7話 それぞれの勇者
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それでは、どうぞ!
気が付けば礼音たちは中世ヨーロッパのような石造りの大きな部屋の中心に立っていた。
礼音たちが部屋をきょろきょろと見ていると、礼音たちの正面にある重厚な扉が開き、豪奢なドレスを身に纏った赤髪の美少女が数名の護衛のためと思われる騎士を引き連れて入ってきた。
赤髪の美少女は礼音たちの目の前にまで歩いてくると、すぐさま頭を下げた。
「申し訳ございません。私たちの事情で関係のないあなた方をこの世界に召喚してしまって。許されないことだとはわかっております。しかし、謝らせてください。本当に申し訳ございませんでした!」
その姿に後ろの騎士が慌てている。
「フィリナ様。貴女は王女なのですよ。いくら勇者とはいえフィリナ様が頭を下げる程では……」
「黙りなさい。私が王女だからこそ謝らねばならないのです。そのようなこともわからないのであればこの部屋から出ていきなさい」
そこまで言うと、騎士たちは静かになった。
騎士たちに叱責している間も赤髪の美少女――フィリナは頭を下げたままだった。
その姿は日本の若者には長い間見ていられるものではなく、代表して礼音が声を掛けた。
「あの、もう頭を上げてください。それより、説明を頼めますか?」
礼音たちはフィリナがあの神の使徒かはわからなかったが、とりあえず説明を求めた。
「そ、そうですね。それでは、説明の前に食堂へご案内します。そちらの方が皆さんも安心できるでしょうから。ああ、その前に自己紹介を。私はこの国【アステカ王国】第一王女フィリナ・フォン・アステカと申します。どうぞお見知りおきを」
確かにこの部屋よりかは座れるであろう食堂の方が落ち着くだろう。話を聞くにも落ち着いていた方がいい。
礼音たちはフィオナの提案に乗り、フィオナの案内で食堂へと移動した。
食堂は先ほど礼音たちが召喚された部屋よりも広く、巨大なシャンデリアなどで彩られた豪華な内装をしており、まさに王族の食堂といえるものだった。
その食堂のちょうど真ん中に横長い一続きのテーブルがあり、その左右に椅子が10脚づつ並べてあった。テーブルには所狭しと豪華な食事が並べられてた。
何故、召喚された者は5人しかいないのに、こんなに所狭しと料理が並べられているのか。それは、礼音たちの他に呼ばれた者たちがいたからだ。
礼音たちがフィリナに案内されて食堂に入ると、先に食堂に来ていた者たちの視線が礼音たちに集まった。
「なあ、フィリナ。あの人たちは誰なんだ?」
光がフィリナに尋ねる。光が『フィリナ』と呼び捨てにしたのはフィリナ自身がそう呼ぶことを許可したからだ。その時にはもちろん護衛騎士はいい表情はしなかったが、彼らの信用はこれから勝ち取っていくしかない。
「はい。彼らは【カルゲン】の勇者様たちです」
礼音たちは疑問を覚えたが、フィリナがもう説明を始めそうだったので、飲み込んだ。
「私たちから見て手前の右端の御方が〈炎の勇者〉エン様」
〈炎の勇者〉エンは右手を挙げて応える。エンは、赤髪の男で、細いがきちんと鍛えられているのが見てわかった。
フィリナは、エンから順に左に向かって紹介していく。
「〈水の勇者〉スイ様」
〈水の勇者〉スイは一度立ち上がって礼をする。スイは青髪の女性で優し気な目元と豊満な体であるため優しいお姉さんのイメージがある。
「〈風の勇者〉フウ様」
〈風の勇者〉フウは座ったまま軽く礼をする。フウは緑髪でスレンダーな女性だ。耳がとがっていることからエルフであることがわかる。
「〈岩の勇者〉ガン様」
〈岩の勇者〉ガンはよろしくな、と言いながら手を挙げる。ガンは茶髪でがっしりした体つきをしている男だ。背が周りより低く、髭が濃いことからドワーフであることがわかる。
「〈雷の勇者〉ライ様」
〈雷の勇者〉ライは鋭い目線を礼音たちに向けるだった。ライは金髪の女性だ。フウより
少しメリハリがある体つきをしている。美しいが触るなオーラを纏っている。
「〈聖の勇者〉セイ様」
〈聖の勇者〉セイは笑顔で手を振っている。セイは金髪がかった白髪をしており、その笑顔から好青年の印象を受ける。
「〈闇の勇者〉コク様」
〈闇の勇者〉コクは軽く会釈するとすぐに礼音たちから目線を外した。コクは黒髪の男で全身黒装束で不気味な雰囲気を纏っている。
「〈朱雀の勇者〉スザク様」
〈朱雀の勇者〉スザクはやっほーっと手を振っている。スザクは紅髪の女性でスイほどではないが豊満な体躯をしている。
「〈玄武の勇者〉ゲンブ様」
〈玄武の勇者〉ゲンブはよろしく頼む、と頭を下げた。ゲンブは濃い茶髪でガンと同じくドワーフだ。
「〈白虎の勇者〉ビャッコ」
〈白虎の勇者〉ビャッコは手をひらひらとして応えた。ビャッコは青みがかった白髪をしており、背は低く絶壁である。
「〈青竜の勇者〉セイリュウ様」
〈青竜の勇者〉セイリュウは、ん、と頷いた。セイリュウは紫紺の髪をしていてスイに負けず劣らずの体をしている。
セイリュウは手前の席には座れないので礼音たちから見て奥の左端に座っている。
「では、今度はセイリュウ様たちに紹介させてもらいますね」
フィリナが礼音たちの紹介を始めようとしたところで礼音は自分たちでするとフィリナを止めた。
「私は音無礼音といいます。よろしくお願いします」
礼音が頭を下げると、綺麗な青い髪がふわっと宙に舞った。それは大和撫子を彷彿とさせる見事な所作だった。
「新垣アリスです。皆さん、よろしくお願いします」
まるで漆黒で編まれたような黒髪を靡かせながらアリスは、見本のような礼をする。
「来潮咲良と申します。皆さま、よろしくお願い申し上げます」
咲良はこれまた美しい礼をした。その時に短く切り揃えられた金髪が舞った。咲良の話し方は昔から母に仕込まれたもので、今や咲良の個性とし定着している。
「神童神威です。よろしく」
神威は軽く頭を下げるだけだった。もともと神威は人見知りなので目の前に大勢の初対面の人がいる状況で挨拶ができたこと自体すごいことだ。目に掛かりそうな黒髪も神威の性格が出ているところだ。
「えっと、咲山穂乃花です。その、よろしくお願いします!」
穂乃花は上半身をほぼ90度に曲げて挨拶する。上の方で纏めた緑髪のポニーテールが元気に跳ねる。穂乃花は天真爛漫で明るい性格なのだが、初対面では少し舞い上がってしまう嫌いがある。
「月詠光です。よろしくお願いします」
光は一度にかっと笑ってから頭を下げた。光は所謂鈍感系主人公である。挨拶での笑顔も少しでも相手の緊張を和らげられればという意識のもと行われている。その笑顔だけで十分なのだが、白髪と紅眼がイケメンに拍車を掛けている。
全員の自己紹介が終わると、エンが笑い声を上げた。
「これはまた、化けそうな連中だな」
その言葉に礼音たちは首を傾げたが、その意味を問い質すことはできなかった。
「申し訳ありません。今お話しは遠慮していただいてよろしいでしょうか。これからお話しする機会は巡ってくると思いますので」
一度礼音たちと他の勇者たちを見渡し、頷いたフィリナは改めて口を開く。
「それでは、あなた方勇者様と礼音様たちをお呼びした理由を説明したいと思います」
言い終わると同時にタイミングを計るように――実際計っていたのだろう――食堂の前方、つまり礼音たちから見て右――食堂の扉は四方にある――の扉が開き、フィリナよりも豪奢な恰好をした初老の男性と燃えるような赤髪と背中に3対の白い翼を持つ絶世の美女が入ってきた。
8/27 美しい金髪→燃えるような赤髪 に変更しました