第十三話・図書室で
このお話から最終話までは、第三者視点で物語を進めます。
「………許せない」
愛華は今、教室の真ん中に仁王立ちし、怒りでわなわなと震えていた。
「おい上月、どうした?」
先生が不審に思って声をかけてくる。それを愛華は無視して、
「先生、今日早退します」
それだけ言うと、愛華は鞄を持った。
「お、おい、上月!理由があるなら言いなさい!勝手な早退は許可しないぞ!」
先生がそう怒鳴るような声で言う。すると愛華は
「なら、許可させるだけですが」
それだけ言うと、近くにあった誰かの机を先生に向かって投げた。
いや、放った。
それは、恐ろしく速い速度で先生の体に直撃し、
「ぐ……はぁ!?」
先生は呻いて倒れた。
クラス中が愛華に注目する中、
「じゃ、早退します♪」
口調は可愛いが表情は冷酷に、去っていった。
唖然とする生徒と、気絶した先生をその場に遺して。
愛華には、この犯人の見当がだいたいはついていた。
なぜなら、愛華がいる場所にはよくいる「あの人」なら、愛華の近辺の事だって探りを入れることは出来たからだ。
だからこそ怒っていた。
だからこそ許せなかった。
自分を騙し、嘲笑ったあの妖しいあの人が。
そして。
心の内はとても醜かったあの人が。
愛華はもう、いつもの気弱な女子小学生ではなかった。
瞳に冷酷な光と強い意思を宿し。
口にはうっすらと微笑さえ浮かべている。
もう誰も止められない、暴力少女と化していた。
「……ここにいた」
愛華はその、目的の人物を見つけた。
「その人」は、図書室にいた。窓際の机に腰掛け、外を見つめていた。
「おや、早かったね。もう少し遅いと思ったけれど」
「その人」は、そういうとゆっくりとこちらを振り向いた。
「愛華ちゃん………いや、暴力少女さん」
「峰崎……カイ。絵美奈をかえして」
愛華がそういうと、カイは愛華をまっすぐ見つめ、こういった。
「おや、たった三、四回しか会ってないのに、呼び捨てとは酷いなぁ。それに、書いたはずだよ。『闇雲に助けに来たら、清水絵美奈の命は無いモノと思え』と」
「ああ。書いてあったわね。でも、闇雲に助けに来たわけじゃないのよ?あんたと、戦に来たわけ」
「いい覚悟だね、愛華ちゃん………いや、暴力少女。だが、ここでは狭すぎる」
そう言うと、カイは不敵に笑った。
まるで、愛華を試そうとするように。
そして愛華も、冷酷に笑った。
まるで、自分が負けることが無いかのように。
「さ、早く図書室から出てくれ」
「え?」
愛華は少し不審に思ったが、素直に従うことにした。
「愛華…………!!」
図書室の貸し出しカウンターの奥に縛られて、本に埋もれた人影は、その様子をしっかりと見ていた。
それを知っているカイは、愛華が図書室から出た後、絵美奈の瞳をまっすぐ見て、言った。
「君は僕の妹の『峰崎惣実』で、君には親友なんていない」
そう、二、三回いい続けると、絵美奈の目つきがトロンとして来た。
「さ、惣実。僕と一緒に悪いやつを助けに行こうか」
「はい、お兄ちゃん」
彼女は完全に、洗脳されてしまった。