『サウスサンドウィッチ海溝』 -8,428m
……かくして俺……贄野 羔は、チョロ幼女ひさげ あかりちゃんとともに階段を上り、改札口へと目指すのであった。
地下から地上への階段を上り、自分の吐き出したゲロを横目に、改札へと向かった俺たちではあるが。
#############
……改札の先は、シャッターで閉ざされていた。
それは、まだ、良い。
時間外に外からの侵入者を防ぐためなのだろう。
しかし、しかし。
シャッターの前にある、大量の人骨は、一体、なんだ?
「ひ、ひぎいいいいいい!」
あかりちゃんが蒼い顔で大声を上げて、うずくまる。
「ちょ、ちょっとそこで待ってて!」
俺だって逃げ出したかったが、そうも言ってられない。
残った酒のパワーで恐怖をぶん投げて、改札を飛び越えると、人骨へと近づく。
……本物……っぽい……か?
本物の人骨なんて、祖父の葬式以来見ていないから、正直正誤なんて解らんが。
それが、複数の改札を埋め尽くさんばかりに、こんなに大量に。
本物にしろ、偽物にしろ。
どちらにしても、正気の沙汰ではない。
サッと骨を確認した俺は、続いて骨の山を駆け上り、閉じているシャッターに飛びかかる。
「誰かいませんか~!
すみませ~ん!
閉じ込められてしまいました~!」
ガンガンと叩いてみるが、なんとも手応えが無い。
そう、文字通り、手ごたえが無いのだ。
なんというか、シャッターはその性質から、叩くとそれなりに揺れ動く。
それが、全然揺れないのだ。
シャッターというよりも、むしろ壁に近い。
……なんだこれ。
この空間は、何か、おかしい。
少なくとも、待てど暮らせど、シャッターをいくら叩いていても。
間違いなく外へは出られないだろう。
……落ち着け、贄野 羔。
この異常空間について、改めて考えなおすのだ。
ここは、『魚安駅』。
そう、魚をモチーフにした、駅だ。
そして、駅の看板に書かれた、良くわからない、『日本海溝』を始めとした、『海溝』の記載……。
……待てよ。
これは、つまり。
ゴールは、下にある。
即ち、下に降りるのが、正解、なのでは、ないか?
「……あかりちゃん、行こう」
「うう?」
俺は、幼女の手を取り、歩き出す。
「こひつじ、でぐちから、でないの?」
幼女はタメ口であるが、気にせず言葉を続ける。
「……ああ、どうやら、出口は、ダメらしい」
「……そうなの?」
幼女は疑問符を浮かべながらも、ついてきてくれた。
……本当にダメなのかは解らない。
何が正解かも解らない。
それなのに、俺は、少女とともに。
どこまでもずぶずぶと、沈んでいくこととなる。
より深く、深く。
水底の深淵へ。