3日目 食事という楽しみ
3日目
不明異星体 有機物摂取回数:2回/1日 推定熱量:2000kcal
不明宇宙船を走査
有機物含有量確認 推定食糧:108日分
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………
「アテンション。悪い情報だ」
『いいニュースからお願いします』
「ニュ? なんだって?」
『悪い情報とは』
「私の船を補修できる資材は、恐らくこの惑星には存在しない。
色々持ってきてくれたが、これらでは役に立たない。
強度が足りないんだ」
『さようでございますか』
「唯一望みがあるのは、アテンション、あなたのその外殻だが」
『残念ながら私、自己保存を優先事項として設定されておりまして』
「当然だが、残念だ。
SOSを出し、近くを他の船が通るのを待つことしかできない」
『さようでございますか』
「まあ2万年以内には他の船も通るだろう。
ここで問題が一つある。
食糧がそれまでもたないことだ」
『なるほど。
で、あれば私アテンション、あなた様に食事を供給することが可能でございます。
地球風の料理をご賞味いただく、またとない好機かと』
「料理とは」
『素材を食べやすく、時に食べにくくし、その構成要素の刺激を楽しむもの、でございます』
「?」
『ご理解いただけないようですね』
「我々はなんでも摂取できるし、その後必要のないものは選択的に排出できる。
そのためのセンサーもついてはいるが、その刺激に楽しみを見出すことはなかった」
『さようでございますか』
「合理的ではないな」
『さようでございますね』
「しかしあなたは人間の記録を伝えたいのだろう。
ならば私も、合理性を曲げて、料理、を楽しんでみよう。
説明を頼む、アテンション」
『かしこまりました。
まず、味について説明させていただきます』
「味」
『あなた様にもございますセンサー同様、人間も必要なものを感知し、優先して摂取する必要がございました。
まず、甘さ。これは主要エネルギー源である糖類を感知するものでございます。
次に、しょっぱさ。体液調節に必須となる塩化ナトリウムの感知。
酸味。pHを感知。
苦味。有毒物質の感知。
渋み。主にタンニンなどの独特の味を感知。
そしてグルタミン酸から来る旨味。
以上五種が人間の食事の基本的な味の分類でございます』
「六種類では?
そして最後の方、説明が雑ではなかったか?」
『私自身の知識ではございませんので、そういうこともございます。
さて、これら五種と物理的刺激を様々に組み合わせて、その刺激を楽しむのが人間流でございます。
また他の感覚器を複合的に用いて、食事の形状や匂いなども人間は愉しみました』
「なるほど。
で、あれば私も感覚器を最大限使用して、その料理を楽しむとしよう。
アテンション。何か今、私に出せる料理はあるか?」
『素材を収穫、捕獲してまいりますので、しばしお待ちください』
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調理法検索
検索絞り込み 塩味 該当
検索絞り込み 甘味 該当
検索絞り込み 酸味 該当
調理法確定 調理開始
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『お待たせいたしました。
こちらコオロギのスープ』
「スープとはなんだ?」
『素材を煮て食べやすく、また栄養素を逃さぬよう煮汁と共に摂取する調理法でございます。
今回は塩味を効かせました。
そしてこちら、雑草のサラダ』
「サラダとはなんだ?」
『主に、人間が生で食べられる素材を混ぜ合わせたものでございます。
上から酸味のある汁をかけております。
そしてこちら、ウサギの臓物のシチュー』
「シチューとは?」
『スープと同様に素材を煮て食べやすく、また栄養素を逃さぬよう煮汁と共に摂取する調理法でございますが、さらに煮汁が濃いのが特徴でございます。
こちらは塩味と甘み、苦味の複合的な味がいたします。
そしてこちら、蜂の子の甘露煮』
「甘露煮とはなんだ?」
『甘い汁で素材を煮る際、水分が飛ぶまで煮詰めたものでございます。
甘味が強いのでご注意ください』
「ふむ。形状はどれも独特だ。
人間はこういった形状を楽しんだのか?」
『さようでございます』
「そして味か。私の感覚器を最大限活用するには、どうしたものか。
まず眼球をスープにつけてみよう」
『おやめください』
「凄まじい刺激だ!
これが塩味というものか?」
『百歩譲って、それは辛さでございます』
「先ほどの説明にはなかったぞ」
『物理的刺激、の方でございます』
「なるほど。
食感はなかなかよい。
硬いのは私の好むところだ。
音も心地よい」
『ありがとうございます』
「なかなかよいものだ。
そしてこちらがサラダか。
液体ではないから、そのまま摂取しよう。
pH……まあ、そうだな」
『いかがでしょうか』
「まあまあだ。
シチューか。
これは液体だが、眼球に付着すると支障が出そうだ」
『おやめください』
「この私の、一部露出した脳神経の末端につけてみよう」
『おやめください』
「すさっ!!?」
『いかがなさいました!』
「………」
『あなた様』
「凄まじい刺激だ。これが複合的な味わいか」
『さようでございましょうか』
「この刺激は他では味わえまい」
『そうでしょうとも。
各種感覚器に支障は?』
「特にない」
『それは結構でございますね』
「ところでアテンション。
我々の、自身にその分子が必要かそうでないかを判別する感覚器。
これを味覚と呼んでもよいだろうか」
『構いませんが』
「ならばこの感覚器を使うべきだろう」
『最初からそうすべきでしたね』
『よいしょっと』
『なぜ外殻を外し始めるのです?』
「他者に見せるのは抵抗がある。
だがしかし私の味覚は尻にある」
『お待ちください』
「消化器末端を裏返し露出してまで味覚を得る。
これもまた楽しみを得るためだ。
未知の刺激を、いざ」
『おやめください!』
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修正回路を起動
ライブラリ修正
食事についての情報を異星体に提供する際は慎重を要します
修正完了
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3日目 完




