思い出しました
キラキラネームって難しいですね。
私の名前は『垰 灯火』。
『あくつ ひめか』と読む光り輝く名前なのだけれど、幼い頃から今に至るまでその名前に違和感を覚えたことなんて少しもなかった。
物心ついた頃には父はなく、母の女手一つで育てられた『垰 灯火』はとてものんびりした性質で、色んなところで足を引っ張ってばかりだった。
唯一の自慢は母譲りの艶やかでさらりとした黒髪と、すっと伸びた鼻筋と、シンメトリーに配置された二重の瞳、それからその下にあるぷるんとした唇……要するに顔だ。ついでに太りにくい体質なのか、いくら食べても脂肪にはならない。
ここまで話せば大抵の人は、『私』が見た目だけが取り柄の中身のない薄っぺらな奴なんだと思うだろう。
大正解です。
そんな自分をはっきり自覚出来たのは、この唐突に蘇ったいわゆる前世の記憶のせいだ。
『前世の私』は、二次元ヲタクをこじらせた、デブで顔も汚いどうしようもない容姿だった。
でもそれでも、日々の糧を得る…否、『推しの生活を守るため』に、精力的に働いていたのだ。性格としてはキビキビしっかりはっきりと。思ったら即行動。二次元の推しを愛でる為の出費は惜しまず、稼いだ金は最低限の生活費を補えばアニメやマンガ、グッズ等に消えていった。
30過ぎて恋人の1人もいたことが無くて、言ってしまえば喪女だった。男だったら魔法使いになっていたところだ。
でも、だからって気にしてなかった。多少思うところがないとは言わないけど、それでも二次元の推しのケツを追いかけているほうが性に合っていたのである。
───でもそんな私が唯一、ハマった三次元の俳優さんがいた。
椎井 勇人。
ヲタク仲間に薦められた特撮作品、『マジック☆プリンス ライト』、略して『マジ☆プリ』の主人公、麻縞 陽を演じていた人だ。休日の朝に幼児向けに放映されていたその作品に私はどハマりしていた。
テレビ放映分のDVD-BOXも購入したし、映画化した際のDVDも特装版を購入したし、モデルとなった町の聖地巡礼だっていったし、出演した演者さんのSNSもフォローしたし作品終了後もこまめに応援をしていたと思う。残念ながら放映期間の一年を終え、そこから更に一年が経つ頃には私は別ジャンルに移動してしまったのだが。
だが、だからこそここで、いま覚えている知識をまとめておかねば!
『マジック☆プリンス ライト』は、主人公の麻縞 陽が突如目覚めた聖魔法使いとしての力を駆使し、悪の組織『アンダー・オーダー』(略して『アンオダ』)と『プリンス ライト』として戦っていく物語だ。
『アンダー・オーダー』はDr.デビルを筆頭に人々を闇魔法で襲い、その心のエネルギーを奪い取ろうと日夜画策している組織で、分かりやすい敵役だ。
『アンダー・オーダー』が用いる闇魔法に対抗できるのは聖魔法だけ。だが、この世界で聖魔法を使えるのは主人公の陽だけなのだ。
だから、アンオダは自分たちの邪魔をしようとするヒカルを殺そうと頑張るのよね。
実はこの世界の魔法の種類は使われる魔力の属性で決まり、普通の人は闇属性の魔力しかない。そして聖属性の魔力を持ってるのが主人公しかいないから、アンオダ幹部でDr.デビルの覚えもめでたい夜人様にライバル認定されるのだ。そして、ナイト様は『プリンス ライト』に執着していく。
確か1話の最後にちらっと出てきて、それから毎回ナイト様はちょこちょこヒカルに関する指示を出していくの。4話目くらいでヒカルの前に姿を現して『貴様の存在がこの世界を滅ぼすのだ』とか言ってね。
けど殺伐とした戦闘シーンとは別に、お互いが変身する前に街で出会ってしまい、夜人とヒカルは徐々に距離を詰めていく。ローブを被れば正体が分からなくなるという御都合主義が働いてるから、危うい均衡を保ちながら2人はお出かけしたり、なんならひったくりを捕まえて一緒にヒーロー扱いされたりしてたのだ。でもその全ては、ヒロインが2人の前に現れたことで終わってしまう。
実はマジプリのヒロインはアンオダのボス、Dr.デビルが創り出したホムンクルスだ。彼女は魔法を増幅させたり減退させたりすることができ、なにより、その魂の半分をDr.デビルの研究室にて操作することによって、アンオダメンバーのパワーアップを図っていた。
ナイト様はヒロインの恩恵を受けていたわけではなかったけれど、その他大勢の部下たちが敵の怪人となる為にはその力が必要だった。
だから、ヒロインを助けようとしたヒカルに困惑し、変身したヒカルに絶望し、分かり合えない現実を悲嘆した。─ええ、ここまでの流れはよく覚えています。私はナイヒカ派でしたので。
確かそこから先はヒロインが敵の手に落ちて、失われていた精神のアップデートだかインストールだかが行われたり、ヒカルくんの聖属性の魔力を吸い取ったりなんだりして…最終的にヒカルくんはナイト様を討って、その時に死ぬ。ヒロインは多分生きてた気がするけど、よく覚えてない。確か生きてる。八割がた生き残ってる。…私の推しカプは死んだがな!!
ここまでの流れを見ていただければわかるかもしれないが、マジプリはけして幼児向け作品ではなかった。いや、時間帯もフォーマットも幼児向けではあったんだけれども、幼児に理解できる世界観の話ではなかった。
だって最終的にメリバだよ??皆んなが応援してきたヒーローは、彼と人気を二分してきた敵幹部の1人と戦って死ぬんだよ?ボスであるDr.デビル戦では生き残ったのにも関わらずだよ??意味がわかんなくない??なんで戦う必要があったのかとか、絶対に皆んな理解出来なかったでしょ。
まあ、強かな腐女子だった私は放映後に泣きながら2人の幸せを願って二次創作してたけどね。逆行モノ転生モノだって読み漁りましたよ。『ナイヒカ 転生』『ナイヒカ 逆行』のキーワードでいくつもの作品を読み倒しました。物足りなくなってヒカナイの検索だってしました。つまりそういうことです。
……ま、そういう話は置いておいて。
マジプリの舞台は『アカリ市』。太陽の光に愛された町。──『今の私』、『垰 灯火』が生まれ育った街でもある。
普通の大学生をしていたヒカルは、『アンダー・オーダー』に攫われた女性を助けようとして聖魔法使いとしての力に目覚める。それがヒロインとの出会いの回だ。第1話の見せ場の一つだったのでよく覚えている。
そんでもって、なんとなーく、なのだが。
『垰 灯火』って、ヒロインの名前だった気がするんだよね。
やけにぬぼっとしたヒロインで私は正直好きじゃなかったんだけどさ。後半でやけに展開が入り組んでヒロインが敵側に落ちた後からは納得の連続だった記憶があるんです。そしてヒロインのこともなんだかんだで嫌いになれなかった気がするのです。……等々、ここまで纏めてから、私は気付いてしまった。
物語通りに展開するなら、私、闇落ちするヒロインなんじゃない?と。
主人公は腐方面の方でした。