『プエルトリコ海溝』 -8,605m
より深く、深く。
水底の深淵へ。
いくつもり……だったんだが。
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『魚安駅』の案内板を見る。
どうもこの『魚安駅』は、地下11階まで存在する、巨大な地下鉄駅のようだ。
下に行くと、恐らく鉄道ではなくショッピングとかフードとかを楽しむ階になるんだろうけど。
それにしても地下11階とは、恐れ入る。
マントルにも近いんじゃないか、なんちゃって。
まあ、取り合えず地下11階を目指して進み始めた俺達なのだが。
「……どうなってんだ、これは」
俺、贄野 羔は、何度目かの溜息を吐く。
「う~ん?」
俺の後ろからついてきた幼女、ひさげ あかりちゃんは、可愛らしく小首を傾げた。
「なにか、へん?」
あかりちゃんは、よく解っていないらしい。
俺は、幼女に、『 魚 安 駅 ( 1F : 日本海溝 : -8046m )』を指差した。
「いいかい、あかりちゃん。
ここは、魚安駅の1階なんだ」
「よめない~」
「あっ」
そうか。
小学校低学年では、この看板の文字を読むのは厳しいかもしれない。
仕方なく俺は、自分のゲロを指差す。
「あそこに、吐瀉物がある」
「げろげろ~」
「そうだ、げろげろ~だ。
よし、それじゃあ、階段を降りよう」
そのまま、俺とあかりちゃんは、横にある『4番』の階段で1階から地下1階を目指す。
しかし、降りた先には……。
「げろげろだ~!」
そこには、『 魚 安 駅 ( 1F : 日本海溝 : -8046m )』の看板と。
……自分のゲロが、あった。
「そう、下に降りても、何故か、ずっと同じ場所……1階、なんだ」
俺は自分に改めて説明するように、あかりちゃんへ言葉をかける。
やはり、この空間は、おかしい。
1階から下に降りても、そこにはまた、1階があるのだ。
幼女は、解っているのか、解っていないのか、フンフンと可愛らしく頷くと。
「したにいくほうほう、しってるよ~!」
と、胸を張った。
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俺は、あかりちゃんの言う通り、『3番』の階段から地下に降りる。
すると、そこには……確かに。
『 魚 安 駅 ( B1F : ペルー・チリ海溝 : -8065m )』
の看板が、見えた。
「ん、んんん?
どういう、ことだ?」
俺が一人、首を傾げていると。
「3ばんのかいだんからおりたときだけ、ここにこれるんだよ~」
あかりちゃんが笑いながら、そう教えてくれた。
「……なるほど、そう言うことか」
俺は、納得しながら頷く。
つまり、下に行ける階段は10個存在しているものの。
実際下につながっている階段は1つで。
残りは全部、元の場所に戻ってしまう、ということになるのだろう。
原理はよくわからんが。
あかりちゃんは、そういえば、一番最初に見つけた時には、地下1階にいたな。
恐らく俺より先に目を覚まして、出口をいろいろ探しているうちに、偶然そのことを発見したのだろう。
可愛らしい。
「試しに、そのまま下に降りてみるか」
俺は『3番』の階段で、地下1階から地下2階へアプローチしてみる。
しかし、そこには……。
「げろげろだ~!」
……また、1階が、あった。
……理解した。
一つ下の階層へ行ける階段は、『1番』から『10番』の10の階段のうち、恐らく1つだけ。
それを1つずつ、しらみつぶしに試していかないと、地下11階までたどりつけない、ということだ。
そして、間違った階段を下りた場合、スタート地点である1階まで戻されてしまう。
……うん。
これ、無理くさくね?