない」
あかりちゃんは、謎の使命感で、ずっと俺についてきてくれた。
……多分、寂しいだけ。
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地下3階まで進むことで、更にいろいろ見えてきたルールがある。
階段を、『上る』場合。
例えば、先ほど言った通り、地下3階へ向かう階段の番号は『4番』であるわけだが。
4番以外を上ると、何故か1階に到達する。
では、4番ではどうか。
試してみると、1つ上の、地下2階へと、到達した。
更に、付け加えると、正しくない階段を使うと、上ろうが下ろうが、地上1階に戻る。
なるほど。
つまり、恐らく、こういうこと、なのだろう。
1つの部屋には、上る階段が10個と、下る階段が10個あり。
正しくない階段を使うと、謎の力で強制的に1階に到達するが。
正しい階段を使うと、一般的な物理法則通りの結果になる、らしい。
まあ、その条件が分かったところで、なんになるか、と言われると、わからないのだが。
「こひつじ~……のどかわいた……」
あかりちゃんが、気まずそうに、声を掛けてくる。
俺はカバンの中から、持ってきていた水筒を取り出してお茶を渡す。
実は俺は、水筒男子、なのだ。
あかりちゃんは分かり易く『ニパッ!(゜∀゜)』として、ゴクゴクと水分補給をした。
持久戦になりそうな今回、あまり水分を浪費するのは良くないことだ。
あかりちゃんも、そういったことは薄々勘付いている様で、食べ物や飲み物は、なるべく要求しないように、最小限度の要求にしている、様に見える。
……ただ、しかし、子供の熱中症は命にも係わるからな……。
俺は無理をさせずに、なるべく水分摂取させるようにしていた。
あと普通に、あかりちゃんが可愛すぎるせいもあった。
そんなこんなで、更に先に進んでいくことが出来た。
地下4階への階段は『1番』であった。
『 魚 安 駅 ( B4F : ヤップ海溝 : -8946m )』
1番は、本当に有難い。
苦労することなく、素直に下に降りることが出来た。
更に、地下5階への階段は『5番』であった。
『 魚 安 駅 ( B5F : 千島・カムチャツカ海溝 : -9550m )』
下に書かれている魚は、魚というか、クジラ、であった。
クジラ、か。
よくわからないが、更に深いイメージは、ある。
そんなこんなで。
静かに、ゆっくりと、下へ進んでいる俺達の前に。
……それは、現れた。