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ささやかな祈り

作者: 一条 灯夜

「テレビ局も大変なんだろうさ」


 コロナですっかり様変わりした日常。

 いざ新生活と勇んで乗り込んだ東京も、これでは全く楽しめない。まさか、大学生になっていきなり自室に引きこもることになろうとは……。

 ひとり暮らしの部屋が広く感じる。だから、音がないのがなんか不安でテレビをBGMによくつけるようになっていた。

 受験ですっかり観なくなってたんだけどな。

 ただ、テレビはテレビで大変なのか、ニュースに再放送、バラエティーもなんか昔と比べればパンチ不足。

 速報が流れれば、新規患者数。これじゃ気が滅入る一方だ。

「どこもかしこも、大変なんだろうさ」

 もう一度、自分に言い聞かせるように呟いても、なんの慰めにもなりゃしない。

 せめて、気になる女の子に連絡でもできりゃ良かったんだけど、いざって時は内気な自分が憎くなるだけだ。


 別の高校だけど、同じ塾だった想い人。

 無事に同じ大学が決まって、じっくり攻略しようと思ってたってのに。


 また始まったニュースに嫌気がさして、チャンネルを変える。

 まあ、在り来たりっちゃ在り来たりだけど、他に見れるようなものがなくて、クイズ番組をつけてたら――。

「本日の優勝賞品はこちら。皆さん、ご自宅で運動不足ですよね? そんな毎日の健康をサポートして、緊急事態明けには美ボディを見せつけろ!」

 と、嬉々として話す司会者の芸人に、なら男はどうすんねん、と、雛壇……というには、アクリル板の仕切りがあって、往年のイメージとは違う微妙な距離感で並んだ芸人が突っ込み、そこにまた司会者が言い返している。

 まあ、聞いてて不快なトークじゃない。

 んで、どうやた一位は最新型のフィットネスバイクらしかった。


 ふーん、と、聞き流し、行動力ゲージが回復してるであろうスマホゲームを立ち上げようとしたところで「本日のクイズは、テレビの前の皆さんに回答していただきます! いいいですか? dボタンで連動すると参加できますので――」

 ああ、まあ、良くあるな、とこれまた聞き逃す。

 思った程、行動力ゲージは回復してなかった。時間が進むのが遅い。課金はしたくないけど、無料配布の回復材使うかな、と、悩んでいた時だった。

「いいですか皆さん。今回は、テレビの前の皆さんが主役です! こんな脇役のくされ芸人とは違った、擦れてない反応をお願いしますよ~」

 やけにしつこいな、と思ったら、番組のテロップにいある説明では、1~6の回答者を視聴者から選ぶシステムのようだった。

 ほおん、と、芸人としゃべりたいとか、テレビで目立ちたいのが参加してるんだろうと考えてた。

 もう一度、どうすっかな、と、スマホ画面をにらむ。

 最近、みんな暇なのか、ゲーム重いんだよな……。



 ものの弾みだったとしか言えない。どうせダメだろうなって思いつつも、景品につられてデータ連動させた瞬間、表示されるQRコード。当選の文字。

 またまた、どうせ全員に表示されてて、ここから更に選別があるんだろって思って読み込めば、リンク先からテレビと同じ声が聞こえてきた。

「おおっと、最後の六番も決まったようです。もしもし、聞こえてますか?」

「あ、はい」

 ついそう答えていたけど、実感がなかった。

「それだけかい!」

「あー、まあ、頑張ります」

 虚を突かれたら、人間なんてこんなものだ。普段考えてるような面白い話も、気の利いた台詞も出て来やしない。

 とはいえ、俺が一番適当に参加してしまったのか、それとも、繋ぐまでの間になんかトークがあったのか、他の回答者はもう少し打ち解けた感じで、色々と身の上話とか、コロナで大変やね、とか、いろんな言葉が聞こえて来ていた。

 が、正直、俺はめんどくさくなってきていた。

 ノリだけで参加するもんじゃないな、こういうのは、とか考えてたら――。


 司会者の話に反応して、ちょっと特徴的な笑い声が聞こえてきた。いや、普通の笑い声なんだけど、息継ぎの時の息を吸う時に、なんかしゃっくりしてるみたいな、そんな声。

 続いて、司会者への返事で聞こえたのは、地元のアクセントと……大学生ですの声。


 脳が情報の整理をするのに、ひと呼吸必要だった。

 有り得ない偶然だった。

 たまたま同じ番組見て、たまたま参加回答権を得たのは――。


 同じ大学だねって、塾で微笑みかけてくれたあの娘?


 惚けてたところで、司会者の声が響く。

「六番さん、起きとるか? 寝てちゃだめよ! これ、テレビなんだから。さあ、ほら、意気込みをどうぞ」

 面白いのをな、と、おそらく雛壇の方の人が言った声も聞こえてきたので――伊達と酔狂で俺は宣言した。

「優勝して、三番の人に思いの丈をぶつけようと思います!」

 おお、というどよめきの後「そういう番組ちゃうねんからな!」と、ツッコミが入る。司会者から離れて座っている芸人にカメラが寄って、中途半端な笑い声が混ぜられた。

 どうも俺は、のんびりの六番ではなく、お調子者の六番で定着しそうだった。

 なら別にそれでもいい。

 ただ、彼女が、俺が誰なのかに気付いてくれれば、それでいい。

「あ、えっと、え?」

 戸惑ってる三番の人の声。


 ふ、と、そこで熱くなっていた自分を笑ってしまった。

 いや、なにもかもがあやふやで不確かで、彼女があの子かさえ定かじゃない。

 でも、期待するのは自由じゃないか。

 もう少しだけでも、この弾む鼓動を楽しんでいたい。


 ささやかな祈りの中。

 第一問が高らかに読み上げられた。

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