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『人形劇』~息抜き短編集~

作者: 神城弥生

 今日も八体の人形達は静かに椅子に座っている。


 私が幼いころに死んだ父から受け継いだものだ。


 父は人形師をしていた。路上で人形劇を行い子供から大人まで幅広い人たちから愛されてきた。決して裕福な家庭ではなかったが私はそんな父の人形劇が好きだった。


 だが父は突然の不審死で死んでしまった。原因はまだ分かっていない。丁度私の息子の年位の時に私は父から人形を受け継いだのだ。そして父さんもまた父から受け継いだものだと言っていた。


 今日も私は家族の為、そして来てくれるお客様の為人形劇を開催する。受け継いだ人形には手足に糸がついており、その糸を私の指に絡ませて巧みに動かす。音楽に合わせて、ストーリーに合わせて、ね。


 ここで一つ私の劇のお話を一つしてあげよう。


 人形姫はいつも静かだった。その美しい容姿から男達からは貢物を沢山貰い、そして沢山の求婚をされていた。だが人形姫はそれらには答えず今日も静かに城で過ごしていた。父親である王様はそんな美しい娘を利用し政略結婚をさせて国を大きくしようと考えていた。何とか娘の機嫌を取り自分の利益になるようにと考えていた。


 だが人形姫はそれらを全て断った。理由は分からないが全てを断った。ある日人形姫は珍しく王様にお願いをする。


「愛すべきお父様、偉大な王様。私は何でも斬れる剣が欲しいのです」


 剣など何に使うのか王様は分からなかったが、機嫌を取りたい王様はすぐに国一番の刀鍛冶に依頼して国宝級の剣を作らせ人形姫に渡した。そしてその代わり隣国の王子様と結婚してくれとお願いした。


「愛すべきお父様、偉大な王様。これだけでは私は満足できません。今度は見たものの記憶を消すという魔法水晶が欲しいです」


 何とか機嫌を取りたい王様は二つ返事をしすぐに水晶を見つけ人形姫に渡した。だが人形姫の機嫌をとることはできなかった。


 その晩、人形姫は剣と水晶をもって王様を殺した。何でも斬れる剣は護衛の剣さえも切り裂き簡単に王様を殺すことが出来た。目撃者は魔法の水晶で記憶を消し、そして剣を記憶の失ったメイドに私犯人に仕立て上げた。


 王様の悪だくみに気づいていた人形姫はこうして王座につき、もうい誰からも縛られない優雅なな生活を死ぬまでしました。お終い。


 これが私の人形劇の物語の一つ。


 これには様々なテーマがあるけど、まず一つは悪いことを考える奴は必ずしっぺ返しをくらうという事。そして人は操るものじゃない、人は人形じゃないんだという事、この二つが大きなテーマかな。結局人形姫を操っていたつもりの王様が人形姫に操られ死んだのがその証拠さ。


 今日も人形劇を終わりお金を頂いて人形たちを鞄にしまうと帰宅する。今日もそこそこいい稼ぎができた。この調子なら明日もいい稼ぎが出来そうだ。


 人形たちを鞄から取り出しいつもの椅子に並べる。何故かは分からないが昔かここに人形たちを並べるのがうちの習慣になっていた。


 今日汚れてしまった人形たちを綺麗にし、ほつれた部分を縫い直す。だがそろそろこの人形も限界かもしれない。


「もうボロボロだな。流石に捨てて新しいのを買うか」


 父からの譲りものだが流石に限界がある。捨てて新しい物を買おうと決め人形を椅子に座らせると部屋から出ていく。


 その時人形達が悲しそうな顔をしていたことに私は気づかなかった。


 町中歩いて探してみたが中々いい人形が見つからない。仕方ない、探すのは後日にしようと家に帰り家族と食事をとる。夜も深くなり皆が寝静まった頃、私は不思議な夢をみた。


「捨てないで、まだ使えるよ」


 人形たちが私に群がり捨てないでと訴えるのだ。確かに大事な人形たちだ。そして彼らを使って金を稼いでいるのも事実だ。だが所詮は道具、壊れれば新しい物を買うしかない。


「すまない。君たちはもう用済みなんだ。新しい物を買うよ」


 そう人形たちに語り掛けると人形たちは不思議とケタケタ笑いだした。


「そうなんだ。残念だね。いい人形が見つかるといいね」


 そこで私は夢から覚めた。人形は変わらず椅子に並んで座っていた。


 次の日も劇を終えた後新しい人形を探して街を散策したが中々いいのが見つからない。


 そしてこの日も不思議な夢を見た。


「どうしたの?新しい人形買わないの?」

「ああ、なかなかいいのがなくてね。君たちは一体だれが作ってどこで買われたんだい?」


 人形たちはケタケタと笑うだけで答えてはくれなかった。


 それから毎日人形の夢を見るようになり私はだんだん気分が悪くなってきた。なんで道具である彼らに私の睡眠を邪魔されなければいけないのかと腹も立った。


 思い切って捨ててしまうかと思ったがそれがなければ私には収入がなくなってしまう。まずは新しい人形を探さなければ。


 だがこれらよりいい人形は中々見つからなかった。


 私の持っている人形はやけに精密に作られており表情も豊かでまるで人間がそのまま人形になったかのようだ。


 こんな見事な人形はうちでは作れないと何人もの職人に断られたくらいだ。父さんは一体どこでこの人形たちを見つけてきたのか、聞いておけばよかった。


 今日も人形たちの夢を見る。


「なぁ本当にどこで君たちは買われたんだい?誰が作ったんだ?」

「知りたい?ねぇ知りたい?」


 初めて人形が答えてくれそうな雰囲気に私は心の中でガッツポーズをしながらも冷静に聞いてみた。


「ああ、知りたいな。どこに行けば君達みたいな人形が買えるんだい?」

「ふふ。それはね。こうすればいいんだよ?」


 人形は小道具で使った何でも斬れる剣を取り出し私の腹に刺すこんだ。夢なはずなのに私の腹は燃える様に熱く痛み出し思わず声をあげて床に倒れてしまう。


「君がいけないんだよ?捨てるなんて言うから」

「僕たち人形にも心はあるんだ。捨てないでよ」

「でも大丈夫すぐに仲間が増えるよ」

「そうだね。新しい仲間だ。九体目の仲間だ」

「君はお父さんみたいにいい人形になりそうだ」

「早く糸で結ぼう」

「みんなが起きてくる前に」

「さっさと仕上げてしまおう」


 私は人形たちに何度も斬りつけられ、そして体中に糸を結び付けられた。あまりの痛みに私の意識はだんだんと薄れていった。


「お父さん?お父さん!?」


 息子の声が聞こえる。だが私の体は動かない。何も感じない。私はどうしてしまったのだ?


 その日一人の人形師の不審死が街に流れた。


 彼の家の椅子には九体の人形が静かに笑いながら座っていた。

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